オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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貴族たちの腕試し会2

 

 

/*/バハルス帝国 闘技場 アウレリア姫の控えブース(夜、試合合間)/*/

 

 

場内の歓声が遠ざかる中、重い足取りで扉が開いた。皇帝ジルクニフが、いつもの威厳をまとって現れる。金の瞳がきつく光り、周囲の空気が一瞬引き締まった。

 

「――アウレリア姫」彼は短く呼び、控えに居合わせた漆黒の剣の面々へ視線を送る。

「お前たち、何をしている。貴族のメンツを潰しては夜道を歩けんぞ」

 

言葉は簡潔だが、その重みは皆の胸にずしりと落ちる。ルクルットが慌てて頭を下げ、ニニャは冷や汗を浮かべる。ペテルの鎧越しの両手が小刻みに震えた。ダインは静かに額に手を当て、詫びるように視線を落とす。

 

アウレリアは扇を握りしめ、顔を上げる。

「陛下、申し訳ございません。あの者たちは……護衛のつもりで出たのですが、力加減が過ぎました」

 

ジルクニフは短く唇を噛み、次の言葉を放つ。冷徹だが合理的な響きがある。

「分かっておる。だが、民の興奮と貴族の面目が同時に満たされねば、収拾がつかぬ。――かくなる上は、だ」

 

誰もが息を呑む。陛下の次の提案は、いつになく露骨であった。

 

「武王に当たるまで、全員を“一撃”で倒せ」

 

場内にいた観客が納得できるのは、強者が強者を圧する“明確な力の差”だと、ジルクニフは続ける。

「全員を一撃で倒すような見せ方ならば、貴族どもも不満は持とうとも、道理としては納得する。恥辱にはならぬ」

 

ペテルは内心凍りついた。重い呼吸とともに、鎧のバイザーの奥で視線を彷徨わせる。

「一撃っすか……プレッシャーだ」声は震え、周囲の誰もがそれを聞いた。

 

ルクルットが慌てて割って入る。

「陛下! 生きている相手を“どうやって”倒せばいいんです!? あれ、致命傷ですよ!」

 

ジルクニフはわずかに肩をすくめると、淡々と言った。

「一撃=必ずしも殺すことを意味せぬ。それが分からぬのか。武の見せ物とは“決定力”を見せることだ。戦いを終わらせる威力を示し、しかし統治は保つ。やり方はいくらでもある」

 

ニニャが少しほっとしたように息を吐くと、すぐに目を輝かせて提案した。

「じゃあ、派手な“非致命の一撃”で行きましょう。たとえば、相手の武器を強烈な衝撃で吹き飛ばすとか、兜を吹き飛ばして顔面を晒すとか。観客にとっては“一撃で決まった”感があるし、相手は致命傷にならないよ」

 

ルクルットが即座に付け加える。

「武器飛ばしは見映えするな。槍の柄を弾くとか、盾を外すとか──そのまま倒れるが無事、って流れにすれば貴族も納得するはず」

 

ダインは静かに前に出て、両手を合わせる。

「我は、相手が倒れたら直ちに回復をかけるである。術は短時間、目覚めを早めるものを用いる。倒れる→劇的な一撃の演出→我が癒しで速やかに回復。これで相手の身体への負担は最小限にて、観客の要求も満たされるである」

 

ペテルはその二人の案を聞いて、鎧越しに深く息をついた。

「なるほど……要は“見た目は派手に、実際は安全に”ってことか。任せてくれ。刃は鈍らせて、狙い所を外して、でも“決定力”を見せる。やってみる」

 

アウレリアは安堵の息を漏らし、扇を軽く振った。

「それなら、貴族の面目も保たれますし、観客も満足するでしょう。ダインさん、どうか気を付けてくださいね」

 

ダインは微笑みながら頷く。

「任せるである。術は確実であるから、後始末は我が受け持つであるよ」

 

ジルクニフは短く頷き、最後に言葉を添えた。

「よかろう。だが、礼節は忘れるな。やりすぎれば刃は剣を折る。――では、準備せよ」

 

薄闇の中、控えブースは戦術会議の場となる。外では観客の歓声が引き続き上がっている。

漆黒の剣は“演出としての一撃”と“安全な回復”を両輪に、慎重に準備を整えていった。

 

 

/*/バハルス帝国・闘技場 本戦第二回戦/*/

 

 

昼を過ぎ、砂塵の舞う闘技場に再び太鼓の音が鳴り響いた。

観客席は熱気に包まれ、貴族たちのブースではワインの杯が打ち鳴らされる。

 

「さあああああッ! 続いては第二回戦――!」

拡声魔導器を通した司会の声が、帝都中に響き渡った。

 

「対するは、モルドラン子爵家代表!

 〈鋼翼の槍士〉グラディウス・レイノルトォォッ!!!」

 

観客席から歓声が爆発する。

銀の槍を構えた男が入場門から現れ、砂を踏みしめながら堂々と中央へ。

背には鷲の紋章を刻んだマント。帝国北部で“突撃の名手”と謳われる槍使いだ。

 

そして、再びアナウンスが轟く。

 

「対するは――ッ! 竜王国代表としてやってきた、〈漆黒の剣〉ペテル・モーク!

 第一回戦ではなんと“一撃”の勝利!!

 続く第二回戦では、どんな戦いを見せてくれるのかぁあああッ!!!」

 

歓声が嵐のように吹き荒れた。

「炎の串刺しの再現だー!」「燃やせぇー!!」

帝国民のテンションはすでに伝説再演モードである。

 

控えブースから出たペテルは、重装の鎧を着込みながら深く息をつく。

(……ジルクニフ陛下の言葉、忘れるな。“一撃”で倒す。だが、殺すな)

 

背後からニニャの声。

「速足《クィック・マーチ》――発動」

魔法陣が足元で輝き、ペテルの全身が淡く光を帯びる。

「移動速度20%アップ。いい感じだ。距離を詰めて一撃、行きましょう」

 

ダインが手を合わせて祈るように呟く。

「相手が倒れたら、我がすぐ回復をかけるである。安心して撃つがよい」

 

「了解……!」

ペテルは頷くと、闘技場の中央へと歩み出た。

 

審判が魔導旗を掲げる。

「――試合、始めッ!」

 

砂塵が舞い、槍士グラディウスが疾駆する。

突きの速度はまさに鋼の風――鋭く、正確だ。

だが、その一撃が届く前に、ペテルは盾を前に構えて突進した。

 

「なっ――!」

 

グラディウスの視界が遮られる。

黒鉄の盾が太陽を反射して閃き、ペテルの姿を完全に覆い隠した。

次の瞬間――ペテルは盾を捨て、低く身を滑り込ませる!

 

(クレマンティーヌ式、下段突撃ッ!)

 

地を擦るように滑り込む動きは、まさに獣の一撃。

相手の槍の間合いをすり抜け、至近で剣を構える。

 

「――“燃えろ”」

 

ペテルの剣が紅蓮の炎を纏った。

瞬間、剣閃が弧を描き、下から突き上げるように走る!

 

「ッぐ――おおおッ!?」

 

鋭い衝撃とともに、グラディウスの兜が宙に吹き飛ぶ!

炎が髪をかすめ、前髪を焦がし、焦げた匂いが立ち上る。

そのまま男は後方へ倒れ込んだ。

 

一拍の静寂――そして爆発する歓声!!

 

「一瞬! 一瞬だぁあああああッ!!!」

「炎のペテル!! 炎の串刺しだぁあああああッ!!!」

 

観客席が総立ちになる。砂塵が渦を巻き、帝国民の熱狂が天井を震わせた。

 

審判が手を上げる。

「勝者――ペテル・モーク!!!」

 

ペテルは剣を納め、静かに頭を下げた。

その背後では、ダインがすでに術式を唱えている。

「〈癒しの風〉――回復完了である」

 

倒れたグラディウスの傷が瞬く間に癒え、意識を取り戻す。

ペテルが手を差し伸べると、男は戸惑いながらもそれを握った。

 

「……見事だ。炎の剣士とは、あんたのことだな」

「いや、たまたまだよ。あんたの槍、ほんとに速かった」

 

二人のやり取りに観客席がまたどっと沸いた。

 

控え席のニニャが安堵の息を吐き、笑う。

「完璧! 兜飛ばし成功! しかも髪がちょっと焦げるとか、演出まで完璧!」

ルクルットが苦笑しながら腕を組む。

「……相変わらず、派手にやるねぇ。けどこれなら誰も文句言わねぇな」

アウレリア姫は胸に手を当て、そっと息をついた。

「炎の串刺し……帝国の新聞が騒ぎそう」

 

ジルクニフ皇帝の控え室では、彼が笑いを堪えながら呟いていた。

「……ふむ。悪くない。これなら夜道も歩けるだろう」

 

 

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