オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ アルゼリシア山脈・夜の稽古場 /*/
夜風が冷たく吹き抜ける谷間。焚火の明かりが遠くに揺らぎ、静寂を破るのは虫の声と草のざわめきだけだった。
ジョンはひとり、月明かりに照らされる平地に立ち、拳を構える。
「……正拳突きの最後の捻り。ここに空気の圧を纏わせれば……」
何度も反復し、肩から肘、肘から手首へと伝える回転の連鎖を確認する。拳のひねりは本来、衝撃を伝えやすくするためのもの。しかし彼の狙いは別にあった。空気そのものをねじ込み、回転する刃に変えること。
深く息を吐く。足裏が大地を捉え、腰がしなる。全身を一本の槍のように絞り上げ――正拳突き!
「はッ!」
拳が突き出される瞬間、手首を極限までひねる。その動きに従って空気が巻き込まれ、拳先から銀白の帯が走った。
ゴォォォォ――ッ!
耳を打つ轟音。拳の先から放たれたのは、横に奔る竜巻だった。地を這うように駆け、枯れ草を巻き上げ、数メートル先の木々へ直撃する。
ドガァァァン!
幹が唸りを上げ、葉が吹き飛ぶ。三本の樹木が一斉になぎ倒され、破片が宙に舞った。風圧でジョンの髪すら逆立つ。
「……出たか」
息を荒げ、拳を見下ろす。皮膚は赤く爛れ、じんじんと痺れるような痛みが走っていた。拳そのものにかかる負担は想像以上だ。しかし確かに、ただの突きが竜巻を生み出したのだ。
「ソニック……トルネード、か」
呟いた名が夜気に溶ける。力を得た実感と同時に、恐怖にも似た震えが背筋を走った。もしこれを人に向けて放てば――骨も肉も一瞬で引き裂かれるだろう。
その時、焚火の側から声がした。
「ジョン様ぁ……何やってんすか?」
ルプスレギナがこちらを覗いていた。いつもの笑顔を浮かべながらも、背後の倒木を見て目を丸くしている。
「ちょっとした実験だよ。新しい技のな」
「へぇ……また怖いもん作りましたねぇ。あれ、当たったら人間なんて粉々っすよ?」
「だからこそ、使い所は選ばないといけない」
ジョンは拳を握り直し、もう一度振りかぶる。だが手首が強く抗議し、痛みによって動きが止められた。
「……まだ体が耐えられないか。改良の余地ありだな」
「うふふ、無理して壊れちゃったら私、困っちゃいますよ。ジョン様が砕けちゃったら、誰が遊んでくれるんすか?」
ルプスレギナがひょいと焚火の前に戻り、マグに注いだ温かい飲み物を差し出す。
「ほら、熱いうちに飲んで落ち着いてくださいな」
ジョンは受け取り、星空を仰いだ。
新技「ソニックトルネード」は未完成。しかし確かに、彼の拳に嵐を生み出す力が宿り始めていた。
焚火の火花が空へ昇り、彼の心に次なる挑戦の炎を重ねるように輝いていた。
/*/