オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
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ナザリック地下大墳墓 工廠区・重装鋼機製造ライン
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炉の中で、鉄が呻いた。
魔導火炎が青白く揺らめき、白狼のような影を背に、ジョンは巨大な鋼塊を睨みつけていた。
「……こいつだ。次の〈鉄の騎士〉は、これでいく」
ぐりもあが顔を上げる。
「クローム……モリブデン鋼、ですか?」
「そうだ。硬くて靭性がある。叩き合っても、割れない。ステンレスじゃ脆すぎる」
ジョンの掌が、魔力で熱を帯びる。
指先で鋼塊をなぞると、青白い光が走り、金属の組成が微細に変化した。
「クロムが摩擦を抑え、モリブデンが熱を逃がす。戦場で叩き合う鉄の鎧なら、これ以上の素材はねぇ」
ぐりもあは記録板にさらさらと書きつける。
「欠点は……錆びやすい、ですね」
「ああ。だがそれも解決する」
◆
翌日、試験室。
ジョンは炉前に立ち、完成した試作装甲板を取り出した。
表面は黒く艶めき、まるで油を塗ったように光を反射している。
「……焼き付け完了。ガンブルー処理だ」
ぐりもあが顔をしかめた。
「火薬兵器も無いのに“ガンブルー”って……」
「名前なんてどうでもいい。酸化皮膜で錆を閉じ込めるのが狙いだ」
ジョンは布で装甲を軽く磨く。黒の光沢の下から、深い青がわずかにのぞいた。
「美しいな。まるで夜の金属だ」
彼は装甲の表面に手をかざし、呪文を唱える。
「〈魔導重防化〉――“黒鉄の息吹”」
金属が淡く光り、微細な魔素が表層に染み込む。
「これで腐食も止まる。錆びを喰う錆を作ったってわけだ」
◆
試験台に並べられた三枚の金属板。
一枚目――ステンレス鋼。
二枚目――通常の魔導鋼。
三枚目――ジョンのクロームモリブデン鋼〈黒鉄処理〉。
ぐりもあが槌を取り、順に叩く。
ステンレスは甲高い音とともに細かく欠けた。
魔導鋼は弾性こそあるが、熱で軟化して歪む。
最後のクロームモリブデン鋼は――鈍く響き、形を保ったままだ。
「……割れない」
「そういうことだ」ジョンは口元をゆるめた。
「戦場じゃ、硬さより“しなやかさ”が命を救う」
◆
数週間後。
第九格納庫では、新型〈鉄の騎士〉の試作機が姿を現していた。
全身は黒と群青の中間――まるで夜闇そのものをまとった巨人。
装甲の継ぎ目からは微かな青光が漏れ、内部の魔導炉が呼吸するように脈動している。
ジョンはその肩に手を置いた。
「……ステンレスの時は、冷たかった。だがこいつは違う。金属なのに、生命のぬくもりがある」
ぐりもあが頷く。
「金属組織に魔力が循環しているんです。素材が“呼吸”してる」
ジョンは笑いながら手を放した。
「なら、あとは戦場で息をさせてやるだけだ」
◆
翌週――戦場試験。
帝国の砂原演習地。
黒い〈鉄の騎士〉が砂塵を巻き上げ、同型機を叩き伏せる。
相手の剣が肩口をかすめ、火花を散らす。だが、ひび一つ入らない。
代わりに相手の刃が折れた。
観測席から将校たちが息を呑む。
「まるで“鍛えた狼”のようだ……!」
ジョンは腕を組み、口の端を上げた。
「クロームモリブデン――“しなる鋼”って呼ばれてる。
俺たちの〈鉄の騎士〉にはちょうどいいだろ?」
青黒い鎧の巨兵が夕陽を背に立つ。
風に光るその装甲は、まるで戦場そのものが鍛え上げた金属の魂だった。
こうして〈鉄の騎士・改〉――通称“黒鉄型”が誕生する。
それは、根性でも魔法でもなく、“理と鍛冶の融合”が生み出した鋼の騎士であった。