オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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カヌレせんか?

「んー甘ぁ~い!」

 

エンリはカヌレを口いっぱいにほおばり、満足そうに頬を押さえた。ほろ苦い皮はカリカリ、もっちりとした中身からは洋酒の香りがふわりと漂う。幸せそうな笑顔を見て、ンフィーレアも自然と微笑む。

 

「でも、前に食べたのと一寸違うね?」

「前に食べたのはカルバインさんが作ってくれた奴だからね」

 

ンフィーレアが苦笑して答える。村ではまだ材料が十分に揃わない時期に、ジョンがナザリックから持ってきた特別な材料で作ったものだった。

 

「村で材料が揃えられるようになったからね。全部、村で採れたもので作ったんだよ」

「え?じゃあ、これ!いつでも食べられるの!?」

 

エンリの瞳は輝き、嬉しさが止まらない様子だ。

「うん。形も良いし、日持ちもするから〈工房〉の商品として売り出すつもりだしね。……食べ過ぎないようにね」

「うん、わかってる!ありがとう!ンフィー!大好き!」

 

エンリの熱い愛情の叫びに、ンフィーレアは心の中でくすくす笑う。お菓子への愛がちょっと勝っている気もするが、それでも「大好き」と言われて悪い気はしない。

 

ンフィーレアは心の中で、今回のカヌレ作りでの自信を噛み締める。村の材料だけで、正確に味を再現できるのは自分くらいだろうという自負がある。簡単なお菓子作りのレシピは村の女衆にも教えているが、秤を持たず、文字や数字も読めない者が多く、記憶頼りだとどうしても個人差が出てしまう。窯の温度管理も〈錬金炉〉を使えば180℃で5分、次に230℃で15分と正確に焼けるが、村人には難しい。

 

「やっぱり、僕、錬金術士で良かったな」

 

ンフィーレアはそう思いながらも、ジョンの支援のありがたさをかみしめる。レシピを惜しげもなく開示し、錬金用具も貸してくれるジョンがいたからこそ、村の材料だけでこれだけ美味しいカヌレが作れたのだ。

 

「ポーション作りが一段落したら、僕も新しいレシピに挑戦しよう」

 

ンフィーレアは心の中でそう決意し、次の創作の構想を練り始める。

カヌレの香りが工房に広がる中、二人の穏やかな午後はゆっくりと過ぎていった。

 

 

/*/

 

 

「こんにちはー!荷物を引き取りに来ましたー!」

 

ンフィーレアとエンリがお茶とお菓子を楽しんでいた〈工房(アトリエ)〉に、そう言って入ってきたのは冒険者のペテル・モークだった。後から仲間のルクルット、ニニャ、ダインもぞろぞろと続いてくる。

 

「はーい。今、奥から取ってきますね」

 

店の奥からエ・ランテルに卸すポーション3種類――薬草から作ったモノ。薬草と魔法で作ったモノ。魔法で作ったモノ――を、それぞれ箱詰めしたものを〈浮遊板(フローティング・ボード)〉の魔法で作り出した板の上に乗せて、表の方に運び出す。

箱の中身は、30本20本10本ずつになる。これだけでも卸値は金貨200枚になる高額商品だ。これらは冒険者組合に卸す主力商品である。その他にカヌレを初めとしたお菓子や蒸留酒なども漆黒の剣は運び出し、表で待っていたゴブリン達と協力して馬車に積み込んでいく。

 

「ああ、私のお菓子が……」

「エンリの分は別に作ってあるでしょ」

 

エ・ランテルが王国から魔導国支配に切り替わって、まだ日も浅い。

 

魔導国が人種種族を一切区別しない方針を掲げていても、やはりまだゴブリン、オーガだけの団体よりも人間がついている一団の方がエ・ランテルでは活動し易かった。漆黒の剣としても定期的に収入を得られる仕事はありがたく利害は一致していた。

 

他には村の未亡人などが作っている〈携帯燃料(牛フンケーキ)〉も冒険者組合に卸している。高速〈四輪作法(ノーフォーク農法)〉で日々の食料が安定供給できる目処がついたので、普通に育てた農作物も売り物に出来るようになったのも大きい。

 

「今回の売上でジュゲムさん達の装備を発注してくるんですよね?」

「ええ、お願いします。ペテルさんが契約書とかにも詳しくて助かりました」

「はは。家は継げないと思って冒険者になったんですが、まさかここで家での経験が活きるとは思いませんでしたよ」

「……人生は何があるか分からないであるな」

 

最終的に馬車数台に高額商品から食料品まで満載したキャラバンとなり、護衛はゴブリン軍団10名にオーガ3名。それに冒険者〈漆黒の剣(プラチナ級)〉4名と大所帯である。キャラバンを見回して、ペテルはンフィーレアに零す。

 

「……ンフィーレアさん。最近、思うんですよ。これもう商会立ち上げた方が早いよなぁーって」

「あははは……」

「冒険商人も悪くないんですが、もっとこう冒険したいなーって贅沢な悩みですね」

 

後年、漆黒の剣のペテルは冒険商人として名を馳せる……かもしれない。

 

 

/*/

 

 

馬車に荷物を積み終え、護衛も配置された。ゴブリンたちは目を輝かせ、オーガたちは力強く馬車の前に立つ。冒険者たちは各自の持ち場につき、準備万端だ。

 

「よし、出発するぞ!」

ペテルの掛け声に、ゴブリンたちが元気よく応え、オーガたちも地面を踏み鳴らす。馬車の車輪がゆっくりと回り出し、キャラバンはカルネ=ダーシュ村の石畳を揺らしながら進む。

 

道すがら、村人たちが手を振って見送る。子供たちは「いってらっしゃーい!」と叫び、大人たちは微笑みながら荷物を無事に届けてくるよう願う。

 

馬車の護衛に立つゴブリンは、互いに小声で冗談を言いながらも、時折鋭い目で周囲を警戒する。オーガたちは重々しい足取りで前後を歩き、冒険者たちは空気を読みながら、馬車の進行に合わせて注意を払う。

 

「こんなに大所帯になると、ちょっとした戦列みたいだな」

ペテルが微笑み、馬車の上から眺める。

 

「まさに冒険商人の護衛隊って感じですね」

ンフィーレアも荷台に置かれた商品を確認しつつ、楽しげに答える。

 

キャラバンは村を抜け、カルネ=ダーシュの周囲を取り囲む森の小道に差し掛かる。小道は狭く、視界は木々に遮られるが、護衛の目は決して逸らさない。

 

「道中、気を抜くなよ」

ペテルの声に、ゴブリンたちが頷く。オーガたちも低く唸り、慎重に進む。

 

馬車が揺れるたびに、商品の箱や樽が微かに揺れ、時折ゴブリンが手で支える。冒険者たちも、揺れる荷台にバランスを取りながら、キャラバンの進行を見守る。

 

森を抜け、広い道に出ると、ようやく少し速度を上げられる。日差しが木々の隙間から差し込み、馬車や護衛の影が長く伸びる。風が軽く吹き抜け、乾いた土の香りと、運ばれる商品の甘い香りが混じり合う。

 

「さあ、これで一息だな。後は無事にエ・ランテルまで届けるだけだ」

ペテルは微笑み、馬車の進行を見守る。

 

ゴブリンもオーガも、冒険者たちも、全員がそれぞれの役割に誇りを持ち、村と自分たちの成果を背負って進む――そんなキャラバンの隊列は、まさに小さな冒険の一団のようであった。

 

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