オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 夢幻郷ドリームランド ナーカ・シャ=ルスの研究塔 /*/
霧の海を抜けた先、
そこには――空へ伸びる一本の塔があった。
塔は白でも黒でもなく、**“透明な夜”**のような色をしていた。
見る角度によって、星の瞬きが塔の中を流れ、
それがまるで“時間そのもの”が液体になって塔を満たしているかのようだった。
「……これが、研究塔?」
ラキュースが呟く。
ナーカ・シャ=ルスは無言のまま先に進む。
扉は存在しない。ただ霧が裂け、道が開く。
蒼い薔薇の面々が一歩踏み入れた瞬間――世界が裏返った。
――音が遡る。
靴音が先に響き、次に足が動く。
吐いた息が胸へ戻り、目の前の光景が逆流していく。
「な……なにこれ……!」
ティアが叫んだ瞬間、声が喉に吸い込まれ、再び口の中に戻った。
「静マレ。此処ハ“時間ヲ観測スル塔”。
外ノ理ハ、通ジヌ」
蛇人の声だけが、唯一正しい方向で響く。
塔の内部には階段がある――が、それは上にも下にも伸びているように見える。
どちらに進んでも、同じ場所へ戻る。
時間が“循環”しているのだ。
壁には、無数の古代文字が浮かび上がり、やがてそれらが光の粒となって空中を漂う。
その光はラキュースの肩に降り、声にならない“記録”を彼女の脳裏に流し込んだ。
――竜王の即位。
――文明の繁栄。
――そして、崩壊。
それは歴史ではなく、“夢の再生”。
何千回も繰り返された同じ夢が、塔の中で再演され続けている。
「これが……あなたの研究?」
ラキュースの問いに、ナーカ・シャ=ルスは尾を揺らしながら答えた。
「然リ。時間ト記憶ハ似テ非ナルモノ。
記憶ハ朽チルガ、時間ハ循環スル。
我ハ夢ヲ通シ、時間ノ渦ヲ“固定”スル術ヲ求メタ」
イビルアイが瞳を細める。
「……固定する? つまり、過去を止めると言うことか?」
「否。過去ヲ止メレバ、未来ガ壊レル。
我ノ試ミハ、夢ノ中ニ“過去ノ鏡像”ヲ封ズルコト。
ソレニヨリ、現実ノ崩壊ヲ遅ラセル……」
その瞬間、塔の中心に巨大な球体が浮かび上がった。
それは“竜王の時代”の幻影――
空を覆う金鱗の巨影、山脈のような翼、そして炎の海。
「竜ノ支配スル時代ハ、世界ノ平衡点。
彼ラノ消滅ハ、夢幻郷ノ崩壊ニ繋ガル」
光景が逆転する。
崩壊した竜王の宮殿が再構築され、滅んだ種族が蘇り、死んだ竜が翼を広げる。
すべての出来事が――逆再生のように、時間の流れを逆行して再生されていく。
ガガーランが額を押さえる。
「こいつは……たまんねえな。
見てるだけで、酔う」
「無理もナイ。此処デハ、存在ノ順序スラ混沌。
生マレル前ニ死ニ、死ンダ後ニ再生ス」
ナーカ・シャ=ルスの目がラキュースに向けられる。
「汝等ハ、“現ノ夢”ノ民。
此処ニ長ク居レバ、夢ト現ノ境界ガ溶ケル。
記憶ハ時ノ渦ニ呑マレ、己ヲ失ウ」
イビルアイが一歩前へ出た。
「……あなたは、それでもここに居続けたのか」
「我ハ、夢ニ囚ワレタノデハナイ。
夢ヲ囚エタノダ。
永劫ノ中デ――唯一、終ワリヲ記録スル為ニ」
その言葉とともに、塔の外へ流れる星の光が止まり、
時間そのものが――完全に静止した。
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