オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 夢幻郷ドリームランド 時間逆流の塔・核心部 /*/
光が沈み、世界が変わった。
足下にあった石の床は消え、空の上に浮かぶ大地が広がる。
蒼い薔薇の五人は、立っているのがやっとだった。
――風が熱い。
それは空気というよりも、燃える魔力の潮流。
「……ここは……?」
ラキュースの声が震えた。
イヴィルアイが空を見上げ、息を呑む。
「見なさい。あれが――“竜の時代”。」
彼女たちの上空を、黄金の巨影が横切った。
翼一振りで雷雲を裂き、尾の一閃で山が砕ける。
十数体もの竜王が、空を覆い尽くすように飛び交い、
それぞれの咆哮が――法則を編み替えていた。
その声が響くたび、海が沸騰し、大陸が形を変える。
竜王たちは戦っていた。
人間ではない。
魔王でも、神でもない。
――「時」そのものを賭けた戦いだった。
「“時間を食らう”……って、あいつが言ってたのは、これのことか……!」
ガガーランが呻くように言う。
塔の外壁――いま彼女たちが立つその“幻視”の中心には、
巨大な黒曜石の玉座があった。
そこに座るのは、一体の古代竜王。
鱗は銀灰、瞳は無数の世界を映す鏡のよう。
その名を、
《灰色の王(グレイ・ドミニオン)》と呼んだ。
彼の周囲に浮かぶ魔導文字が、次々と実体化し、
ひとつの文明を築き上げていく。
――空に浮かぶ都市。
――魂を燃料にする魔導炉。
――時を停める学舎。
そのすべてが、竜王たちによって統べられていた。
「……すごい……これが、“竜の支配する時代”……」
ティアが呟く。
「でも見て。あれを」
ティナが指さす先――
竜王の足下で、膝をつく人間たち。
魔法の鎖に繋がれ、頭を垂れる。
彼らは“魂”を竜に捧げることで存在を許されていた。
「支配って……こういうこと、なのね」
ラキュースが、ゆっくりと剣を握る。
竜王の吐息が、世界を包み、
夢のように、人の記憶すら書き換えていく。
その瞬間、イビアイが頭を押さえた。
「ッ……だめ、これは……記憶が……混ざる!」
視界が二重に重なる。
彼女は見た――
己が、竜王に仕え、血の儀式に臨む姿を。
金の冠を戴き、
竜の影に跪きながら、“永遠”を乞う姿を。
「イビルアイッ!」
ラキュースの声が届かない。
周囲の空間が波打ち、現実と夢の境が曖昧になる。
竜王の声が響く。
それは言葉ではなく、存在の圧。
《我ラハ無限ニ在リ。
汝ラハ有限。
故ニ服シ、故ニ栄エヨ。》
その“神託”に抗うように、
ラキュースが剣を突き立てた。
「違う……!
無限がないからこそ、人は夢を見るのよッ!」
その叫びが、塔の内部へと反響する。
夢幻郷の空が裂け、竜たちの影が霧散し――
――蒼い薔薇は、再び“今”へと還った。
気がつくと、塔の中心にナーカ・シャ=ルスがいた。
彼の瞳は静かに輝き、ラキュースたちを見つめる。
「見タカ。竜ノ支配スル夢。
永遠ハ、美シクモ脆イ。
汝等ハ、ソレヲ終ワラセル者カ、
或イハ、再ビ夢ヲ紡グ者カ――」
塔の天井が開き、星々が雨のように降り注いだ。
蒼い薔薇の面々はただ黙って、それを見上げる。
その光の中で、それぞれの胸に――竜の記憶がかすかに刻まれていた。
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