オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/スレイン法国・訓練所/*/
広々とした訓練場。鉄の床に反響する足音と、剣や槍を振る音が混ざり合う中、ジョンは隊長の横に歩み寄った。
「そういや、隊長よぉ」ジョンがふと声をかける。
隊長は振り返り、少し首をかしげた。
「お前の実年齢、13前後っぽいけど……ほんとに人間か?」
ジョンの視線は隊長の紅玉の瞳に向けられる。光を受けて鋭く輝き、確かに普通の人間とはどこか違う。
隊長は軽く眉を上げ、困惑の色を浮かべる。
「はい?」
ジョンは口元に薄く笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「目が紅玉だろ?それってアンデッドの特徴じゃん。……いっそ吸血鬼になってみるか?」
隊長は一瞬、言葉を失ったように黙る。
周囲の兵士たちも、ジョンの冗談に微かに顔を見合わせた。
隊長は冷静に視線を落とし、わずかに首を振った。
「……冗談はさておき、訓練に集中します」
その声には毅然とした力があり、ジョンの軽口も一瞬で受け流される。
ジョンは苦笑いを浮かべながら、軽く肩をすくめた。
「ふーん、人間か……ならまあ安心だな。吸血鬼だと俺、ちょっと面倒見きれんからな」
訓練所に再び金属音が響く。二人の間に、ほんの少しの緊張とユーモアが混ざり合った。
ジョンはにやりと笑いながら隊長をじっと見た。
「そういやよぉ……うちのお嬢さん――イビルアイの伴侶が、どうも良いのがいなくてな」
隊長は一瞬目を見開き、思わず言葉を詰まらせる。
「は……はぁ?」
ジョンは肩をすくめ、まるで日常の話をするかのように続ける。
「隊長なら強さも申し分ないし、体格的にも相性よさそうだろ?それに、隊長も“子供つくれ”ってうるさく言われなくなるから、完全にwin-winだ」
隊長の顔がみるみる赤くなる。目の紅玉がさらに鋭く光ったように見えた。
「……え、ええと、何をおっしゃってるのですか、神獣様……!」
ジョンは満足げに肩をすくめる。
「いやぁ、冗談ってやつだ。だけど、ちょっと考えてみても悪くない案だと思うぞ?」
ハッと息を飲む隊長に、訓練場の空気が一瞬凍りついた。
周囲の兵士たちもちらりとこちらを見て、くすくすと笑いをこらえる。
隊長は深く息をつき、必死に表情を整えた。
「……冗談、ですよね?」
ジョンは軽くうなずき、にやりと笑った。
「もちろん、もちろん。でもまあ、冗談にしても刺激的な話題だろ?」
隊長はため息をつき、額に手を当てながら、赤い瞳をわずかに逸らした。
ジョンの笑みが、今日も訓練所の緊張をほどよくほぐしていた。
隊長は息を整えつつ、心の中で何度も突っ込んでいた。
「……ちょっと待って、神獣様……何を言わせる気だ……。いや、そもそもイビルアイ様の伴侶とか、どうして私の名前が……!」
顔には必死に平静を装うが、心臓の鼓動は早くなる。
周囲の兵士たちの視線を感じつつ、隊長は深く息をついた。
「……冗談ですよね……神獣様…」
言葉には小さな震えが混じる。
ジョンは肩をすくめ、にやりと笑う。
「もちろんだよ。だけど、隊長の反応、なかなか面白いなぁ」
隊長は思わず舌打ちをし、視線を床に落とす。
「……面白いですか……神獣様……」
その時、訓練場の端でイビルアイがふわりと現れ、無邪気に隊長を見上げた。
「ジョン様、ぼーや、何の話してたんだ」
隊長は一瞬凍りつく。思わず頭を抱えそうになるが、必死に冷静を装う。
「……いや、何でもありません。訓練の話です」
イビルアイは首をかしげ、小さな手を広げる。
「ふーん、じゃあ今日は異界の観察はなしってことか?」
ジョンはにやりと笑い、隊長の横で軽く肩を叩いた。
「おう、今日は日常業務に集中だ。異界はまた今度の楽しみにしてやる」
隊長は心の中でため息をつく。
「……日常業務って言われても、心臓が持つかどうか……」
ふと小さな笑い声が訓練場に響き、ジョンとイビルアイのやり取りに、隊長は振り回されつつも、どこか和やかな空気を感じるのだった。
/*/スレイン法国・神殿/*/
神殿の静寂が漂う広間で、ジョンは神官長の前に腕を組んで立っていた。
「なあ、神官長」ジョンが低い声で切り出す。
神官長は巻き毛を軽く撫で、眉をひそめた。
「は……? あの……?」
ジョンはにやりと笑い、視線をまっすぐ神官長に向ける。
「漆黒の隊長だけど、本人が望んだら吸血鬼にしても良いか?」
神官長の顔色が一瞬変わる。静寂の中、風の音だけがかすかに響いた。
「そ、それは……」
ジョンは肩をすくめ、軽く杖を振る。
「一人で夜を生きてる奴がいてさ。一人は寂しいだろ?それに隊長が吸血鬼になれば、同じくらいの強さの奴がもう一人ついてきて、寿命関係なしに守護者になってくれるぞ」
神官長は小さく唇を噛み、困惑した表情を隠せない。
「……そうかもしれませんが……」
その瞬間、漆黒の鎧を纏った隊長がゆっくりと現れた。
「……な、何の話をしているのですか……?」
紅玉の瞳が二人を見据える。声は低く、だが明らかに動揺を隠せない。
ジョンは軽く肩をすくめ、にやりと笑った。
「いやぁ、隊長。もし望むなら吸血鬼になれるか聞いてただけだぞ」
隊長は思わず目を大きく見開き、手にした剣を握り直す。
「……は、はぁ!? 私が……吸血鬼に……なる……ですか!?」
神官長も顔を強張らせる。
「……まさか、神殿でそんな話を……」
ジョンは真顔を装い、柔らかく説得するように言った。
「夜も昼も関係なし、守護者として最強の布陣になるんだぞ。悪い話じゃないだろ?」
隊長は額に手を当て、赤い瞳をぐるりと泳がせる。
「……守護者として……ですか……。いや、でも、吸血鬼に……」
声が次第に小さくなり、狼狽の独り言のようになった。
神官長は肩をすくめ、軽くため息をつく。
「……神殿で聞くべき話ではなかったかもしれませんね……」
ジョンは肩を軽く叩き、にやりと笑う。
「まあ、今日は冗談だ。安心しろ、隊長。吸血鬼計画は次の機会までお預けだ」
隊長はようやく息を整え、神官長に小さく頭を下げる。
「……ふぅ……神殿でこんな話をされるとは思いませんでした」
二人のやり取りを眺める神官長も、思わず小さく苦笑する。
静かな広間に、奇妙な余韻だけが残った。
/*/スレイン法国・神殿/*/
神官長は眉をひそめ、深く息をつきながらも、どこか真剣な表情で言った。
「……もし、神獣様――カルバイン様の子種を頂けるのなら、隊長を差し出しても構いません」
隊長は思わず目を見開き、口元が震える。
「……神官長!?」
心臓が跳ねるように早鐘を打ち、額に手を当てる。
ジョンは軽く笑い、杖を肩にかけたまま肩をすくめる。
「抱くのはダメだ。でも、手に出したもので良ければやるぞ」
神官長は迷わずうなずき、声を強める。
「それで構いません。どうせ母体の生存率は低いでしょう……」
ジョンは指を一本上げ、にやりと笑った。
「そうだな、念押ししておくと母体の生存率はせいぜい1~2割だぞ」
隊長は思わず後ずさり、槍を握る手が震える。
「……ま、まさか……私が……そんな……!」
頭の中で次々と狼狽が駆け巡り、口を開けば声にならない悲鳴のような独り言が漏れる。
神官長は顔色を変えずに静かに見つめるが、その瞳には迷いの色はない。
「……神獣様の判断に従うのみです」
ジョンは杖を軽く振り、場を締めくくるように笑った。
「よし、今日は冗談だ。隊長、安心しろ。実行はしない」
隊長は肩で息をつき、額の汗をぬぐう。
「……ふぅ……神殿で、まさかここまで振り回されるとは……」
神官長は小さく頷き、広間に静かな余韻が残った。
冗談とはいえ、隊長の狼狽ぶりとジョンの軽口が、神殿の日常に奇妙な刺激を与えていた。