オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル・冒険者訓練ダンジョン 入口前 /*/
薄暗い石造りの入り口を背に、ぐりもあは冷ややかな眼差しで内部を振り返った。
彼女の背後では、いまだ壁に仕掛けられた矢の罠が――カシャン、カシャン、と規則的に発射を続けている。石壁に突き刺さる金属音が、まるでダンジョンそのものが高笑いしているかのように響いていた。
「……エ・ランテル冒険者訓練ダンジョンのトラップ、なかなか殺意高いですけど。誰が考えたんですか?」
問いかけにジョンが肩をすくめる。
「モモンガさん」
「……あー」
ぐりもあは納得したように小さく頷いた。
「な、なんですか、その”あー”は!」
モモンガが慌てたように声を張る。
ぐりもあは片手を顎に添え、少しばかり悪戯めいた笑みを浮かべた。
「いや、最古図書館においておいたデストラップ集で見たような罠が幾つかあったな、と。……ほら、落とし穴の底に槍がぎっしり並んでるとか、回転刃に油を差してやたら切れ味をよくしてあるとか。あれ、完全に本に載ってたやつですよ」
ジョンが同調するように、やや呆れた口調で言葉を継ぐ。
「俺も見たことあるやつ混じってたな。うん、まさにデストラップ直輸入」
モモンガの骸骨の眼窩に青白い光が揺れた。
「ち、違います! ちゃんと冒険者の訓練用に調整してあるんです!」
ぐりもあは肩をすくめて笑い、さらに一言つけ足した。
「でもあの槍の雨、ちょっとタイミング狂ったら普通に死にますよね?」
「……死なない範囲で調整してある、はず」
ジョンが口ごもる。
「……はず?」
ぐりもあの片眉が跳ね上がった。
モモンガは開き直るように手を振り払う。
「ええい! 冒険者ならそのくらい乗り越えられなくてどうしますか! 実戦はもっと非情なんです!」
石壁に突き刺さる矢の音が、再びカシャン、と鳴り響く。
その場の三人は、それぞれ別の意味で顔をしかめた。
/*/ エ・ランテル・冒険者訓練ダンジョン 内部通路 /*/
石の壁に設けられた隠し扉を抜けると、そこには大きな広間があった。
床は一段低くなり、空気が澱んでいるのがはっきりと感じ取れる。
ぐりもあが一歩踏み出しかけ、すぐに鼻をひくつかせた。
「……これ、酸素が薄いですね。踏み込んだら一息で意識を失うやつですよ」
ジョンが苦い顔で頷く。
「そう。俺らの清掃班が先に遺体を回収するから、冒険者の訓練でここまで来た連中はだいたいここで寝てる。……いや、”寝る”って表現は優しすぎるか」
部屋の中央には、ランタンを握りしめたまま崩れ落ちた冒険者の一団が横たわっていた。口元から泡を吹いた者、床を必死に掻いた跡を残した者――窒息の苦しみが生々しく刻まれている。
モモンガはごほんと咳払いをして言い訳がましく言った。
「ち、違いますよ? ちゃんと解除方法はあるんです。部屋の外の通気孔を操作すれば空気が流れ込むようになってますから」
「……それに気づけなかったら即全滅ですけどね」
ぐりもあが皮肉げに肩を竦める。
そのまま通路を進むと、次の部屋の前に立った瞬間、鼻を刺すような異臭が漂ってきた。
ぐりもあは眉をひそめる。
「……これは。部屋を暗くして、可燃性ガスを充満させてますね」
「正解」ジョンがため息をついた。
「たいまつやランタンに火を入れて踏み込んだら、爆発で一瞬で炭。壁や天井にこびりついて回収が面倒になるんだ」
実際、壁の石材には黒焦げの跡がまだくっきり残っていた。爆風に叩きつけられたらしく、頭蓋骨が粉々になったまま放置されている遺体もある。
「……ねえ」ぐりもあがちらりとモモンガに視線をやる。
「これ訓練ですよね? ここまで殺意高いと……あのケン・セント・アンドレが高笑いしてそうなんですけど」
「な、なんですかその例えは!?」
モモンガが動揺し、青白い光が眼窩の中で揺らめく。
「ほ、ほら、冒険者は常に死と隣り合わせなんです! 実戦に備えて……!」
「いやいやいや、これじゃ実戦よりエグいでしょ」
ジョンが頭を抱えた。
ぐりもあはため息を吐きつつ、両手を広げて投げやりに言った。
「まあ、死ななければ経験値になる。死んだら笑い話にもならない。――そういうことですか」
爆発の煤がまだ残る部屋で、石壁に反響した足音だけが、皮肉めいた静けさを強調していた。