オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ スレイン法国・訓練場 /*/
向かい合う真紅の外套を翻すイビルアイと、漆黒の聖典隊長。空気は凍るように張り詰め、周囲の訓練場には僅かな風の音さえ届かない。
「ふ、新たな力に目覚めた私にひれ伏すが良い。ぼーや、謝るなら今の内だぞ」
イビルアイの声は挑発的に響く。外套の裾がわずかに舞い、仮面は無く額には黒曜石の冠身、宝玉には小宇宙のような渦が閉じ込められている。刻まれたルーンが一斉に整列し、低い共鳴が鳴っている。瞳の紅の色彩が夕陽に反射して鋭く光った。
「そう言われても、これは訓練ですので……」
隊長の声には戸惑いと緊張が混じる。だが目は真剣そのものだ。
「真面目か!……まあ良い。いくぞ」
イビルアイの瞳が光を帯び、両手を差し伸べる。
「はい」
隊長が小さく頷く。
イビルアイが呪文を唱える――
その瞬間、イビルアイの掌に淡く赤い光が浮かび、幻影の心臓がくっきりと映し出される。血管の走り、鼓動の震えまでが見えるようだ。
「?」
隊長は眉をひそめ、何が起こったのか理解しきれず立ちすくむ。
「勝ったな」
イビルアイは不敵に笑った。
「まったー!それは……」
ジョンの声が訓練場に届く。だが次の瞬間、イビルアイは幻影の心臓を握りつぶした。その感触が掌に伝わり、冷たくも力強い振動が手のひらを走る。
隊長は思わず「ぐっ」と胸を押さえ、足元がおぼつかなくなる。即死は免れたものの、朦朧とした状態で立ち尽くすしかない。
だがイビルアイはここで止まらない。
詠唱前に両手を打ち合わせると、掌と掌の間に白銀の雷撃が弧を描き、周囲の空気が瞬く間に白く染まる。まるで天空を裂く龍がうねるように、白い雷撃が肩口から両腕に荒れ狂い、眩い光と轟音が訓練場を支配した。
「ぼーや、私の勝ちだな。認めなければ、これを打ち込む」
イビルアイの声は雷鳴と重なり、威圧感を増す。
「ま、まいりました……!」
隊長はふらつきながらも膝をつき、白旗を上げる。
「勝った!勝ったぞ!ふははは!」
イビルアイは豪快に笑い、赤い外套を大きく翻す。雷の光が揺れるたび、彼女の姿はまるで戦場の女神のように輝いた。
訓練場には雷の残り香と、イビルアイの勝利を讃える高揚感が漂っていた。
/*/ スレイン法国・訓練場 /*/
ジョンが思わず声を上げる。
「それは試作した〈叡智安定冠(スタビライズ・クラウン)〉じゃ。どうしてイビルアイが持ってる?」
イビルアイは肩をすくめ、瞳にわずかな困惑を宿す。
「良く分からんが、魔導王がくれた」
「モモンガさーーん!?」
ジョンの叫びが訓練場に響き渡る。
隊長はまだ朦朧としながら、震える声で問いかける。
「私は何をされたのですか……?」
ジョンは苦笑混じりに説明する。
「第9位階の即死魔法を喰らったんだよ。抵抗に成功したから死ななかったけど……」
隊長の瞳が大きく見開かれる。
「第9位!イビルアイさん、でしたよね……」
「なんだ、ぼーや」
イビルアイは挑発的に微笑むが、口調は軽い。
隊長は息を整え、決意の光を帯びて言った。
「漆黒聖典に来ませんか! 一緒に人界を守りましょう!」
イビルアイは軽く首を傾げ、真剣に考える。
「理念は理解するが、人間第一主義には賛同しかねる」
隊長は柔らかく微笑み、反論する。
「そこは心配いりません。新たな神の元、我等は他の種族とも手を取り合うようになったのはご存じの通り。……確かに未だ旧来のやり方が残っている部分はありますが、それはもう、徐々に改善されつつあります」
訓練場に、静かな緊張と、新たな協力への希望が同時に漂った。
イビルアイの目にわずかに興味の色が浮かぶ。彼女が心を動かす日は、果たして来るのだろうか――。