オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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知恵の実のアップルパイ

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・第九階層 モモンガの執務室 /*/

 

 

厚い石壁に囲まれ、淡い青白い光が執務室を照らす中、ジョンとモモンガは書類や地図を広げ、ナザリック運営の次の方針について打ち合わせを進めていた。言葉が途切れた瞬間、扉が静かに開き、ルプスレギナが顔を覗かせた。金の瞳を輝かせ、尾を揺らしながら、両手で銀のトレイを抱えている。

 

「ジョン様、モモンガ様っす! 打ち合わせの合間に、特別なおやつを持ってきましたっす♪」

 

トレイの上には、焼きたてのアップルパイが並び、黄金色の生地の上には小さな「知恵の実」がトッピングされ、湯気と甘い香りが室内に広がる。シナモンの香りとリンゴの甘酸っぱさが、張り詰めた会議の空気を和らげた。

 

ジョンの目が輝く。フォークでひと切れを取り、口に運ぶと、外はカリッと、中はしっとりと柔らかく、知恵の実の魔力が脳に流れ込む。頭がクリアになり、複雑な戦略や計画が瞬く間に整理され、手元の書類も次々に片付いていった。

 

「……うまい。これは……!」

 

モモンガは横でその様子を羨望のまなざしで見つめる。彼はアンデッドであり、食べ物の味も魔力アイテムによる知恵バフも享受できない。ルプスレギナがジョンに差し出すたび、指をくわえて見守るしかない。

 

「ふふっ、ジョン様が美味しそうに食べてくれるの、わたしだけの特権っすから。モモンガ様や他の人には渡さないですっ」

 

ルプスレギナは小さく胸を張き、視線をじっとジョンに向ける。その瞳には嫉妬と独占欲が入り混じる。尻尾が机の下でそわそわと揺れ、誰にも邪魔されず自分だけが彼の側にいるという意思を強く主張していた。

 

「アルベド様なら……ジョン様に食べさせないで、全部自分のものにしようとするかもしれないっすね。わたし、負けたくないっす」

 

ルプスレギナはちらりと部屋の隅、黒い装束に身を包んだアルベドの気配を感じ、軽く唇を引き結ぶ。アルベドもまた、モモンガを独占したい一心で控えめにこちらを観察している。だが、ルプスレギナの熱意と独占欲には、さすがのアルベドもほんの少し押され気味に見えた。

 

ジョンはパイをもう一口食べると、知恵のバフがさらに強くかかり、書類や地図の整理が格段に捗る。複雑な計算式や戦略の組み合わせも、頭の中で瞬時に形になり、メモや矢印が書き込まれていく。

 

モモンガは横目で舌打ちに近い音を立てる。羨望と悔しさで胸が詰まる。自分は味わえない、魔力の恩恵も享受できない――ただ見ているだけ。アルベドが自分の視線に気づき、にやりと微笑む。独占欲の強さでルプスレギナに対抗しようとしているのは明らかだ。

 

ルプスレギナはそんなアルベドに目配せをし、軽く唇を歪める。「負けないっす。ジョン様は、わたしだけのジョン様っすから」

 

アルベドは軽く肩をすくめ、少し悔しそうに視線を逸らす。その瞬間、ルプスレギナはジョンに寄り添い、柔らかな体温を感じさせる距離で座った。尾が小さく揺れ、嫉妬心と独占欲が室内の空気に微妙な圧として漂う。

 

ジョンは苦笑しながらも、フォークでパイを口に運び、コーヒーを傍らで流し込む。知恵の実の効果で、打ち合わせはこれまでにないほどスムーズに進む。ルプスレギナの独占欲、アルベドの視線、モモンガの羨望――それら全てが室内の空気を刺激し、いつもの執務室とは少し異なる、甘くも張り詰めた、しかし効率的で活気のある時間が流れていた。

 

パイの甘い香りと、知恵の実の効果、そしてルプスレギナの独占的な眼差し。それらがジョンの知性を刺激し、モモンガの羨望を増幅させ、アルベドの独占欲を微妙に揺さぶる――ナザリックの地下世界における、ほんのひとときの甘く危うい平穏であった。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・第九階層 モモンガの執務室 /*/

 

 

ルプスレギナの嫉妬と独占欲に押され、モモンガはしばらく傍観していた。しかし、ジョンが知恵の実入りアップルパイを頬張る姿を見ているうちに、やはり自分も一口味わいたいという衝動が抑えきれなくなった。

 

「……よし、人化しよう」

 

モモンガは短く呟くと、アンデッドの姿から人間形態に変化した。細身だが筋肉の引き締まった体に変わると、頭上の仮面のような骸骨は消え、穏やかな表情をした青年の顔が現れた。ジョンとルプスレギナ、アルベドの三人の視線が一斉に彼に集まる。

 

ルプスレギナは軽く尾を揺らし、少し拗ねたように言った。「ふむ……まぁ、これなら少しだけなら……」

 

そう言いながらも、モモンガに一切れだけパイを差し出した。黄金色のパイに、知恵の実の小さなトッピングが光る。香ばしい甘い香りが漂い、モモンガの頭の中に甘い欲求がじわりと広がる。

 

「……いただきます」

 

手に取ったパイを口元に運びかけた瞬間、アルベドがすっと前に出てきた。黒い装束を翻し、まるで女神のように優雅な所作で、モモンガの手からパイを受け取る。

 

「モモンガ様、こういう時は私が――あーん♪ して差し上げます」

 

彼女は微笑みを浮かべ、指先でパイの角を軽く持ち、モモンガの口元に運ぶ。その視線には甘く柔らかな独占欲が満ちている。ルプスレギナの嫉妬が空気を振動させ、尾が軽くぶるぶると揺れる。

 

「え、あーん……?」

 

モモンガは少し戸惑いながらも口を開ける。普段は味わえない甘さを前にして、青年の顔は自然と柔らかくなる。アルベドはゆっくりと口元にパイを運び、微笑を絶やさない。

 

「ふふ、どうぞ召し上がれ♪ 私が差し上げる特別な一口です」

 

モモンガが口を開けると、アルベドは優しくパイを差し込み、甘い香りとともに知恵の実の魔力がほのかに彼の体に流れ込む。口の中でとろけるカリッとした生地、甘酸っぱいリンゴ、香ばしいシナモン――全てが混ざり合い、モモンガの思考もわずかに冴え渡る感覚を覚えた。

 

「……う、うまい……!」

 

思わず小さな声が漏れる。ルプスレギナは尾をぶんと揺らし、アルベドに視線を向ける。嫉妬と独占欲が混ざり、微妙に歯ぎしりのような音を立てながらも、内心では「ジョン様だけでなく、モモンガも甘やかしてあげたい」と思う複雑な感情が湧く。

 

アルベドはそれに気づかず、穏やかに微笑んだまま、モモンガの口元にさらに小さくパイを運ぶ。「ほら、もっとゆっくり、味わってくださいね。私の特製ですから」

 

モモンガは口の中でパイを噛み締め、甘味と知恵の実の魔力を体内で感じ取る。頭の回転は少しずつ鋭くなり、打ち合わせの内容を思い出しつつ、同時に幸福感に包まれる。アルベドに食べさせてもらうという体験は、普段の執務室ではあり得ない特別な瞬間だった。

 

ルプスレギナは少しふくれっ面をしながらも、内心では満足そうに眺める。嫉妬と独占欲が混ざった複雑な感情は、モモンガが楽しむ姿を見て緩む。モモンガは人化して口に広がる甘味に頬を緩ませ、アルベドの微笑みに少し赤くなる頬を見せる。

 

こうして、ナザリックの執務室には、仕事の合間に甘く柔らかな時間が流れた。知恵の実入りアップルパイが、ジョンとモモンガの知恵を刺激し、ルプスレギナとアルベドの独占欲が静かに揺れ、地下大墳墓の冷たい石の空間の中に、ほんのひとときの温かさと甘い緊張が漂ったのだった。

 

 

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