オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/「訓練報告:冒険者組合エ・ランテル支部」/*/
ぐりもあが報告書を手に、青ざめた顔で読み上げた。
「も、モモンガさん……! 冒険者訓練生、二十名中――十九名が引退を希望しました!
残ったのは……一名のみです!」
「…………」
静寂。
椅子の背にもたれていたモモンガが、ゆっくりと視線を上げる。
その目の奥では、黒い光が点滅していた。
「……訓練施設の、離職率は?」
「九十五パーセントです!」
ぐりもあが泣きそうな声で続ける。
「“死んでも学べる”とはいえ……あの、スライムに抱きつかれて溶けたり、
水牢で苛性ソーダをかぶったり、浅瀬の渦に吸われたりで、
皆、もう“心がもたない”と!」
「……ふむ」
モモンガは頬に手を当て、静かに考え込んだ。
「つまり、“死んでも蘇る訓練”のはずが、“死んでもやりたくない訓練”になってしまったわけだな。」
ぐりもあが、必死で頷く。
「はいっ! 医療班からも“蘇生後の悲鳴が止まらない”という苦情が出ております!」
モモンガは小さくため息をついた。
「……教育というのは、難しいものだな。」
扉がノックされ、バニアラ班長が泥とスライム臭をまとって入室する。
「報告を聞きました、モモンガ様。……まあ、当然の結果ですね」
「当然?」
「はい。あの訓練施設は、“死なずに進めば安全”ではなく、
“死んでから理解する”構造です。
つまり、全員一度は死ぬ前提。
……普通の人間なら、三回も死ねば悟ります。“村に帰ろう”と。」
モモンガがゆっくりと頷いた。
「ふむ……合理的だ。」
ぐりもあが椅子をばたばたさせて叫ぶ。
「合理的じゃないですぅうう!! 教育の目的が残ってません!!!」
「では、残った一名はどうして辞めなかった?」
「えっと……彼女、“死ぬのが楽しくなってきた”と……」
「…………」
場が一瞬、凍りついた。
バニアラは深いため息をつく。
「あいつ、完全に向こう側に行っちまってますね。」
モモンガが手を顎に当て、静かに言った。
「……その者は、すぐに保護しなさい。
適性がある。ナザリックの戦闘訓練部に転属だ。」
ぐりもあが机に突っ伏す。
「モモンガさぁぁぁん……これ以上、死人を増やしたら冒険者組合から抗議が……!」
「ぐりもあ」
モモンガの声が低く響く。
「私は“死してなお学ぶ精神”を評価している。
だが、“死ぬ前に辞める”のも、また一つの生存戦略だ。
彼らは戦士にはなれなかったが、賢明ではあった。」
「…………なんか、教育理念として崇高なんですけど、結果が地獄なんですけど……!」
モモンガは机に指を軽く置き、静かにまとめた。
「訓練方針を見直そう。致死率の低い罠を――いや、
“痛覚の軽減”を検討する。訓練は過酷でも、心までは壊すべきではない。」
バニアラが苦笑する。
「了解しました。スライムの粘度を五割に落とし、アイアンメイデンの“抱擁時間”を短縮します。」
「あと、水牢の苛性ソーダ、あれ本当に必要ですか?」
「……教育的効果は高いですが、精神的ダメージも同等に高いです。」
「では、代わりにぬるま湯でいい。」
ぐりもあが顔を上げる。
「モモンガさん……それ、もう“ただの風呂”です」
「よろしい。安全で清潔。教育とは、そういうものだ。」
バニアラとぐりもあが同時に頭を抱えた。
こうして――
“地獄の訓練区画”は、モモンガ様の温情により、
一時的に「お風呂体験学習施設」として改装されることが決定したのであった。