オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/エ・ランテル冒険者組合訓練所/*/
訓練場の片隅で、ニニャがそっと声をかけた。
「蒼の薔薇のイビルアイさんですよね。ちょっと、これを見て欲しいのですが」
差し出されたのは、彼女自身の魔法研究の論文だった。ページには数式や魔力の流れを示す図がびっしりと書き込まれている。
イビルアイは仮面越しに食い入るように見つめた。
「……なんだ、これは。は……」
視線が文章と図を追う度に、仮面の下で微かに驚きと興味が見え隠れする。
その様子に、ガガーランが肩をすくめて声をかけた。
「どうした? おちびさん」
イビルアイは軽く手を上げ、遮るように言う。
「すまん。ちょっと静かにしてくれ」
ガガーランは肩を竦め、笑みを浮かべた。
「お嬢ちゃんのレポートがそんなに気を引いたのか」
イビルアイはページをめくりながら、理解を示すように頷いた。
「これは、時間と空間に対する魔法干渉のレポートだな。非常に興味深い……」
仮面越しの視線が真剣に輝く。
「この理論のこの部分があると言うことは……お前も〈転移〉を使えるのか」
ニニャは少し照れくさそうに答えた。
「はい。使えるようになったのは最近ですけど……」
師匠(ジョン)の特訓で……と続けようとしたが、言葉を濁す。
イビルアイは少し柔らかく、理解を示すように小さく頷いた。
「ああ、あれはキツイだろうな……」
ニニャの胸の奥で、尊敬と安心感が交差した。
こうして、訓練だけでなく、学問や魔法の知識を通じて冒険者同士が静かに信頼を築いていくのだった。
イビルアイは論文のページをめくりながら、静かに問いかけた。
「非常に興味深いな。特に〈転移〉の応用で、空間を越えた先の異世界を覗き見るという部分だ。師に禁じられているようだが……これはどういうことだ?」
ニニャは少し顔を曇らせ、言葉を選ぶ。
「はい……覗き見た先で感知され、ティンダロスの猟犬に襲われてしまったことがありまして。そのため、師匠の同席の上で実験をするように言われています」
イビルアイは仮面越しに真剣な視線を送った。
「なるほどな……。危険な実験だったわけだ」
ページの図や数式を指で追いながら、声のトーンは落ち着いているが興味が深そうだ。
「機会があれば、私も同席したいものだ。私の専門は精霊系統だが、〈転移〉の使い手として、助言できることもあるだろう」
ニニャは少し驚きつつも、目を輝かせる。
「本当ですか! ぜひ……そのときは、よろしくお願いします」
イビルアイは静かに頷き、論文に目を戻す。
「精霊と転移……うまく組み合わせれば、想像以上の応用ができるかもしれん」
二人の間に、学問と実戦の経験を交えた静かな興奮が漂った。
訓練場の喧騒の中で、こうして冒険者同士の知識と信頼は、少しずつ積み重なっていくのだった。