オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/竜王国 東北山脈麓・開拓村/*/
「黒竜が山から降りてきた――」
開拓村の代表が泣きそうな顔で訴えた。
家畜が焼かれ、畑は踏み荒らされ、避難所には泣く子の声が絶えない。
ジョンは肩を回して、軽く笑った。
「黒竜ゲットしてくるぜ」
村人たちがぽかんと見送る中、白い外套を翻し、彼は山道へと消えた。
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山脈中腹。
黒煙を吐く洞窟の前に、全長二十メートル級の黒竜が鎮座していた。
漆黒の鱗、紅玉のような瞳、咆哮一つで岩肌が砕ける。
ジョンは無言でその前に立ち、構えを取る。
「――〈手加減〉」
一言。
拳が振るわれた。
衝撃波で山の岩肌が裂け、黒竜の巨体が吹き飛ぶ。
しかし、致命傷にはならない。
HPが“1”だけ残るよう精密に制御された、人外の殴打だった。
「ガ……ガァァ……!」
黒竜は必死に咆哮し、再び襲いかかる。
ジョンの拳が再び閃く。
「手加減」
「手加減」
「手加減」
――幾度も繰り返される“優しい暴力”。
竜の鱗は砕け、角が折れ、ついにその心が折れた。
地に伏した黒竜は、もはや抵抗の意思を失い、ジョンの掌に額を押し当てる。
「よしよし、わかればいい。今日からうちの子だ」
そのままジョンは山を巡り、各地の巣を訪れた。
同じように〈手加減〉の拳で心を折り、
黒竜たちを次々と“テイム”していく。
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数日後――
エ・ランテル上空。
黒竜十数頭を従え、ジョンが帰還した。
空が黒く覆われ、冒険者たちは悲鳴を上げるが、
先頭の竜の背に立つ青白い狼の姿を見て、すぐに敬礼に変わった。
モモンガが頭を抱える。
「……また、とんでもない連中を連れてきましたね」
「まぁまぁ、働き口はあるさ。護衛でも運搬でも使える」
だが、黒竜の中にはなお反抗的な個体がいた。
ジョンは肩を竦めて言った。
「仕方ねぇ。見せしめだな」
呼び出されたのは、シャルティア。
紅い唇が歪む。
「わたくしに、お任せを――」
吸血の儀式が行われ、反抗的な竜は“吸血竜”へと変貌した。
漆黒の鱗に紅い光脈が走り、瞳は真紅に輝く。
シャルティアは満足げに笑みを浮かべ、
他の黒竜たちはその光景に戦慄して頭を垂れた。
ジョンは腕を組み、ため息をつく。
「これでしばらくは大人しくしてくれるだろう。
ま、結果オーライだな」
モモンガは呆れ半分、感心半分で呟いた。
「あなたの“手加減”ほど恐ろしいものはありませんね」
空を覆う群竜が、エ・ランテルの上で旋回した。
――竜王国の災厄は鎮まり、代わりに“黒翼の守護者”たちが誕生した瞬間だった。
/*/エ・ランテル 冒険者ギルド前・竜着陸場/*/
黒翼の影が沈む午後。
黒竜たちを率いて帰還したジョンは、満面の笑みでモモンガとぐりもあの前に立った。
その背後では、一際巨大な黒竜――吸血化を経て、漆黒の鱗に真紅の光脈を走らせた個体が、
ゆっくりと翼を広げていた。
ジョンは得意げに胸を張る。
「これがほんとの――
陽光を反射して、竜の瞳がギラリと赤く輝く。
翼をはためかせるたび、空気が震え、近くの冒険者たちが尻もちをついた。
ぐりもあは目を輝かせて飛び上がる。
「カッコいい!! 僕も欲しい! えっと……
その瞬間、背後の氷室から控えていたフロスト・ドラゴンが、
ぴたりと動きを止め、全身の鱗を逆立てる。
震える声でモモンガが言った。
「ぐりもあさん、フロスト・ドラゴンが怯えてます。やめてあげなさいよ」
ぐりもあは頬をふくらませて抗議する。
「えー、だって白くて青いドラゴンなんて絶対かっこいいじゃん!」
ジョンは笑いながら、レッドアイズの首を軽く叩いた。
「まぁまぁ、順番な。青いのはそのうち捕まえてきてやる」
モモンガはこめかみに手を当てて嘆息する。
「……あなたが言うと冗談に聞こえないのが怖いんですよ」
レッドアイズが喉を鳴らし、赤い瞳がゆらりと光る。
その威容にぐりもあが歓声を上げ、
ジョンは肩越しにモモンガへウィンクを送った。
「ほら、モモンガさん。見ろよ、この艶、この迫力。
やっぱ竜は“黒くて赤い目”に限るな!」
モモンガはため息をつきながらも、どこか楽しそうに笑った。
「……そのうち、カード化して配るつもりじゃないでしょうね?」
ジョンは悪戯っぽく笑い、
「面白ぇな、それ。〈召喚用カード〉って名前で出すか」
――こうして、魔導国に新たな伝説的“ペット”が誕生した。
そしてこの日を境に、エ・ランテルでは子どもたちの間で、
「黒い竜と青い竜、どっちが強いか」論争が長く続くことになる。
/*/エ・ランテル 魔導国商業ギルド本館・展示会ホール/*/
賑わう会場の中央。
人だかりの向こうで、ジョンが自慢げに立っていた。
テーブルの上には厚手の紙で作られた小さなカードの束――
その表には、ドラゴンやゴーレム、魔法の呪文が精緻な印刷で描かれている。
「その名も《デュエル・オブ・ナザリック》!」
ジョンが声を張る。
「カードで戦う対戦魔導ゲームだ! 実際に魔法は出ないけど、戦略は出る!」
最初は子どもたちの興味を引くための企画だった。
ところが、ルールを聞いていた商人や冒険者、貴族たちが次々とテーブルに座る。
「攻撃力の計算は……これを足して、魔力修正を引くのか?」
「まて、それなら防御魔法の倍率をかければ逆転できるぞ!」
「くっ……算術が分からん! 子どもに負けた!」
笑い声と計算式が飛び交い、いつしか大人たちの方が真剣に勝負していた。
ぐりもあは隣で実況をしている。
「エルダーリッチ三連打! ジョンさんの盤面、死霊まみれです!」
モモンガは呆れながらも苦笑いした。
「まさか娯楽で識字教育が進むとは……」
実際、カードにはステータスや特殊効果がびっしり書かれており、
遊ぶには“文字を読めて、数を扱える”ことが前提だった。
そのため、子どもたちは自然と読み書きと計算を覚え、
家庭では「宿題しないとカード禁止!」が常套句になった。
そして街では、こう呼ばれるようになる。
「ジョン様のカード学校」
昼は遊び、夜は勉強。
読み書きを覚えた子どもたちは、やがて商人・文官・技術者として魔導国を支える人材に成長していく。
ジョンはホールの片隅で勝負を見ながら、笑って言った。
「いいだろ? 強くなるには頭を使う。
勝ちたい奴ほど、よく学ぶ。――それが教育ってもんさ」
モモンガは感心したように頷いた。
「遊びを通じて文明を育てる……あなたのやることはいつも本質的ですね」
ぐりもあはカードを高く掲げて叫んだ。
「ジョンさん! 僕、今度は限定カード《青眼の白龍》作って!」
ジョンはにやりと笑う。
「よし、特別版にしてやる。印刷所の夜勤、増やしとけ!」
こうして、魔導国初の教育娯楽産業《ナザリック・カードゲームズ》は誕生し、
子どもも大人も夢中になる“遊びながら学ぶ”文化が根付いていった。