オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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時計の開発

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・モモンガ執務室/*/

 

 

ぐりもあは机に肘をつき、眼鏡越しに地図や設計図を眺めながら静かに口を開いた。

「基礎の技術とか冶金技術は、まだ腕時計を作れるほど発展していません。ですから、まずは時計台のような大型時計を作ることを目標にしましょう」

 

ジョンが隣で腕を組み、にやりと笑う。

「なるほどな。いきなり腕時計を作ろうとしても無理があるってわけだな」

 

ぐりもあは指を軽く叩きながら続ける。

「ドワーフの技術と魔法を使えば、ニッケル合金やニッケル鉄クロム合金なども作れそうですが、まずはテンプゼンマイの開発から始めるのが現実的です。船の航行用マリンクロノメーターも必要になるでしょう」

 

ぐりもあは細い指を組み、首をかしげる。

「……漁港で活動している船は、どうやって緯度や経度を測っているのですか?」

 

モモンガは少し笑いながら答えた。

「ええ、アンデッド同士の位置関係で、港にいる奴を基準にして測ってます」

 

ぐりもあは思わず吹き出す。

「はは、思ったより力業だった」

 

ぐりもあは肩をすくめ、真剣な目をジョンとモモンガに向けた。

「まあ、それでも精度はそこそこ出ますし、航行に支障はありません。でも本格的な時計技術があれば、もっと正確に経度を測れるし、海運の安全性も上がります」

 

モモンガは淡く眼窩を光らせ、うなずく。

「なるほど。技術を教育し、基礎から発展させれば、王国の航行術も改良できるわけですね」

 

ジョンは遠くを見つめるように言った。

「大型時計、テンプゼンマイ、マリンクロノメーター……。ぐりもあさんの計画を一つずつ実現すれば、王国は魔法に依存せずとも、精密技術で独立した航行と交易ができるようになるってわけだ」

 

ぐりもあは微かに微笑む。

「はい。まずは大型時計の設計から。魔法と技術を組み合わせて、王国民が自分たちで作れる環境を調えます。これが未来への第一歩です」

 

冷たい執務室に、しかし静かな熱意が満ちていった。

 

 

/*/ ザナック王宮・王の執務室/*/

 

 

ザナック王は重厚な書類の束を前に椅子に深く腰掛け、じっと机の上の設計図と報告書に目を走らせていた。魔導国からの提案、そしてぐりもあによる技術計画――それらを一つひとつ頭の中で整理する。

 

「機械式の時計を作る技術開発か……」王は低くつぶやく。目の奥には静かな感嘆が光る。「魔法とドワーフの冶金技術まで提供してくれるとは……」

 

彼は深く息をつき、書類から目を上げる。

「つまり、魔導国は我が王国を技術立国として復興させようと考えているのだな……」

 

机の上に置かれた王立魔法学校の設計図に視線を落とす。ここで学ぶ若者たちが、やがて王国の技術発展を担う――王は心の中で静かに確信する。

「理解の無い貴族たちも、先に建てた王立学校があれば、口を出す余地はない。知識と技術が、権力を上回る力になるのだ」

 

王は指先で机を軽く叩き、さらに思考を巡らせる。

「資金面も問題ない。治水工事が王家直轄領の収入を確保してくれている。技術教育、資金、土地……すべて調っている」

 

ふと窓の外に目を向ける。広がる街並みと農地、運河を流れる水……魔導国が提供した土木技術のおかげで、王家の統治が確実に安定していることがわかる。王は口元に微かな笑みを浮かべた。

「凄いな……魔導国はここまで考えて、王国の復興に動いていたのか」

 

そして胸中に妹、ラナー王女の顔が浮かぶ。

「なるほど……妹が肝を冷やすわけだ。あれほどの知識と計画力があれば、王国の未来は安全どころか、恐ろしいほどの速度で発展する。いや、驚嘆に値する」

 

王は背もたれに深くもたれ、指を組んで天井を見上げる。

「魔導国の知恵と力、そして我が王国の土地と人材――これらが一体となれば、王国は魔法に頼らずとも独自の繁栄を築けるだろう。いや、築かねばならぬ」

 

机の上の書類を再び手に取り、詳細な計画を読み進める王の目には、未来の光が映し出されていた。

「……妹よ、どうか安心せよ。我が国の復興は、魔導国、そして我が王家で、確実に進められるのだ」

 

 

/*/ エ・ランテル太守ラナー私室 /*/

 

 

夜、ランプの明かりに照らされた静かな書斎。

ラナーは窓際の椅子に座り、書きかけの文書を手にしたまま、ぼんやりと遠くの街の灯りを見つめていた。

 

「……と、お兄様は思っていらっしゃるのでしょうね」

彼女は小さく呟き、唇の端に皮肉とも寂しさともつかぬ笑みを浮かべる。

 

机の上には、魔導国からもたらされた新しい技術や学問に関する報告が山積している。王立魔法学校の設立、冶金技術の供与、時計台や航海用計測器の開発――それら全てが、王国の未来を形作る青写真だった。

 

ラナーは書類の一枚を指先で持ち上げ、光に透かす。

「本当に、私が必要だったのか……」

その声には、深い自問の色が滲む。

 

「魔導国の打つ手を見ていると、まるで全てが計算されているように思えてしまう。お兄様が信じている“王国の自立”でさえ、実は魔導国が描いた未来図の一部なのではないか、と」

 

ラナーは視線を落とし、手元の羊皮紙を丁寧に重ねる。

「魔導王陛下……どこまで先を見ていらっしゃるのか」

 

彼女は窓の外に目を戻す。夜風がカーテンを揺らし、遠くに灯る街の光が瞬く。

その光景の中に、ラナーは未来への不安と期待、そしてわずかな恐怖を見た。

 

「……でも、だからこそ面白い」

ラナーは小さく笑い、頬杖をつく。

「陛下の描く未来の先に、私がどこまで関われるのか――それを見極めるのも、私の役目ね」

 

その瞳は、薄い光を宿しながら、誰にも読めない思考の深淵を映していた。

 

太守の館の静寂の中、決意と感嘆の入り混じった低い声が執務室に響いた。

 

 

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