オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
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カルネ=ダーシュ村から見上げるアルゼリシア山脈とトブの大森林は、夜空に染みる黒い影を落としていた。水路もその中に溶け込むように静かに伸びている――はずだった。
だが今夜は違う。水路の影に、点々と光が揺れていた。ランタンの明かりが、水面に反射してきらめく。
「きたきたきた!」
「誰だ!?誰の舟が一番だ!?」
人間でも獣でもないような声が、水面を越えて夜風に乗る。
舟は、ありえない速度で水路を駆ける。漕ぎ手は全員Lv50相当。力と敏捷を全力で発揮し、舟はモーターボートのように加速する。
「うおおぉぉぉぉッ!腕よ!腕持ってくれ!」
「トップは俺のもんだぁぁッ!風になるんだッ!」
歓声と叫びが入り乱れる中、〈蜥蜴人〉族長たちは初めて目にするカルネ=ダーシュ村の水堀に目を丸くする。
「ちょ、ちょっと待て――旗竿が折れた!?後ろの舟に直撃じゃねーか!」
「痛ぇぇえ!俺の舟が!俺の勝利がぁ!」
トップでゴールしたのはジョンの舟。ウィニングランで村をゆっくり一周する間、旗竿が折れてボートの上でくるくる回る様子を見て、族長たちは爆笑。
「うう、酷い目にあった……」
桟橋に降りたエンリは、顔を真っ赤にしてよろめく。ンフィーレアが横から肩を抱え、宥める。
「おーい、プロポーズが来たぞ!」
「出た!宴会求婚!」
武王、ウォートロール娘に向かって真剣な目。酒の勢いではない、その真剣さに宴会が一瞬静まる。
「考えとく……」
返事をもらい、再び宴会は大混乱。巨体たちは笑いながらずり足でズリズリと踊り、オーガがスモークチーズを丸ごと抱えて齧る。ゴブリンは山椒酒で咳き込み、ウォートロールは平然と乾杯。
チーム時王の演奏が始まると、蜥蜴人たちはモモンガ獅子舞を真似てうねうねと踊り狂う。
水路から戻った獅子舞の胴体が舟に引っかかり、顔だけが独立して踊るハプニングも発生。
モモンガ本人、水晶を通して見て絶叫する。
「ちょ、ちょっと!誰だ、頭でっかちにしたのは!?ゆるキャラか、これはぁ!」
シャルティアが吹き出す。
「ぷふっ……モモンガ様、可愛い……!」
それでも宴の熱気は止まらない。料理を手に、人間も蜥蜴人もゴブリンもオーガもウォートロールも肩を組み、歌い踊り、酒を飲み、笑う。
夜風にのって香るスモークチーズ、ヒメマスの香ばしい匂い、山椒の刺激。
混沌に満ちた宴だが、それぞれが心から楽しんでいた。
――この小さな世界で、皆が笑っていた。
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宴の一角、焚き火台からやや離れた場所に、やけに影の濃い集団があった。
オーガ、ウォートロール、そして数名の大柄なゴブリン変異種――平均身長2メートル半はある連中ばかりが集まっている。
「やっぱ、広場はいいなぁ」
「だよな。街行くと肩すくめっぱなしで疲れるんだよ」
「ほら、道も狭いし……市場とかマジで罠だろ」
「わかる! あそこは恐ろしい!」
突然力強く相槌を打ったのは、ウォートロールの一人。
「人間ちっちゃいから、歩いてるだけで蹴散らしてそうで怖いんだよ! 俺、一回なんか八百屋の木箱に躓いて、トマトの雨降らせちまったからな!」
「わははは!」と他の巨体組が一斉に笑う。
「俺なんてさ、天幕の店に入ったら、試しに頭振っただけで、屋根に穴空けちまったんだよなぁ」
「お前、それ市場中の奴ら、空見上げてただろ」
「そう! しかも雨降ってきて、全部俺のせいみたいになったんだぜ!」
「市場歩きにはコツがあるんだよ」
最古参のオーガが得意げに語り始める。
「まず『摺り足』。足をあげちゃダメだ。ちょっとでも爪先引っかけたら荷車がひっくり返るからな」
そう言い出すや否や、彼らは実演を始めた。
ずりっ、ずりっ、ずりっ……。
巨体が並んでズリ足で動く姿は、威圧感よりも完全に怪しい行進。
宴会の周りにいた〈蜥蜴人〉やゴブリンたちは酒を噴き出しながら爆笑した。
「お、おい! 真面目にやれ! これは大事なんだ!」
「ははっ、でも見てると酔いが醒めるなぁ」
「いや、逆に酔いが回るだろこれ!」
チーム時王のグリル厄介でレベルの上がった彼らの会話は人間のように流暢だ。何も知らない冒険者などが見たら驚愕する事だろう。
流暢に喋る大きい者同士、武王もリラックスしているように見える。
そんな笑いに包まれた中、ふと、武王が真剣な顔をして隣のウォートロール娘に向き直った。
「……なあ、お前。俺と一緒に暮らさないか?」
「えっ!? 酒の席の冗談?」
「いや、本気だ」
その場が一瞬、しんと静まる。
「おーい、プロポーズきたぞ!」
「出たぁー! 宴会求婚!」
「酔ってるからだな!」
「いや、翌朝になっても言うに違いねえ」
「いやいや、翌朝の方が恐いだろ……」
結局、ウォートロール娘が「考えとく」と顔を赤くしながら返したことで宴は再び大爆笑の渦に巻き込まれる。
こうして祭りの夜は「大柄組の奇行」と「武王の公開プロポーズ」という忘れ難い余興で締めくくられたのだった。