オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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鉄の騎士の影響

 

 

/*/ ナザリック第九階層モモンガの執務室 /*/

 

 

 深い闇の中、魔法陣の淡い光が三者を照らす。デミウルゴスは整然と座り、端正な姿勢のまま、モモンガとジョンに向き直った。

 

「さて、両名。今回はバハルス帝国における〈鉄の騎士〉配備の影響について解説いたします」

 

 ジョンは腕を組み、軽く笑みを浮かべる。

 モモンガは机に肘をつき、興味深そうに目を細めた。

 

「〈鉄の騎士〉――人が搭乗するゴーレム兵器だな。既存の騎士や歩兵の戦力を圧倒する……」ジョンが言いかけると、デミウルゴスはすかさず頷いた。

 

「その通りです。しかし、単なる軍事力の飛躍ではなく、社会構造そのものに影響を与えます。まず、重要なのは製造が皇帝直轄の工房に限られていることです」

 

(社会構造!俺そこまで考えて無かったぞ!)

(知ってました)

 

 モモンガが眉をひそめる。

「なるほど、つまり国家独占兵器……ということか」

 

「はい。帝国中の諸侯や貴族は、皇帝から貸与されない限り〈鉄の騎士〉を保有できません。結果、中央集権化が加速し、皇帝の権威は絶対的となります」

 

 デミウルゴスは薄く笑みを浮かべ、机の上に開いた書物を指差した。

「また、搭乗士――操縦士の選抜も皇帝直轄工房で行われます。ここで教育された者たちは、技量だけでなく忠誠心まで徹底的に管理されます。地方勢力ではなく、完全に中央に従属する存在です」

 

 ジョンは目を細め、感心するように頷いた。

「なるほど……操縦士を皇帝直轄にするだけで、地方貴族の力を抑えられるわけか」

 

「ええ。その上、製造に必要な鉄材や魔導鉱石、触媒もすべて皇帝が管理するため、経済まで帝国直轄になります。工房は国家の中心的存在となり、鉄騎士経済圏を形成します」

 

 モモンガは軽く声をあげた。

「なるほど……操縦士と資源を皇帝が掌握しているわけか。つまり〈鉄の騎士〉は単なる兵器ではなく、皇帝権力の象徴であり、社会秩序そのものを動かす存在か」

 

「正確です」デミウルゴスは手を組み、深く頷く。

「さらに文化面も無視できません。『鉄の騎士に乗る者こそ真の騎士』という価値観が浸透し、民衆の憧れや祭礼も変化します。旧来の騎士道や武芸の伝統は徐々に変容していくでしょう」

 

 ジョンは小さく笑みを漏らす。

「面白いな……つまり、戦場だけじゃなく、社会全体を鉄の騎士が書き換えちまうってわけか」

 

「その通りです、カルバイン様。長期的には帝国は軍事的には最強となりますが、工房の秘密や操縦士の管理に失敗すれば、国家そのものが脆くなるリスクもあります」

 

 デミウルゴスは両手を机に置き、重々しい声で締めくくった。

「要するに〈鉄の騎士〉は、単なるゴーレム兵器ではなく、帝国の軍事・経済・社会・文化を一手に掌握する装置なのです」

 

(やはり、ロボ。巨大ロボは全てを凌駕する)

(おいおい、ジョンさん。文化的侵略しちゃってますよ!?)

 

 モモンガは書物に目を落とし、静かに感嘆する。

 ジョンは少し微笑み、思案するように天井を見上げた。

「なるほど……使い方次第では、国家ごと操ることもできるわけだな……」

 

 デミウルゴスは頷き、冷静に答えた。

「ええ。しかし、それは同時に最大の脆弱性でもあります。操縦士の裏切りや工房の崩壊は、帝国を直ちに戦力ゼロにするでしょう」

 

 部屋には重厚な沈黙が漂う。鉄と魔力が生む兵器の力が、帝国の未来と運命を左右する――その現実を三者は静かに理解していた。

 

 デミウルゴスは一息つき、視線をモモンガとジョンに交互に向けた。

 

「加えて留意すべきは、〈鉄の騎士〉が生み出す社会的影響です。兵器としての圧倒的存在感により、皇帝の意志は民衆の間にも浸透します。地方都市に配備されるだけで、反乱の芽は未然に潰され、秩序は自然と維持されるのです」

 

 モモンガは眉を上げ、淡い光の中で書物を指先で撫でながら考え込む。

 

「つまり、鉄騎士が駐留する都市では、民心の統制すら自動的に行われるわけか……?」

 

「ええ。その通りです」デミウルゴスは頷き、机上の書物を開いて地図と統計資料を示す。「さらに、搭乗士の忠誠は工房教育により徹底されるため、地方の有力者や貴族が力を蓄える余地はほとんどありません。結果、帝国の中央集権化は加速度的に進むのです」

 

 ジョンは軽く笑いながら椅子に肘をつき、床を見下ろす。

 

「なるほどな……操縦士を手中に収め、資源も抑えれば、軍も経済も、つまり帝国全体を手玉に取れると」

 

「しかし、カルバイン様」デミウルゴスの声にわずかに鋭さが増す。「この構造は二重刃です。工房の秘密が漏れれば、〈鉄の騎士〉技術は瞬時に周辺国へ拡散し、軍拡競争を誘発します。また、操縦士の裏切りや工房の破壊は即座に帝国全体の戦力を失わせます」

 

 モモンガは唇を引き結び、静かにうなずく。

 ジョンは天井を見上げ、考え込むように指先を組む。

 

「ふむ……つまり、〈鉄の騎士〉は単なる兵器じゃなくて、国家運営の軸になる装置だな……だが、失敗すれば国家ごと吹き飛ぶリスクもある、と」

 

「その通りです」デミウルゴスは重々しく答える。「帝国は短期的に最強ですが、中央集権の依存度が高すぎるため、指導者や工房の喪失は致命的な弱点となります。まさに諸刃の剣……」

 

 執務室の魔法陣の光がわずかに揺らぐ。三者は沈黙の中、鉄と魔力が生む兵器の力と、その持つ文明への影響の重さを、静かに受け止めていた。

 

 

/*/ ナザリック第九階層・モモンガの執務室/*/

 

 

 魔法陣の淡い光が三人を照らす中、デミウルゴスの解説が一段落した瞬間、ジョンがにやりと笑って肘をついた。

 

「なるほど、じゃあジルに定期的に“神々の青春のリンゴ”を食わせるか」と、ジョンは軽々しく提案する。

 その言葉は力技という名の現実的解決策めいていた。――要は、皇帝の寿命問題を外科的(?)に潰す作戦だ。

 

 モモンガは机の上の書物から視線を上げ、眉をひそめる。

(――それは大変ストレートな発想だ。ジルクニフがそんなものを受け入れるかという別問題はあるがな)

 

 デミウルゴスは一瞬だけ冷たい笑みを浮かべ、落ち着いた声で応じた。

「神々の青春のリンゴ──それが何を意味するか、理論上は理解できます。しかし、それによる社会的波及と倫理的影響は無視できません」

 

 ジョンは肩をすくめ、杖を指で軽く弾いた。

「倫理? ああ、うるさい理屈は置いといてよ。ポイントは単純だ。皇帝が長く安定して在位できれば、工房や国家の中枢に致命的な断絶が起こりにくくなる。寿命延長はリスク低減に直結するってわけだ」

 

 デミウルゴスは両手を組み、冷静に返す。

「確かに即効性のある方策です。しかし、恒久的な延命はまた別の依存を生むでしょう。資源や儀式を維持するための権力構造がさらに固定化され、かえって改革や柔軟性を奪いかねません。さらに、『長寿の独占』は新たな不満や陰謀を誘発します」

 

 モモンガは静かに微笑み、その瞳は思案に満ちていた。

(ジョンさんの発想は力技だが、彼の言う通り短期的には機能する。だが、長期的な政治的帰結は複雑だ)

 

 ジョンは少し身を乗り出し、含み笑いを浮かべる。

「まあ、長期の話は後回しにして、とりあえずジルに食わせてみるのはどうだ? 俺が強引にでも効率よく運べる。何度も“定期的”にね」

 

 デミウルゴスの顔に、わずかな戸惑いが走る。

「カルバイン様の“強引に運ぶ”という単語は、たびたび想定外の摩擦を生みます。さらに、その『リンゴ』が希少であるならば、分配と管理の問題が発生します。皇帝一人に集中させるのか、あるいは複製して複数に渡すのか?」

 

 ジョンは肩越しに薄く笑い、軽く一礼した。

「いいか、デミウルゴス。現場は現場で解決する。俺はジルに面と向かって『お前はまだやるべきことがある』って言ってやるだけだ。後は儀式の手配や材料の確保は任せるぜ?」

 

 モモンガは、書物からそっと顔を上げ、穏やかながらも厳しい視線を二人に向けた。

(私の判断としては、国家の骨格を変えるような薬齧りの延命は慎重に扱うべきだ。だが――ジルクニフが同意し、かつそれが帝国の安定に貢献するならば、短期的に検討の余地はある)

 

 デミウルゴスは深く息を吐き、最後に言葉を締める。

「結論としては非現実的とは言えませんが、慎重の上にも慎重を要する問題です。が、カルバイン様が力任せに事を進めるならば、我々は外交上の後始末を全てお引き受けいたします」

 

 ジョンはあっけらかんと笑い、立ち上がって杖を肩にかけた。

「よし、ならば仕事は分担だ。俺が“運ぶ”役、デミウルゴスは“話をつける”役、モモンガさんは……その場で賛成する役で頼む」

 

 モモンガは静かにため息をつき、だが顔には薄い笑みが浮かんだ。

「私が賛成するのは筋を通せると判断した場合のみです、ジョンさん」

 

 ジョンは豪快に笑い声を上げ、ナザリックの薄暗い室内にその笑いを響かせた。

 デミウルゴスは冷静さを保ちながらも、いかにして“力技”と“理性”を両立させるかの思案に没頭していった。

 

 

/*/ ナザリック第九階層・モモンガの執務室/*/

 

 

 魔法陣の淡い光が机上の資料を照らす中、ジョンはふと笑って椅子の背にもたれた。

「そんなに文化面でも〈鉄の騎士〉が重要になるのなら、象徴として皇帝騎にアイアンゴーレムのふりをしたパワードスーツを贈るのも面白そうだな」

 彼の声にはいつもの無邪気さと、行動に移すための大胆さが混じっている。

 モモンガは書物から顔を上げ、鋭く眉を寄せた。

 

「ジョンさん……あなたのパワードスーツは確かに80Lvに相当します。皇帝に渡せば戦力バランスが一瞬で崩れますし、象徴としても過剰です」

 

 ジョンは口元に薄い笑みを浮かべ、天井を見上げるように呟いた。

「そっか……なら、鉄より上位の素材で作ったゴーレムはどうだ? 例えば金とか。ゴールドなら見た目も豪華で、鉄より格上感が出るだろ」

 

 デミウルゴスは机の上の書物を指差し、落ち着いた声で応じた。

「確かに金を外装に用いるという発想は、象徴性を高めるうえで理に適っています。加えて、ゴーレム化の段階で魔力補正を施せば、単純な素材特性は克服されます」

 

 軽く頷き、続ける。

「金属としての柔らかさも、魔化の時点で魔力量に応じて強化されますので、戦闘時の耐衝撃性は〈鉄の騎士〉を二回り上回ることが可能です。つまり、見た目の威厳と実戦能力の両立が期待できます」

 

 モモンガは静かにその説明を聞き、書物の頁を押さえながら考えを巡らせる。

「……素材の入手や加工、維持にかかるコストは当然上がりますが、象徴性と戦力の両面を満たすなら運用に値する選択でしょう」

 

 デミウルゴスは地図や資料を整えつつ、注意点を付け加えた。

「ゴールド製象徴ゴーレムの導入は、皇帝の威信を高める一方で、見せ物化や浪費と受け取られる危険もはらんでいます。運用方針を明確にし、国民的な支持と資源配分の説明を伴わせることが必須です」

 

 ジョンはにやりと笑い、杖を肩にかけて立ち上がった。

「よし、じゃあ次は皇帝用ゴールド騎の実行段取りを詰めるか。デミウルゴス、モモンガさん、頼むぞ」

 

 モモンガは書物に視線を落としながらも、わずかに弾んだ表情を見せる。

 デミウルゴスは冷静に資料をまとめ始め、三人の間に新たな計画の空気が立ち上った。

 ナザリックの執務室には、威厳と策略を兼ね備えた「ゴールドゴーレム」構想の、緻密な工程図が次第に描かれていくのだった。

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