オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 夢幻郷ドリームランド 逆流の塔・時の底 /*/
塔の心臓が鳴った。
それは鼓動ではない。
世界の書き換えが始まる音だった。
ナーカ・シャ=ルスの周囲に、金色の文字が浮かび上がる。
それは夢の記録――だが今、記録が再生されようとしている。
ラキュースたちの視界が反転し、
空と地が入れ替わった瞬間――
光と闇の奔流が、彼女たちを“あの戦い”へと飲み込んだ。
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天地が割れていた。
世界そのものが、悲鳴を上げている。
大空には竜の群れ。
古き支配者たち――《竜王》の軍勢。
その咆哮ひとつで山が砕け、大地が逆巻く。
七つの月が同時に昇り、星々が恐怖に震えて消える。
だがその中に、異質な光があった。
八つの輝き。
八方向から降り注ぐ、異界の原理。
《八欲王》――
竜の理の外から来た者たち。
彼らはこの世界の神秘体系そのものを乗っ取るために現れた。
第一の王――“欲界の王(ロスト・アーク)”が剣を掲げる。
その一振りで、竜王たちの加護――“時間耐性”が剥がれ落ちる。
世界の“時間”を書き換える法則が、彼らによって上書きされたのだ。
第二の王、“渇望の聖女(アヴィド・エンプレス)”が呟く。
その声は祈りの形を取りながら、神々の座を汚染していく。
彼女の一言で、竜王たちの信仰体系が崩れ、
祈りの力=神秘が、八欲王の配下に流れ込む。
「ありえない……!」
イビルアイが息を呑む。
「世界の“根幹構造”を奪っている!?……神秘を――“書き換えて”!」
空では、竜王たちが反撃を試みる。
炎、氷、雷、死――
ありとあらゆる根源元素がぶつかり合い、世界が軋む。
だが、八欲王たちはそれを“ゲーム”のように見ていた。
第三の王――“機械仕掛けの賢者(メカニカ)”が、
冷たい声で命じる。
「演算完了。理の再定義を開始する――」
その瞬間、空間が折れ曲がった。
竜王たちの放った魔法が反転し、彼ら自身を焼く。
世界の**演算基盤(ルールエンジン)**が完全に奪われたのだ。
ラキュースの前で、ひとりの竜王が墜ちる。
翼は砕け、鱗が崩れ、
金属のような血が地に落ちて燃え上がる。
「……これが、竜の時代の終焉……」
ティアの声が震えた。
地平の果てで、
第四の王――“虚無を抱く者(ヴォイドベアラー)”が手を伸ばす。
掌の中に、竜王たちの魂が吸い込まれていく。
無限の蛇が呑み込まれるように、
竜たちの誇りも記憶も――存在の定義すら消えていった。
《我等ハ理ヲ超エ、理トナル》
八欲王の声が、世界そのものの声として響く。
そして――その中心で、
最も強大な竜、《灰色の王》が立ち上がった。
「貴様らが“神”を殺すのか……
ならば、我は“時間”そのものをもって貴様らを葬るッ!」
彼の咆哮と共に、
空が裂け、時の奔流が逆巻く。
だが八欲王のひとり、“時の盗賊(クロノ・グリード)”が指を鳴らした。
――時間が止まる。
灰色の王の動きも、炎も、雷も、すべてが静止する。
「悪いな。時間は俺たちの“道具”だ」
その言葉と共に、竜王たちは崩れ落ちていった。
鱗が砂となり、翼が記憶に変わり、
竜の血が“魔法”という新たな体系に姿を変える。
――こうして、竜の神秘体系は終焉した。
そしてその上に、
八欲王が築いた新たな理――“人の理(ヒューマン・アーキテクチャ)”が誕生する。
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映像が静止した。
塔の中に戻った蒼い薔薇の面々は、息を詰めて立ち尽くす。
ナーカ・シャ=ルスが、低く嗤った。
「見タカ。コレガ、“覚醒ノ代償”。
竜ハ神秘ヲ失イ、
神秘ハ人ノ手ニ堕チタ。
以降、夢ハ覚メ、理ハ歪ンダ。」
ラキュースが震える声で問う。
「……八欲王は、神を超えたの?」
「否。神ヲ模倣シ、神ノ座ニ座ッタノダ。
人ノ理ハ、夢幻ヨリ生レ、夢ヲ喰ラウ。
汝等ノ歩ム現ノ世ハ――彼ラノ夢ノ続キニ過ギヌ。」
静寂。
塔の壁がひび割れ、光の粒が溢れ出す。
その中で、イヴィルアイはそっと呟いた。
「……竜王の滅びは、
“世界が人のために造り替えられた瞬間”なのね。」
ナーカの蛇の瞳が、わずかに光を宿した。
「然リ。
――汝等ハ、夢ノ終焉ニ立チ会ウ者。
再ビ、理ヲ塗リ替エルカ、或イハ……八欲ノ夢ニ沈ムカ。」
霧が立ちこめ、
夢と現の境が、再び薄れていった。
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