オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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貴族たちの腕試し会1

 

 

/*/バハルス帝国・闘技場 貴族控え室(夕刻)/*/

 

 

皇帝主催の闘技大会を翌日に控え、闘技場は早くも緊張した熱気に包まれていた。

石造りの観覧席の奥では、貴族たちが自らの剣闘士を誇らしげに語り合い、各家の威信を懸けての策略が渦を巻いていた。

 

その喧騒から少し離れた来賓控え室――

竜王国の姫、アウレリアは長い黒髪を整えながら、小さくため息をついた。

 

「まったく……どうしてこうなるのかしら」

 

淡金の瞳が窓越しに闘技場を見下ろす。

陽が傾き、砂の舞う闘技場に赤い光が射す。

貴族たちの「観覧席の華」として招かれた彼女だが、裏では“竜王国の戦力と意向”を探るための視線が注がれていることを、彼女自身が一番理解していた。

 

「セラブレイトが居れば、少しは違ったのでしょうけれど」

小さく笑う声に、寂しさが滲む。

姉であるドラウディロン女王の王配となった今、彼は外交大使として遠く南方諸国を巡っている。

帝国まで来ることはもう当分ない。

 

そんな折――

 

「……呼びましたか、姫殿下?」

 

扉を開けて入ってきたのは、四人の冒険者。

〈漆黒の剣〉の仲間たち――ペテル、ルクルット、ニニャ、そしてダイン。

 

アウレリアは微笑みながら彼らを迎えた。

「ええ。相談に乗ってもらいたいことがあって」

 

ルクルットが顎を掻く。「もしかしなくても、あの“貴族の剣自慢大会”の件ですか?」

 

「……察しが良いのね」

 

ニニャがすぐに手帳を開き、淡々と記す。

「帝国では、貴族が自分の剣闘士を出して互いに競わせる形式。

 ただし、優勝者は“皇帝陛下の剣闘士”として名誉を受ける。

 つまり、政治的な駆け引きの場でもある――ってところですね」

 

「なるほどであるな」

ダインが腕を組み、静かに頷いた。

「それで殿下は、出場を求められておると?」

 

「出場までは言われていません。ただ……“竜王国の武勇も見たい”と。

 あからさまに挑発してくる貴族もいましてね」

 

ペテルが眉をひそめた。「なるほど。外交儀礼の皮を被った品評会、ってわけか。

竜王国の英雄セラブレイト殿が不在な今、貴族どもがどこまで出方を探るつもりか……」

 

ルクルットが肩を竦めて笑う。「つまり“身代わり”を出せばいいってことっすね?」

 

「簡単に言えば、そうなります」アウレリアは真面目な顔で頷いた。

「竜王国としての威信を損なわず、なおかつ帝国の顔を立てる方法……」

 

ニニャがすぐに顔を上げた。

「私たち〈漆黒の剣〉が出れば良いんじゃないですか? 一応、帝国の登録冒険者ですし」

 

「おお、なるほどである!」ダインがぱん、と手を叩く。

「帝国所属の冒険者が、竜王国の賓客を“守る形”で試合に出る。

 形式的にも自然であるな」

 

ペテルは少し考え込み、静かにうなずいた。

「確かに……悪くない策だ。モモン殿が帝国にいた時と同じ手口だな。

 外から見れば“帝国の冒険者が竜王国の姫を護衛している”という形に映る。

 それなら、どの貴族も文句を言えまい」

 

アウレリアの金の瞳が柔らかく光を帯びた。

「……助かります。あなたたちがそう言ってくれるだけで心強い」

 

ルクルットはニッと笑う。「よっしゃ、決まりっすね。

 こっちは観客席で退屈するより、試合で汗かいた方が性に合ってる!」

 

ダインが少しだけ厳しい口調で続けた。

「ただし、我らはあくまで“護衛”である。貴族の顔を潰す戦いは避けねばならん。

 殿下の立場に傷を付けるわけにはいかぬ」

 

「分かっています。……無理はなさらないで」

アウレリアは微笑んで、胸の前で手を組んだ。

「それでも、帝国における“竜王国の絆”を見せられたら――

 姉も、セラブレイトもきっと誇りに思ってくれるでしょう」

 

窓の外では、闘技場の中央に設えられた祭壇に火が灯り始めていた。

夜の帳が落ち、歓声が遠くから聞こえる。

明日――闘技大会の幕が上がる。

 

竜王国の姫と、漆黒の剣の冒険者たち。

それぞれの誇りと友情が、帝都の砂の上で交わろうとしていた。

 

 

/*/バハルス帝国・闘技場 本戦第一回戦/*/

 

 

太鼓が鳴り響き、観客席から熱狂の歓声が巻き起こった。

真昼の太陽が砂の舞う闘技場の中心を照らす。帝都の貴族、軍人、そして民草までもが押しかけたこの日の舞台は、まさに祭りであり――政治でもあった。

 

「さあああああッ! ついに来たぁああああッ!!」

司会者の魔導拡声器を通した声が響き渡る。

 

「第一回戦ッ! ――あの“天位に挑んだ男”ッ!!

 冒険者〈漆黒の剣〉ペテル・モークがぁッ!

 “竜王国代表”として闘技場に戻ってきてくれたぁああッ!!!」

 

どよめきが爆発した。

観客席の一部が立ち上がり、ペテルの名を叫ぶ声が混じる。

かつて、帝国闘技場で無謀にも“武王”と呼ばれた剣豪に挑み、敗れはしたが堂々たる一戦を演じた青年――その名は今も人々の記憶に残っていたのだ。

 

「う、うわぁ……やっぱ覚えてるのか、皆……!」

ペテルは汗を垂らしながら、重厚な全身鎧のバイザーを慌てて下ろす。

「まさか、こんな扱いになるとは思わなかった……!」

 

ルクルットが観客席から苦笑混じりに叫んだ。

「ペテルー! 顔バレしたらサイン攻めだからな、気を付けろー!」

ニニャは冷静に肩をすくめる。「いえ、もう遅いと思いますよ」

ダインは腕を組みながら、呆れ半分に呟く。「帝国人は記憶力が良すぎるのであるな……」

隣の貴賓席では、アウレリア姫が両手を口に当てながらも心配そうに見守っていた。

 

司会の声が続く。

「対するはぁッ! バルンディ伯爵家代表――闘技士ガルド・ベルメン!

 帝国北辺最強の槍使いッ! 名門バルンディ家の誇りを見せてくれぇええッ!!」

 

金属鎧をまとった大柄な男が現れる。

筋肉の鎖のような腕に握られたのは、銀の装飾を施された長槍。

観客席からは「おおっ!」と声が上がる。

彼は帝国闘技場で幾多の勝利を重ねた歴戦の闘士だった。

 

対するペテルは、魔導国国式の黒鉄鎧を身にまとい、静かに剣を抜く。

内心では――(頼むから、加減できる程度の相手であってくれ……!)――と祈っていた。

 

審判が魔法の紋章を掲げる。

「――試合、始めッ!」

 

鐘の音と同時に、ガルドが地を蹴った。

疾風のような突きが走る。槍の穂先が一直線にペテルの喉を狙う。

――速い! だが、見える。

 

ペテルの剣が音を置き去りにして閃いた。

 

「ッ――!」

 

衝撃音。

次の瞬間、ガルドの槍が真っ二つに割れ、彼の体が吹き飛ぶ。

砂塵が舞い上がり、観客席から悲鳴と歓声が入り混じった。

ガルドは地に叩きつけられ、そのまま動かない。

 

審判が駆け寄り、確認ののち腕を上げる。

「――勝者、ペテル・モーク!」

 

闘技場が割れんばかりの歓声に包まれた。

「すげぇええええええ!!!」

「竜王国代表、やべぇ!!」

「さすが“天位に挑んだ男”!!!」

 

ペテルは剣を納め、深く頭を下げた。

……だが内心は青ざめている。

 

(やっちまった……! 今の、完全に“手加減してない”やつだ……!!)

 

貴賓席ではルクルットたちが顔を見合わせ、同時に頭を抱えた。

 

「おいおいおい、どうすんだよこれ!」

「完全にやりすぎです、ペテルさん! あれじゃ竜王国が宣戦布告したみたいじゃないですか!」

「ま、まだ槍士は生きてるからセーフである……はずである……!」

「セーフじゃないわ! 棺桶送りのセーフってなんだのよ!」

 

アウレリア姫は扇を口元に当て、冷や汗を浮かべながらも微笑を保つ。

「……見事でした、ペテル殿。

 ええ、とても、見事……でしたわね……(どうしましょうこれ)」

 

歓声の嵐の中、ペテルは固まったまま礼を取るしかなかった。

砂煙の向こうで、ルクルットたちは頭を抱えたままうめく。

 

「……次の試合、出るの俺たちかぁ……?」

「頼むから、誰も殺さないでくれよ……」

 

――こうして、漆黒の剣の帝国闘技場での“伝説再来”は、皮肉にも一撃で始まってしまったのだった。

 

 

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