オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル市街・見学中のぐりもあ /*/
「……はぁ、なんだこれ」
ぐりもあは石畳を踏みしめながら、呆れ半分、感心半分で街並みを見渡していた。
かつて死臭と不安に満ちていた城塞都市は、今や眩しいほど文明の香りを漂わせている。
上下水道は整備され、下水道には「サニタリースライム」と呼ばれる特殊スライムが配置されており、汚水や有害物質を分解してしまう。
「ねぇちょっと。下水処理をスライムにやらせるって……え、それ僕のアイデアでもおかしくなかったよね? 絶対に面白がって考えたのに……なんで完成してから見せるのさ!」
拗ね声は、案内役の係員の耳には届かない。
彼は胸を張って説明する。
「川の水質は劇的に改善されました。魚も戻り、子供たちが水辺で遊べるほどに!」
ぐりもあはため息をつき、腕を組んだ。
「うんうん、すごい。文明レベルが二段も三段も飛び越えてる。わかってる。……でも呼んでから作ればよかったのに!」
歩を進めると、目の前に広がるのはローマ式石畳の大通り。
水勾配まで計算されており、雨が降っても水溜まりひとつできない。馬車は静かに滑るように走り、道端に泥跳ねの跡すらない。
「……ねぇ。これ、完全に舗装先進国じゃん。いや、感心するけど……ぼく、石畳の敷き方、講義したかったのに! なんで出来上がってるの!?」
さらに劇場や闘技場。昼間だというのに人々が集い、芝居の宣伝や模擬試合の歓声が響いてくる。
観客席の構造も計算されていて、声がよく通る。
「劇場と闘技場まで? あーもう! これじゃ文化都市だよ! 僕の『市民文化振興計画』の出番が……ないじゃん!」
図書館を見れば、魔術師組合の誇る巨大な書庫。
その蔵書の量は彼の目を輝かせさせるには十分だった。
「……あぁああ、これ。僕、三日は籠もれる。いや、一週間でも足りない。でも……でも! 図書館設計のとき、呼んでくれても良かったでしょ!? 僕、通気と湿気対策の専門ネタ、山ほど知ってるのにー!」
さらに歩けば、冒険者訓練所に学校、孤児院。整った制服を着た子供たちが楽しげに走り回っている。
「……なんだよこれ、教育福祉制度まで……? 僕の出番、ほんとに無いじゃん……」
トドメは訓練用ダンジョン。新人冒険者が模擬戦を繰り広げ、指導役が真剣な眼差しで声を飛ばしている。
「……おいおいおい。訓練ダンジョンまで!? 僕が提案するはずだった『安全な冒険者育成システム』、完全に先回りされてるんだけど!」
石畳の中央に立ち尽くし、ぐりもあは大きなため息をつく。
「すごい。すごいよ。ほんとにすごい。文明の光に包まれて、人も笑ってて、街も活気づいてる。素晴らしいことなんだ。……でもね」
帽子を目深にかぶり、肩を落とす。
「どうせなら、僕を呼んでから作ってよ……。大体できちゃってるじゃん……」
口を尖らせた拗ね顔は、どこか子供のようでもあり、また本音の寂しさがにじんでいた。
文明の輝きの中、ぐりもあのぼやきは今日も小さく響いていた。