オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ナザリック地下大墳墓 第9層・モモンガの執務室。 朝会延長戦/*/
白い魔導灯が天井に反射し、巨大な設計図が壁一面に張られている。
そこには、魔導国軍の主力兵装――〈鉄の騎士〉と、その隣に並ぶデスナイトの比較図。
ジョンがペンを回しながらぼそりと呟いた。
「……鉄の騎士と相対すると、デスナイトって小さく見えるよね」
モモンガは静かに頷く。
「そうですね。鉄の騎士は全高4メートルに対して、デスナイトは2.5メートル。
同じ"威圧系"ユニットでも、見栄えのバランスが悪いです」
ジョンは顎に手を当て、にやりと笑った。
「じゃあさ――鉄の騎士と演習する時に、デスナイトをちょっと"盛る"のはどうだ?
3千体くらい特別仕様ってことで、〈大型化〉の魔法を〈永続化〉しておく。
あれなら、デスナイト3.75メートルくらいにはなるし、
鉄の騎士と向かい合っても、見劣りしないだろ」
モモンガは椅子に寄りかかり、骨の指を組んだ。
「……いいですね。
大型個体が前衛に並べば、観閲式や演習時の威圧感が倍増します。
民間からの印象も"魔導国の軍勢=巨大で規律的"に統一できる」
「でしょ?」とジョンが笑う。
だが、その横でぐりもあが眉をひそめて口を挟んだ。
「ちょっと待ってください。
また二人で〈大型化〉と〈永続化〉をひたすら掛け続けるつもりですか?
あの魔力維持、かなりキツいんですよ。前回の大型ランチャーの時、
モモンガさんまで"マナ枯渇エモート"出てたじゃないですか」
ジョンは悪びれもせず笑いながら言う。
「だって――」
モモンガが続ける。
「ライン作るより――」
二人同時に言った。
「早いんですもん」
ぐりもあはこめかみに手を当てた。
「二人揃ってブラック体質なんですよ……」
ジョンは紙束を指で弾きながらにやりと笑う。
「まあ、半日で三千体なら上出来だろ? モモンガさん、やりますか」
モモンガは静かに立ち上がり、淡々と宣言した。
「では――夜明けまでに"巨躯の死者部隊"を完成させましょう」
ぐりもあの小さな悲鳴を背に、
ナザリックの二大過労魔導師が、またも徹夜コースに突入したのだった。
/*/ナザリック地下大墳墓 訓練広場 深夜/*/
石畳の大広間に、黒鉄の波がずらりと並んでいた。
デスナイト三千体――その全てが〈大型化〉と〈永続化〉の魔法によって強化され、
巨躯の列は、もはや壁のように圧倒的だった。
ジョンは腕を組み、少し離れた場所から眺めて唸る。
「おお……カッコ良い」
モモンガも静かに頷く。
「ですね。これだけ揃うと壮観です。
帝国軍が見たら、確実に膝をつくレベルですね」
だが、しばらく眺めたあと、ジョンはふと首を傾げた。
「……でもさ、黒一色って、ちょっと寂しくない?」
モモンガが眼窩を光らせて振り向く。
「と、言うと?」
ジョンはニヤリと笑う。
「剣と盾と鎧にさ、金色の縁取りを入れてやると見栄えが良くない?
ほら、“漆黒に黄金”って組み合わせ、強者の証じゃん」
その瞬間、モモンガの赤い瞳が輝いた。
「……ナザリック・マスターガーダーみたいでカッコ良いですね!」
ジョンは拳を打ち合わせる。
「だろ!? やるか!」
「やりましょう!」
――その会話が、地獄の二日目の始まりだった。
そこから始まる怒涛のエンチャント作業。
〈金属光沢付与〉、〈魔法耐性付与〉、〈永久装飾定着〉の三連魔法を一体ずつ。
三千体。
ジョンとモモンガの手元から次々と金色の光が走り、
広場全体が昼のように輝いていく。
漆黒の鎧が、金の縁取りに染まり――三千の巨影が、まるで軍神の祭列のように整った。
モモンガが疲労気味の声で笑う。
「……見てくださいジョンさん、これ……完璧ですよ……」
ジョンも笑いながら、半分眠そうに言う。
「うん……ヤバい、これ……ポスターにして飾りたいレベル……」
そこへ――背後から、軽やかだが怒気を含んだ足音。
「――お二人とも、いい加減に寝なさい!!」
ぐりもあが書類を抱え、魔導照明を背に仁王立ちしていた。
目の下にはクマ、法衣の帯はピンと立ち、
明らかに“もう付き合いきれない”顔である。
ジョンは気まずそうに振り返る。
「……だって、ここまでやったら仕上げたくなるじゃん?」
モモンガも申し訳なさそうに頭を掻く。
「ライン生産するより早いですし……」
ぐりもあの声が、氷のように冷えた。
「――徹夜、二日目です!!!」
大広間の中、三千の金縁デスナイトたちが沈黙したまま整列していた。
その姿は壮麗にして完璧、そして――
徹夜で燃え尽きた二人の創造主が、床に突っ伏しているという、
実にナザリックらしい完成風景であった。
/*/
「大型化したデスナイトの姿勢が良くなってない?」
「本当だ。姿勢が良くなってる」
「こいつらもカッコいいのが気に入ったみたいだね」
モモンガは腕を組んでしばらく観察し、赤い光を瞬かせながらうなずいた。
「……自己意識の向上、でしょうか。外見を整えられた結果、“より完璧であろう”という指向性が芽生えたのかもしれませんね。ナザリック製アンデッドは、意外と見た目を気にする傾向がありますし」
ジョンは吹き出した。
「ははっ、要は“見られる喜び”ってやつか。デスナイト三千体が見栄えを気にして背筋伸ばすとか……軍事式典に出す価値あるじゃん」
その時、金縁の鎧をまとった一体のデスナイトが、ごくわずかに動いた。
わずかに胸を張り、盾の角度を直す――その仕草は、まるで「整列姿勢の美」を理解しているかのようだった。
モモンガは感嘆の声を漏らす。
「……見てください。まるで“栄誉”という概念を学習したようです」
ジョンは頬を掻きながら苦笑した。
「そのうち、整列の前に鏡で確認するようになるんじゃないか? “我ら、映える角度を心得たり”とか言ってさ」
モモンガもつられて笑う。
「それは困りますね……でも、もしもそこまで行ったら、芸術部門で表彰しましょう。〈美しき死者〉部隊、です」
「それ、いいな。デスナイト三千のうち数十体を“儀仗兵”として育てるか。観閲式専用――無駄に優雅な動作を徹底訓練してさ」
ジョンの目が輝く。すでに頭の中では、黄金の儀仗デスナイトが槍を掲げ、行進音に合わせて脚を上げる姿が描かれていた。
ぐりもあが、書類を抱えたまま眉間を押さえる。
「……あの、それ、今度は演習じゃなく“ファッションショー”になりますけど」
ジョンは悪びれずに答えた。
「いいじゃん、〈魔導国軍・第一儀仗死者連隊〉――通称、“ゴールデン・マーチ”。かっこよくない?」
モモンガは笑いながら同意した。
「ええ、いい響きですね。……ぐりもあさん、許可は?」
ぐりもあは深くため息をつき、静かに言った。
「……せめて、ちゃんと寝てからにしてください」
二人は顔を見合わせ、声を揃えて答えた。
「はーい」
こうして、“金縁デスナイト三千”のうち一部は、のちにナザリック初の**儀仗部隊〈ゴールデン・マーチ〉**として登録されることになる。
行進速度は正確に毎秒一歩、盾の傾きは三度以内、そして――
“背筋の角度は常に完璧”という、世界で最も美しいアンデッド軍団が誕生したのだった。
/*/ナザリック地下大墳墓 第9層・モモンガ執務室 朝/*/
ナザリックの朝は、いつも人工照明の白い光で始まる。
ジョンは伸びをしながらソファに寝転がったまま、満足そうに言った。
「――良く寝たー」
向かいのデスクでは、モモンガが書類を整理していた。
「私は人化して寝たら、アルベドに添い寝されていましたよ」
ジョンは一瞬で目を覚まし、苦笑する。
「何事も無くて良かったね」
「ええ……。何事も、無くて、良かったです……」
モモンガはどこか遠い目をして、静かに珈琲を啜った。
机の端には、昨夜完成した"金縁デスナイト三千体"の報告書。
それを見ながらモモンガが提案した。
「せっかく完成したんですし、軍事演習か、いっそ軍事パレードでもしたいですね!」
ジョンの顔がぱっと明るくなる。
「いいねそれ! 夜明けに行進させて、朝日を背に黄金に輝くデスナイト三千! 絵になるじゃん!」
そこに、ぐりもあが入室。
書類を抱えたまま、完璧な無表情で二人を見た。
「……周辺国がざわつくので、止めてください」
モモンガが残念そうに項垂れる。
「そんな!」
ジョンも机を叩く。
「ぐりもあさん、あれだけ徹夜したんだぞ!? 少しくらい見せびらかしてもいいだろ!」
ぐりもあは冷ややかに返す。
「"徹夜二日で作った黄金死者軍団が行進"なんて見せたら、
帝国も王国も"魔導国が侵攻を始めた"って思いますよ」
モモンガとジョンは顔を見合わせ、同時に小声で言った。
「……まぁ、そうか」
ぐりもあはため息をつき、机に新しい書類を置く。
「その代わり、観閲式の映像を記録して、宣伝用に編集しましょう。
"魔導国の秩序と威厳を示す映像"って方向で」
ジョンの目が輝く。
「それだ! ナザリック・シネマ部に頼もう!」
モモンガも嬉しそうに頷く。
「いいですね。ナレーションは誰にしましょう?」
ぐりもあは即答した。
「――もちろん、アルベドです」
二人は顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。
こうして、"金縁デスナイト三千"は実戦ではなく、
ナザリック広報部のプロモーション映像として世界を震撼させることになる。