オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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不変鋼?

 

 

/*/ 魔導国・技術工房 /*/

 

 

金属を打つ音がひときわ高く響く工房の一角。

ぐりもあは図面を広げ、そこに精緻な歯車やテンプの設計図を描き込んでいた。

 

「よし……一気に《不変鋼》つくっちゃいましょう」

 

不意に口にしたその言葉に、ジョンが眉をひそめた。

「不変鋼? また聞き慣れない名前だな」

 

「常温付近での熱膨張が極めて少ない合金です」

ぐりもあは軽やかに答え、指先で図面の一部を叩いた。

「時計の部品って、温度で伸び縮みするとすぐ誤差が出るんですよ。普通の鉄や銅だと、夏と冬で秒針の進み方が変わってしまう。でも不変鋼を使えば、その誤差を大幅に減らせます」

 

ジョンは感心したように腕を組む。

「なるほど……じゃあ、時計の正確さが格段に上がるわけか」

 

「そうです。テンプの輪やヒゲゼンマイ――振動を刻む一番繊細な部分に使えば、安定した周期を保てます」

ぐりもあの声は熱を帯びていく。

「まずは大型の、時計台に収めるようなものから始めましょう。大きい歯車の方が作りやすいし、技術が洗練されたら懐中時計みたいな小型化にも挑戦できます」

 

「……ふむ。じゃあ、その不変鋼ってやつの作り方は?」

ジョンが問いかけると、ぐりもあは待ってましたとばかりに合金比率を書き出した。

 

「これです。鉄に少量のニッケルとクロムを加えた特殊合金です。比率を間違えるとただの硬い鋼になってしまうので、ドワーフにきっちり溶かしてもらいましょう」

 

ジョンは紙を受け取り、しばらく黙って見つめた。

その背後で、ドワーフの鍛冶師たちが興味津々に覗き込む。

 

「……よし。試す価値はあるな」

ジョンの言葉に、工房の空気が一気に沸き立った。

 

大地を刻む巨大な時計台。

その心臓部に宿る歯車は、不変鋼の輝きでひときわ冷たく光り、やがて街の時を正確に刻むことになる――。

 

 

/*/ エ・ランテル・広場 /*/

 

工房の空気は、金属の匂いと熱気で満ちていた。

大型時計の最後の歯車が噛み合い、テンプが微かに震える。ぐりもあの目が光を帯び、ドワーフの親方たちに向けて声をかける。

 

「……できました。これで大型時計として街の時を正確に刻めます」

 

ドワーフの一人が腕組みをし、鼻を鳴らした。

「ふん。わざわざ王国に教えてやるのか?」

 

ぐりもあは軽やかに笑う。

「王国の特産にしたいからね。ここで作れる技術や知識が、他にも応用できるようになればいいと思って」

 

ジョンが目を細める。

「魔法使いなら、クォーツ式でも簡単に作れるだろうね」

 

ぐりもあは肩をすくめ、少し意地悪そうに言った。

「まー魔法でクォーツ式を作っちゃえば、それで終わりだけど、そこにたどり着くまでに技術が発展するのを狙ってるの。もちろん、ドワーフの親方たちが自分の時計を作るのも自由よ」

 

ドワーフたちは一瞬黙った後、互いに視線を交わすと、にやりと笑った。

「なるほど、そういうことか。……なら、協力してやるか」

 

そして数日後、エ・ランテルの広場には巨大な時計塔が完成した。

石造りの塔は精緻な装飾で彩られ、最上階には不変鋼の歯車とテンプが静かに刻む。

午前の光に反射して、塔は銀色に輝き、市民たちはその正確な時刻に感嘆の声をあげる。

 

広場に立つぐりもあは、塔を見上げながら微笑んだ。

「よし、まずはここから。小さな発明や工房の技術が、街全体の発展につながるはず……」

 

ジョンも隣で頷く。

「この塔、街の象徴になるな」

 

「ええ。王国の特産品として、誰でも触れられる技術の象徴にね」

ぐりもあの声には、達成感と未来への期待が混ざっていた。

 

時計塔の鐘が静かに鳴り響くたび、街は新しい時間と技術の鼓動を感じていた。

 

 

/*/ 王国・王立魔法学校 講堂 /*/

 

 

鐘楼の鐘が静かに街に響き渡る頃、エ・ランテル広場からは大型時計の正確な時刻が届いていた。

その時計塔の設計と鋳造に携わったドワーフ親方たちのうち、数名が王国に招かれ、王立魔法学校の講堂に立っていた。

 

ぐりもあは、王国の技術貴族たちに向けて報告を行っている。

「この大型時計の技術は、不変鋼の合金比率から、歯車やテンプの精密加工まで、全てドワーフの手で完成させました。今後、この技術を王国の特産品として展開します」

 

一人のドワーフ親方が壇上に進み出た。鋭い眼差しと、手にした小さな時計部品を誇らしげに掲げる。

「我々の技術を伝えるため、ここに同行します。王立魔法学校では、未来の時計職人たちに手取り足取り教えましょう」

 

ジョンが小声でぐりもあに囁く。

「本当に渡すんだな……。ドワーフを」

 

ぐりもあは微笑んだ。

「もちろん。王国の技術力を底上げするには、単に設計図を渡すだけじゃ不十分だからね。親方たちの知恵と経験をそのまま注ぎ込んでもらうの」

 

講堂の学生たちは、初めて見るドワーフの細かい金属加工の実演に目を丸くしている。

鋭利な工具を自在に操り、手のひらサイズの精密な歯車を組み上げる様子は、まるで魔法のようだ。

 

「……こんな職人、教える側の教師より凄いんじゃないか」

若い見習いの一人がつぶやく。

 

「知識と経験は伝えることで増える。ここから王国全体に広がる技術革新の種になるのよ」

ぐりもあの声には確信が込められていた。

 

やがて講堂には、歯車の回る音と親方たちの指導の声が響き渡る。

塔の鐘と同じく、正確に刻まれる時間の中で、王国の技術は新たな世代に受け継がれていった。

 

 

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