オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

293 / 392
アイアン・ホース・ゴーレム

 

 

/*/カルネ=ダーシュ村・風車小屋跡地(午後の風)/*/

 

 

軋んだ羽根が風を受けても、風車はもう回らない。

その代わりに、軒先からは金属の軽い響き――カン、カン、とリズミカルな音が鳴っていた。

 

「……できた」

 

ニニャは顔にかかった煤を袖で拭いながら、小さく息を吐いた。

作業台の上には、掌ほどの大きさの鉄の馬。

精緻な造形の鬣には銀線が走り、脚部には細かな歯車が嵌め込まれている。

ほんの少し首を傾けるその姿は、まるで生きているようだった。

 

「……村のドワーフの皆に手伝ってもらった甲斐があったな」

そう呟いて、ニニャはそっと両手でミニチュアを持ち上げた。

冷たい鉄の感触。だが、その奥に確かな“魔力の鼓動”がある。

 

「起動――コマンドワード、『ラーナ・ヴェール』」

 

淡い青の光が鉄の馬を包み、床板がわずかにきしむ。

一瞬の閃光の後、そこに現れたのは――

 

全長二メートルを超える、黒鉄の馬。

関節の一つひとつに滑らかな動きが宿り、目にあたる魔導石が紅く点灯した。

その姿はまるで、古の騎士が乗りこなす“動く石像”そのもの。

 

「よし、起動成功。――アイアン・ホース・ゴーレム、だな」

 

ニニャは誇らしげに頷くと、軽く鞍に触れた。

金属の蹄が地を打ち、わずかに頭を垂れる。まるで忠義を誓うかのような仕草だ。

 

「これで、旅がずっと楽になる。荷物も運べるし、いざとなれば護衛にもなる」

彼は満足げに笑い、ゴーレムの首筋を撫でる。

 

――ただ、次の瞬間。

 

「……でも、まだ一体目か」

目を細めて、工房の片隅に転がる鉄くずを見やる。

溶接痕、焼けた工具、魔導刻印の試作板。

パーティの人数分――あと四体。

「ふぅ……まだまだ、先は長いな」

 

肩の力を抜いたニニャは、風車小屋の外へ出た。

秋の風が、焦げた鉄と油の匂いを運んでいく。

 

村の向こうでは、ドワーフの鍛冶場から火花が上がり、

遠くの畑では、ゴブリンたちが麦束を干していた。

平和な昼下がり――それは、ほんの束の間の静寂。

 

「次はみんなの分も作る。……でも、その前に」

 

ニニャは腰を下ろし、ポケットから硬く焼いたパンを取り出した。

「ちょっと休憩、だな」

 

傍らでは、鉄の馬が微かに鼻を鳴らしたような音を立てる。

まるで「ご主人も、少しは休め」と言っているかのように。

 

ニニャは笑って、パンを齧った。

夕陽に照らされた金属の馬は、まるで誇らしげに輝いていた。

 

 

/*/カルネ=ダーシュ村 昼下がりの作業小屋前/*/

 

 

陽光が穏やかに差し込む午後。

木工の香りと鉄の匂いが混じる工房の前で、三人の冒険者――ペテル、ルクルット、ダイン――が、

新しく作られた鉄の馬を囲んでいた。

 

「……やっぱり、すげぇな」

ルクルットが目を丸くして、ゴーレムの脚部を叩く。

カン、と澄んだ音が響く。

 

「ニニャのやつ、とうとうこんなのまで作るとは」

ペテルは感心半分、呆れ半分で腕を組んだ。

「馬型のゴーレムなんて、貴族の軍隊でもそうそう見ないぞ。

 それを自分の手で作っちまうんだから……まったく、あいつは“天才”か“酔狂”かどっちかだな」

 

ダインが穏やかに笑いながら、手元の木片を削っている。

「そのどっちもであるな。あれほど静かに夢中で作業する者、我も久しく見ぬ」

 

作業小屋の中から、かすかに金属音が響いた。

ニニャはもう次の試作――〈収納空間〉を付加した袋の製作に取りかかっているのだ。

 

ペテルが肩をすくめた。「あの“ポケットスペース”ってやつ、完成すればだいぶ楽になるな。

今まで荷物の半分がルクルットの背中任せだったろ」

 

「おい、俺の筋肉を収納袋扱いすんな!」

「実際そうだろ」

「うるせぇ!」

 

笑い声が風に混じる。

 

「さて」ダインが木片を削り終え、小さく頷いた。

「我は我で、“燃え尽きぬ薪”でも作るのである」

 

ルクルットが首を傾げる。「なんだそれ? また妙なもん考えたな」

 

「その名の通りであるぞ。ドルイドの秘術にて木霊を宿す薪だ。

 一度火をつければ燃え尽きず、一日経つごとに再生してまた燃える。

 燃料を探す手間がなくなるのであるな」

 

ペテルが目を丸くした。「それ、普通に商売できるだろ……」

「旅先で薪を探す苦労、貴殿も分かるであろう?」

「まあ……雨の日に湿った木ばっか拾ってた身としては、ありがたい話だがな」

 

ルクルットが腕を組み、真剣な顔をしてうなずいた。

「じゃあ、俺は浮いた予算で“魔法のテント”でも買ってくるか。

 中が広くて、寒さも防げるやつ。あと“無限の水差し”も。どうせ飲み水と洗い物で毎回困ってたし」

 

「良い買い物であるな。旅はずっと楽になるであろう」

ダインは笑みを浮かべ、静かに手を合わせた。

木の欠片が淡く光り、緑の符が風に溶けていく。

 

ペテルはそんな光景を見ながら、つぶやくように言った。

「……俺たち、本当に“冒険者”になってきたんだな」

 

遠くの小屋から、金属を叩く音。

ニニャの声が微かに届く――「よし、もう少しで完成だ!」

 

三人は顔を見合わせ、同時に笑った。

 

風が吹き抜ける。

焦げた鉄と新しい木の匂い、そして仲間の笑い声。

それは、彼らの旅がまた一歩、確かな“形”を得た瞬間だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。