オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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クロームモリブデンの騎士

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 ナザリック地下大墳墓 工廠区・重装鋼機製造ライン

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 炉の中で、鉄が呻いた。

 魔導火炎が青白く揺らめき、白狼のような影を背に、ジョンは巨大な鋼塊を睨みつけていた。

 

 「……こいつだ。次の〈鉄の騎士〉は、これでいく」

 

 ぐりもあが顔を上げる。

 「クローム……モリブデン鋼、ですか?」

 「そうだ。硬くて靭性がある。叩き合っても、割れない。ステンレスじゃ脆すぎる」

 

 ジョンの掌が、魔力で熱を帯びる。

 指先で鋼塊をなぞると、青白い光が走り、金属の組成が微細に変化した。

 「クロムが摩擦を抑え、モリブデンが熱を逃がす。戦場で叩き合う鉄の鎧なら、これ以上の素材はねぇ」

 

 ぐりもあは記録板にさらさらと書きつける。

 「欠点は……錆びやすい、ですね」

 「ああ。だがそれも解決する」

 

 

 翌日、試験室。

 ジョンは炉前に立ち、完成した試作装甲板を取り出した。

 表面は黒く艶めき、まるで油を塗ったように光を反射している。

 

 「……焼き付け完了。ガンブルー処理だ」

 

 ぐりもあが顔をしかめた。

 「火薬兵器も無いのに“ガンブルー”って……」

 「名前なんてどうでもいい。酸化皮膜で錆を閉じ込めるのが狙いだ」

 ジョンは布で装甲を軽く磨く。黒の光沢の下から、深い青がわずかにのぞいた。

 「美しいな。まるで夜の金属だ」

 

 彼は装甲の表面に手をかざし、呪文を唱える。

 「〈魔導重防化〉――“黒鉄の息吹”」

 金属が淡く光り、微細な魔素が表層に染み込む。

 

 「これで腐食も止まる。錆びを喰う錆を作ったってわけだ」

 

 

 試験台に並べられた三枚の金属板。

 一枚目――ステンレス鋼。

 二枚目――通常の魔導鋼。

 三枚目――ジョンのクロームモリブデン鋼〈黒鉄処理〉。

 

 ぐりもあが槌を取り、順に叩く。

 ステンレスは甲高い音とともに細かく欠けた。

 魔導鋼は弾性こそあるが、熱で軟化して歪む。

 最後のクロームモリブデン鋼は――鈍く響き、形を保ったままだ。

 

 「……割れない」

 「そういうことだ」ジョンは口元をゆるめた。

 「戦場じゃ、硬さより“しなやかさ”が命を救う」

 

 

 数週間後。

 第九格納庫では、新型〈鉄の騎士〉の試作機が姿を現していた。

 全身は黒と群青の中間――まるで夜闇そのものをまとった巨人。

 装甲の継ぎ目からは微かな青光が漏れ、内部の魔導炉が呼吸するように脈動している。

 

 ジョンはその肩に手を置いた。

 「……ステンレスの時は、冷たかった。だがこいつは違う。金属なのに、生命のぬくもりがある」

 

 ぐりもあが頷く。

 「金属組織に魔力が循環しているんです。素材が“呼吸”してる」

 

 ジョンは笑いながら手を放した。

 「なら、あとは戦場で息をさせてやるだけだ」

 

 

 翌週――戦場試験。

 帝国の砂原演習地。

 黒い〈鉄の騎士〉が砂塵を巻き上げ、同型機を叩き伏せる。

 相手の剣が肩口をかすめ、火花を散らす。だが、ひび一つ入らない。

 代わりに相手の刃が折れた。

 

 観測席から将校たちが息を呑む。

 「まるで“鍛えた狼”のようだ……!」

 

 ジョンは腕を組み、口の端を上げた。

 「クロームモリブデン――“しなる鋼”って呼ばれてる。

  俺たちの〈鉄の騎士〉にはちょうどいいだろ?」

 

 青黒い鎧の巨兵が夕陽を背に立つ。

 風に光るその装甲は、まるで戦場そのものが鍛え上げた金属の魂だった。

 

 こうして〈鉄の騎士・改〉――通称“黒鉄型”が誕生する。

 それは、根性でも魔法でもなく、“理と鍛冶の融合”が生み出した鋼の騎士であった。

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