オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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真紅眼の黒竜

 

 

/*/竜王国 東北山脈麓・開拓村/*/

 

 

「黒竜が山から降りてきた――」

開拓村の代表が泣きそうな顔で訴えた。

家畜が焼かれ、畑は踏み荒らされ、避難所には泣く子の声が絶えない。

 

ジョンは肩を回して、軽く笑った。

「黒竜ゲットしてくるぜ」

 

村人たちがぽかんと見送る中、白い外套を翻し、彼は山道へと消えた。

 

 

/*/

 

 

山脈中腹。

黒煙を吐く洞窟の前に、全長二十メートル級の黒竜が鎮座していた。

漆黒の鱗、紅玉のような瞳、咆哮一つで岩肌が砕ける。

 

ジョンは無言でその前に立ち、構えを取る。

 

「――〈手加減〉」

 

一言。

拳が振るわれた。

衝撃波で山の岩肌が裂け、黒竜の巨体が吹き飛ぶ。

しかし、致命傷にはならない。

HPが“1”だけ残るよう精密に制御された、人外の殴打だった。

 

「ガ……ガァァ……!」

黒竜は必死に咆哮し、再び襲いかかる。

ジョンの拳が再び閃く。

「手加減」

「手加減」

「手加減」

 

――幾度も繰り返される“優しい暴力”。

 

竜の鱗は砕け、角が折れ、ついにその心が折れた。

地に伏した黒竜は、もはや抵抗の意思を失い、ジョンの掌に額を押し当てる。

 

「よしよし、わかればいい。今日からうちの子だ」

 

そのままジョンは山を巡り、各地の巣を訪れた。

同じように〈手加減〉の拳で心を折り、

黒竜たちを次々と“テイム”していく。

 

 

/*/

 

 

数日後――

 

エ・ランテル上空。

黒竜十数頭を従え、ジョンが帰還した。

空が黒く覆われ、冒険者たちは悲鳴を上げるが、

先頭の竜の背に立つ青白い狼の姿を見て、すぐに敬礼に変わった。

 

モモンガが頭を抱える。

「……また、とんでもない連中を連れてきましたね」

「まぁまぁ、働き口はあるさ。護衛でも運搬でも使える」

 

だが、黒竜の中にはなお反抗的な個体がいた。

ジョンは肩を竦めて言った。

「仕方ねぇ。見せしめだな」

 

呼び出されたのは、シャルティア。

紅い唇が歪む。

「わたくしに、お任せを――」

 

吸血の儀式が行われ、反抗的な竜は“吸血竜”へと変貌した。

漆黒の鱗に紅い光脈が走り、瞳は真紅に輝く。

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)――

 

 

シャルティアは満足げに笑みを浮かべ、

他の黒竜たちはその光景に戦慄して頭を垂れた。

 

ジョンは腕を組み、ため息をつく。

「これでしばらくは大人しくしてくれるだろう。

 ま、結果オーライだな」

 

モモンガは呆れ半分、感心半分で呟いた。

「あなたの“手加減”ほど恐ろしいものはありませんね」

 

空を覆う群竜が、エ・ランテルの上で旋回した。

――竜王国の災厄は鎮まり、代わりに“黒翼の守護者”たちが誕生した瞬間だった。

 

 

/*/エ・ランテル 冒険者ギルド前・竜着陸場/*/

 

 

黒翼の影が沈む午後。

 

黒竜たちを率いて帰還したジョンは、満面の笑みでモモンガとぐりもあの前に立った。

その背後では、一際巨大な黒竜――吸血化を経て、漆黒の鱗に真紅の光脈を走らせた個体が、

ゆっくりと翼を広げていた。

 

ジョンは得意げに胸を張る。

「これがほんとの――真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)だよ。どーよ。カッコよくない!」

 

陽光を反射して、竜の瞳がギラリと赤く輝く。

翼をはためかせるたび、空気が震え、近くの冒険者たちが尻もちをついた。

 

ぐりもあは目を輝かせて飛び上がる。

「カッコいい!! 僕も欲しい! えっと……青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)が良いな!」

 

その瞬間、背後の氷室から控えていたフロスト・ドラゴンが、

ぴたりと動きを止め、全身の鱗を逆立てる。

震える声でモモンガが言った。

 

「ぐりもあさん、フロスト・ドラゴンが怯えてます。やめてあげなさいよ」

 

ぐりもあは頬をふくらませて抗議する。

「えー、だって白くて青いドラゴンなんて絶対かっこいいじゃん!」

 

ジョンは笑いながら、レッドアイズの首を軽く叩いた。

「まぁまぁ、順番な。青いのはそのうち捕まえてきてやる」

 

モモンガはこめかみに手を当てて嘆息する。

「……あなたが言うと冗談に聞こえないのが怖いんですよ」

 

レッドアイズが喉を鳴らし、赤い瞳がゆらりと光る。

その威容にぐりもあが歓声を上げ、

ジョンは肩越しにモモンガへウィンクを送った。

 

「ほら、モモンガさん。見ろよ、この艶、この迫力。

 やっぱ竜は“黒くて赤い目”に限るな!」

 

モモンガはため息をつきながらも、どこか楽しそうに笑った。

「……そのうち、カード化して配るつもりじゃないでしょうね?」

 

ジョンは悪戯っぽく笑い、

「面白ぇな、それ。〈召喚用カード〉って名前で出すか」

 

――こうして、魔導国に新たな伝説的“ペット”が誕生した。

そしてこの日を境に、エ・ランテルでは子どもたちの間で、

「黒い竜と青い竜、どっちが強いか」論争が長く続くことになる。

 

 

/*/エ・ランテル 魔導国商業ギルド本館・展示会ホール/*/

 

 

賑わう会場の中央。

人だかりの向こうで、ジョンが自慢げに立っていた。

テーブルの上には厚手の紙で作られた小さなカードの束――

その表には、ドラゴンやゴーレム、魔法の呪文が精緻な印刷で描かれている。

 

「その名も《デュエル・オブ・ナザリック》!」

ジョンが声を張る。

「カードで戦う対戦魔導ゲームだ! 実際に魔法は出ないけど、戦略は出る!」

 

最初は子どもたちの興味を引くための企画だった。

ところが、ルールを聞いていた商人や冒険者、貴族たちが次々とテーブルに座る。

 

「攻撃力の計算は……これを足して、魔力修正を引くのか?」

「まて、それなら防御魔法の倍率をかければ逆転できるぞ!」

「くっ……算術が分からん! 子どもに負けた!」

 

笑い声と計算式が飛び交い、いつしか大人たちの方が真剣に勝負していた。

 

ぐりもあは隣で実況をしている。

「エルダーリッチ三連打! ジョンさんの盤面、死霊まみれです!」

モモンガは呆れながらも苦笑いした。

「まさか娯楽で識字教育が進むとは……」

 

実際、カードにはステータスや特殊効果がびっしり書かれており、

遊ぶには“文字を読めて、数を扱える”ことが前提だった。

そのため、子どもたちは自然と読み書きと計算を覚え、

家庭では「宿題しないとカード禁止!」が常套句になった。

 

そして街では、こう呼ばれるようになる。

 

「ジョン様のカード学校」

 

昼は遊び、夜は勉強。

読み書きを覚えた子どもたちは、やがて商人・文官・技術者として魔導国を支える人材に成長していく。

 

ジョンはホールの片隅で勝負を見ながら、笑って言った。

「いいだろ? 強くなるには頭を使う。

 勝ちたい奴ほど、よく学ぶ。――それが教育ってもんさ」

 

モモンガは感心したように頷いた。

「遊びを通じて文明を育てる……あなたのやることはいつも本質的ですね」

 

ぐりもあはカードを高く掲げて叫んだ。

「ジョンさん! 僕、今度は限定カード《青眼の白龍》作って!」

 

ジョンはにやりと笑う。

「よし、特別版にしてやる。印刷所の夜勤、増やしとけ!」

 

こうして、魔導国初の教育娯楽産業《ナザリック・カードゲームズ》は誕生し、

子どもも大人も夢中になる“遊びながら学ぶ”文化が根付いていった。

 

 

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