オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

240 / 397
ソニック・トルネード

 

 

/*/ アルゼリシア山脈・夜の稽古場 /*/

 

 

夜風が冷たく吹き抜ける谷間。焚火の明かりが遠くに揺らぎ、静寂を破るのは虫の声と草のざわめきだけだった。

ジョンはひとり、月明かりに照らされる平地に立ち、拳を構える。

 

「……正拳突きの最後の捻り。ここに空気の圧を纏わせれば……」

 

何度も反復し、肩から肘、肘から手首へと伝える回転の連鎖を確認する。拳のひねりは本来、衝撃を伝えやすくするためのもの。しかし彼の狙いは別にあった。空気そのものをねじ込み、回転する刃に変えること。

 

深く息を吐く。足裏が大地を捉え、腰がしなる。全身を一本の槍のように絞り上げ――正拳突き!

 

「はッ!」

 

拳が突き出される瞬間、手首を極限までひねる。その動きに従って空気が巻き込まれ、拳先から銀白の帯が走った。

 

ゴォォォォ――ッ!

 

耳を打つ轟音。拳の先から放たれたのは、横に奔る竜巻だった。地を這うように駆け、枯れ草を巻き上げ、数メートル先の木々へ直撃する。

 

ドガァァァン!

 

幹が唸りを上げ、葉が吹き飛ぶ。三本の樹木が一斉になぎ倒され、破片が宙に舞った。風圧でジョンの髪すら逆立つ。

 

「……出たか」

 

息を荒げ、拳を見下ろす。皮膚は赤く爛れ、じんじんと痺れるような痛みが走っていた。拳そのものにかかる負担は想像以上だ。しかし確かに、ただの突きが竜巻を生み出したのだ。

 

「ソニック……トルネード、か」

 

呟いた名が夜気に溶ける。力を得た実感と同時に、恐怖にも似た震えが背筋を走った。もしこれを人に向けて放てば――骨も肉も一瞬で引き裂かれるだろう。

 

その時、焚火の側から声がした。

「ジョン様ぁ……何やってんすか?」

 

ルプスレギナがこちらを覗いていた。いつもの笑顔を浮かべながらも、背後の倒木を見て目を丸くしている。

 

「ちょっとした実験だよ。新しい技のな」

「へぇ……また怖いもん作りましたねぇ。あれ、当たったら人間なんて粉々っすよ?」

「だからこそ、使い所は選ばないといけない」

 

ジョンは拳を握り直し、もう一度振りかぶる。だが手首が強く抗議し、痛みによって動きが止められた。

 

「……まだ体が耐えられないか。改良の余地ありだな」

「うふふ、無理して壊れちゃったら私、困っちゃいますよ。ジョン様が砕けちゃったら、誰が遊んでくれるんすか?」

 

ルプスレギナがひょいと焚火の前に戻り、マグに注いだ温かい飲み物を差し出す。

「ほら、熱いうちに飲んで落ち着いてくださいな」

 

ジョンは受け取り、星空を仰いだ。

新技「ソニックトルネード」は未完成。しかし確かに、彼の拳に嵐を生み出す力が宿り始めていた。

 

焚火の火花が空へ昇り、彼の心に次なる挑戦の炎を重ねるように輝いていた。

 

 

/*/

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。