オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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飛空艇格納庫

 

 

/*/ 魔導国・飛空艇格納庫 /*/

 

 

魔導国・飛空艇格納庫。大型飛空艇の整備を終えたジョンが、風脈のデータや帆の操作法を確認しているところに、ぐりもあがやってきた。

 

「飛空艇?なるほど、風脈に沿ってだけ飛ぶ飛行船なんですね。低コスト低技術で作れるのが売りと……」ぐりもあは船体を眺めながら言った。「自由に飛ぶのは開発しなかったんですか、ジョンさん?」

 

ジョンは少し笑って肩をすくめる。

「俺の技術じゃ自由に飛ぶ飛空艇は高コスト過ぎて実現が難しかったんだ。でも、ぐりもあさんが来た今なら……」

 

ぐりもあの目がキラリと光る。

「なるほど、フロート・テンプルとかバーンパレスみたいなのを作ってみましょうか!」

 

ジョンは思わず拳を握り、笑みを浮かべる。

「そうこなくっちゃ! 俺も空を自在に飛び回れる飛空艇を、ついに作れるかもしれないな!」

 

格納庫の天井から差し込む光に、微かに魔力結晶の光が重なり、二人の目には未来の空路が映るようだった。自由に飛ぶ飛空艇――風脈に縛られず、都市間や空域を自在に滑る夢が、いまここから現実になろうとしていた。

 

 格納庫の空気は油と魔力結晶の香りで満ちている。大きな帆が折りたたまれ、船体の側面に刻まれたルーンが微かに脈動する。ジョンは帆索の張りを指で確かめながら、風脈データを示す小さな結晶を弄っていた。

 

 ぐりもあは船体の下面に手を触れ、目を細める。

「風脈に乗る設計は合理的ですし、維持も楽です。でも“自由飛行”となると、やはり“浮遊炉”と推進の複合が必要ですね。魔力炉心を小型化して、帆と併用する――ハイブリッド方式」

 

 ジョンの顔がほころぶ。

「そうだ。浮遊炉で高度制御、帆で巡航効率を稼ぐ。着陸も滑走式で行けるし、都市間航路も作れる。重量級貨物は帆で、精密操縦は炉心で――理想的だ」

 

 ぐりもあは嬉しそうに設計図に走り書きをする。

「推進は軸流ではなく、可動式ベーンで推力ベクトルを変えられるようにしましょう。旋回時の風切り音も低減できますし、竜の索敵を誤魔化すステルス挙動も組み込めます」

 

 ジョンの表情が一瞬険しくなる。拳がほんのり青く光った。

「竜王に撃ち落とされそうですね。くっそ、あの腐れトカゲ。撃ち落として上下はっきりつけてやろうか。八欲王の再来とか言われても、私は一向に構わん!」

 

 ぐりもあは紅茶の湯気をふわりと立て、首を振る。目は興奮しているが、言葉は冷静だ。

「感情は分かりますけど、正面衝突は得策ではありません。竜は高度と長年の習性が武器です。こちらは“見つからない”を選ぶべきです。魔力遮蔽皮膜、反射ルーンコーティング、そして擬音射出(フェイク風脈)――まずは被検出確率を下げましょう」

 

 ジョンは少し力を抜いて笑った。

「なるほどな。殴り合いじゃなくて“殴られない”船を作るか。いい。じゃあ防御も組み込もう。帆に防護ルーン、船体に自己修復結晶。もし撃たれても即時補修して帰還できるようにする」

 

 ぐりもあは設計図にさらに線を引き、耳打ちのように付け加える。

「あと、外交的フェーズも考えましょう。完全なステルスは外交的疑念を招きます。商用航路として目に見える外装と、内部ではステルス機能を使い分ける“二重符号”運用が安全です」

 

 天井の結晶が淡く光り、二人の眼に未来図が映る。自由に空を滑る飛空艇、静かに都市の上空をすり抜ける輸送船、そして――竜の目を巧妙にかわす航路。怒りは熱を与えたが、それを冷ますのは設計の理性だった。ジョンは珈琲の代わりに、今は工具を握り締める手を確かめた。

 

 格納庫の隅で、風脈計と試作用の小さな浮遊炉の試験灯が点く。二人は互いに頷き、そして笑った。――空を盗むための作業は、もう始まっている。

 

 

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