オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 夢幻郷ドリームランド 蒼い薔薇 探索記録 /*/
蒼白い霧が地を覆い、空と地の境界が溶けたような世界。
風はなく、代わりに――記憶の残響のような囁きが、あちこちから絶え間なく流れていた。
ラキュースは剣を抜いたまま、足を止める。
「……気をつけて。何かいるぞ」
イビルアイが小さく呟き、魔力を抑える。視界の端――黒曜石のように光る鱗。
それは“人”のようであり、“蛇”のようでもあった。
頭は細長く、縦に割れた瞳孔がこちらを観察する。
ローブを羽織り、二足で立ち、長い尻尾が後方でゆるやかに揺れる。
その唇の代わりに開閉する口から、シュー……シュー……と呼吸の音が漏れた。
「久シキ時ノ彼方ヨリ……目覚メル者カ」
蛇人――その声はまるで風の擦れる音のようで、しかし意味を持っていた。
「我ハ《ナーカ・シャ=ルス》。目覚メル夢ノ記録者……。一万ノ巡り、孤独ニ研究ヲ続ケシ者」
ティアとティナが身を寄せ合う。ガガーランは低く唸り、斧を構えた。
「一万年……研究を?」
イビルアイの声は震えていた。
「然リ。夢ノ流レハ時ヲ越エ、此処ニ堆積ス。世界ハ幾度モ終ワリ、竜ノ世ガ訪レ、再ビ滅ビヌ。
――覚醒ノ世デハ、竜ガ支配スルカ?」
その問いに、ラキュースはわずかに眉を寄せた。
「……竜王たちはいます。でも、数は――減っていると聞いています」
ナーカ・シャ=ルスは長い舌を伸ばして空気を舐め取るようにし、再び低く囁いた。
「減ッテイル……トハ、終焉ノ兆シ。竜ハ時間ヲ喰ラウ者。
ソレラガ減ル時、時ノ流レハ歪ム。夢ハ濃ク、現ヲ侵食スル」
周囲の霧がわずかに色を変える。灰色が紫に、紫が黒に沈む。
その中に、数えきれぬ“過去の影”が揺らめいた――滅びた文明、燃え落ちる都市、そして翼を広げる巨大な竜の幻影。
「悠久ノ時ノ中ニ、無限ノモノハナカッタ。
全テハ夢ノ泡……覚メル前ニ弾ケ、忘却ノ淵ニ沈ム。
ソレヲ見届けルコト――ソレガ、我ノ研究ナリ」
静寂。
ラキュースは剣を下ろした。
「……あなたは、この“夢の中”に囚われているの?」
「囚ワレ……? 否。夢ト現ハ同一。
汝等ノ歩ム大地モ、遠キ昔、我ラノ夢ノ続キナノダ」
そう言って、ヘビ人間の魔術師はゆっくりと手を掲げた。
鱗の隙間から淡い金色の光が漏れ、彼の背後に、星々のような幾何魔法陣が広がる。
「竜王ノ減少ハ、“目覚メ”ノ徴。
次ニ訪レルハ、“夢ノ反転”――
現ヲ夢トシ、夢ヲ現トス世界ノ転覆。
汝等、蒼キ薔薇。
其ノ日、何ヲ守ル?」
イビルアイの瞳が赤く輝き、ラキュースは答えられぬまま、ただその問いを胸に刻む。
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