オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル・交易事務所前 /*/
ぐりもあは帳簿を抱えたまま、ジョンの話に目を丸くしていた。
「ちょ、ちょっと待って……。治水工事を超位魔法”天地改変”で? ”大地をゆるがすもの”って、あの世界級アイテム? それを工事に転用するなんて、聞いたことないよ」
ジョンはにやりと笑い、肩をすくめる。
「まあ、普通は戦争や破壊に使うもんだけどな。モモンガさんが一歩先を考えてくれてるおかげだ。土木の現場だと、超位魔法で地形を大きく弄ってから、細部を”〈土木作業員の手〉”で巨大化して掘ったり均したり。川の流れを調整して堤防を築くのも一瞬なんだ」
彼の視線の先では、完成したばかりの大運河が悠々と流れ、荷を積んだ船が往来していた。水面にきらめく反射光が、街の繁栄そのものを象徴している。
「図面はアウラが担当してるんだぜ。森や地形に詳しいから、洪水や氾濫のリスクまで全部計算してくれる。俺たちはそれを魔法と力技で実現するだけ」
「……すごい。そんな方法で各国の河川を整備したの?」
ぐりもあの問いに、ジョンは頷いた。
「魔導国直轄領はもちろん、王国や帝国の農地も一緒にやった。おかげで農地の収穫量は跳ね上がったし、洪水で困ってた村も減った。あとは竜王国と聖王国の復興だな。こっちはまだ途中だから、ぐりもあさんも参加してみる?」
ぐりもあは帳簿を閉じ、少し唇を尖らせる。
「うーん……。呼んでくれたら最初からやりたかったのに。もう完成しちゃってるところばかりじゃん」
「だからこそ今からの復興はちょうどいいんだ。未整備の土地も多いし、魔法や知識を活かせる場所はいくらでもある」
ジョンの言葉に、ぐりもあは目を輝かせた。
「……なるほど。まだ僕の出番があるってわけか。なら、是非やってみたいな!」
風が頬を撫で、水路を進む船の帆が膨らむ。
魔導国の未来を拓く次の工事が、彼らの胸のうちに確かに描かれ始めていた。
/*/ ナザリック地下大墳墓第9階層・モモンガ執務室/*/
執務室の奥、重厚な机の周りに座るジョン、モモンガ、ぐりもあの三人。机の上には竜王国の治水工事計画図と、湾の地形図が広げられていた。
「ここに大きな湾があるんだ。交易港も整備できそうなんだけど、問題はその先の航路だ」
ジョンが指差す先には、航路沿いに点在する亜人国家の領土が示されていた。
ぐりもあは眉をひそめ、地図を覗き込む。
「それって……どうして交易できないの?」
ジョンはため息混じりに説明する。
「竜王国から東にある亜人国家では、人間が家畜化されてるんだよ。しかも人間が家畜に向いてないから、ほぼ絶滅状態。人間を家畜化して他の家畜の面倒もさせてたから、労働力が全然足りないんだ」
ぐりもあは目を丸くする。
「え……それじゃ、人間を輸出するなら交易になるってこと?」
「そう。だけど魔導国は人間も国民だから、輸出なんて出来ない。竜王国の隣にあったビーストマン国家は、竜王国を襲撃して狩場にしてたんだ」ジョンの声は冷静だが、計算された大局を見据えた自信に満ちていた。
モモンガが淡々と口を挟む。
「結果として、ビーストマンの国は滅ぼした。そして亜人国家と接触しないよう、アンデッドに汚染された土地を干渉地帯として設定した。これで交易港から先に危険が及ぶことはない」
ぐりもあは息を呑む。
「……なるほど。つまり交易港自体は作れるけど、航路を使った交易の相手は制限されるってことか……」
ジョンは机に手をつき、湾と航路の地図を指でなぞる。
「そういうこと。安全確保のために干渉地帯を設置しつつ、港と内陸の治水工事を整備して生産力を上げれば、交易港としての機能は最大限活かせる。もちろん、危険な相手と接触することもない」
ぐりもあは少し考え込む。
「……人間が絶滅寸前の国と隣接してるから、自然と交易も制限されるのか。でも、干渉地帯で安全を確保する発想はすごいね」
モモンガは頷き、静かに告げる。
「物流や交易だけじゃなく、治水や農地の復興も絡めて計画してあるから、港を中心に国全体の繁栄を設計できる」
ジョンは微笑み、ぐりもあに向かって言った。
「ほら、ぐりもあさん。未整備の土地もあるし、君も手を貸せば竜王国の復興に大きく貢献できるよ。港の整備、治水工事、物流の構築……全部、やりがいはある」
ぐりもあは目を輝かせ、机に置かれた航路図をもう一度見つめる。
「……うん、やってみたい! この計画の全体像、ちゃんと体感したいな」
湾の水面を思い描きながら、三人の視線は地図上の航路と治水工事の完成像に向かって交わった。安全と生産力を両立させる壮大な計画――その全貌が、徐々に、ぐりもあの胸にもリアルに響き始めていた。
/*/ ナザリック地下大墳墓第9階層・モモンガ執務室/*/
ぐりもあが地図を指差し、首を傾げる。
「ところでこの地図……人工衛星もないのに、どうしてこんなに正確なんだ? 本当に細かい河川や地形まで描かれてるし」
ジョンはにやりと笑い、腕を組んで胸を張る。
「ふっふっふ、伊能忠敬のやり方で足で測ったんだよ!もちろん冒険者がな!」
ぐりもあは目を丸くする。
「え、冒険者が……?」
「そうだ。俺たちの村や都市の周辺はもちろん、魔導国直轄領、王国や帝国の農地まで、全部歩かせて測量した」
ジョンは地図の上で指を滑らせる。
「距離は歩数や魔法で補正、角度や方位は魔法で精度を上げた。おかげで衛星なんかなくても、この精密さだ」
ぐりもあは感心と同時に、少し笑いそうになる。
「……なるほど、冒険者たちが徒歩で測量して、しかも魔法で補正してるから正確なんだ。すごいな……」
ジョンは誇らしげに頷く。
「俺たちはそのデータを集めて図面にまとめただけ。実際に足で測ったのは冒険者たちだ。もうね、歩き回った距離は何百キロ、いや何万キロ単位だぜ」
ぐりもあは地図をもう一度見つめ、冒険者たちの苦労と努力を想像する。
「……冒険者たち、ほんとにお疲れ様だな。こんなに正確な地図を作るなんて、想像以上に大変だっただろうな」
ジョンは肩をすくめ、にやりと笑った。
「だからこそ、治水工事も港の整備も、図面通りに進められるんだよ。正確な地形データがあれば、魔法で地形を弄るのも計算通り。失敗する心配はほとんどない」
ぐりもあは目を輝かせ、地図の航路や河川の線を指でなぞる。
「なるほど……これなら復興計画も安心だね。足で測ったデータに魔法の補正……冒険者と魔導国の力が合わさって初めて実現できるわけだ」
モモンガは静かに頷き、ぐりもあの感心する表情を見守る。
「その通りだ。数字だけじゃなく、実際に歩き、目で確認した情報だから精度も信頼性も抜群だ」
ジョンは笑みを浮かべながら地図を広げ、ぐりもあと共に港や河川、治水計画の全貌を指し示す。
「さあ、ぐりもあさん。この地図とデータを元に、次は実際の現場で手を動かす番だぜ」
ぐりもあは拳を軽く握りしめ、意気込みを見せる。
「うん! 冒険者たちの努力に恥じないように、しっかりやってみせる!」
――正確な地図の裏には、冒険者たちの足跡と魔法の力があった。ぐりもあの胸には、その努力の重みと、これから関わる復興計画のやりがいが確かに刻まれていった。
/*/ 竜王国北東山脈・治水開墾計画/*/
ジョンは地図を指でなぞりながら、僕に説明した。
「ここ、北東の山脈から水を引き込む。水路を整備して、開墾が捗るようにするんだ」
僕は目を輝かせ、地形の起伏を思い浮かべる。
「なるほど……水を引くなら傾斜も計算しないとね。土が流れちゃうと作物が育たない」
ジョンは頷きながら手元の模型を指し示す。
「そうそう。ここにわずかな傾斜をつけて、土が流れないようにする。魔法で水量を調整できるから、洪水も心配ない」
モモンガは静かに椅子に腰掛け、僕たちのやり取りを見守る。
「水路の幅や深さも計算済みだ。これで灌漑用水を安定して供給できる」
ジョンは模型の地面を指で軽く押しながら補足する。
「水路だけじゃなく、周囲の土地も整地して、人が住める開拓村を作れるようにしておく。村が建つスペースは平らで、洪水や土砂崩れのリスクも最小限にする」
僕は地形模型を手で撫でながら、思わず感嘆した。
「開拓村の場所まで計算してるんだ……。単に水路を作るだけじゃなくて、入植まで考えてるなんて、本当に総合的だね」
ジョンは胸を張り、にやりと笑った。
「もちろんさ。農地と水路だけあっても人が住めなきゃ意味ないからね。入植者が安心して暮らせるように、住宅区や作業場も配置する」
モモンガが淡々と付け加える。
「土木作業員の手や超位魔法を使えば、山を少し削ったり、段差を作ったりするのも簡単だ。人が安全に通れる道も整備できる」
僕は拳を握り、目を輝かせる。
「よし、これなら水路も農地も開拓村も一気に整備できそうだ。僕も手伝いたい!」
ジョンは模型を傾けながら微笑む。
「その意気だ。計画通りに整備すれば、ここから先の竜王国北東部は、人も作物も安定して生活できる土地に変わる。入植者たちも喜ぶだろうね」
――模型の上で描かれる水路と開拓村の未来。僕の胸には、魔法と土木技術が融合した竜王国復興の全貌が確かに映し出されていた。