オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春12

 

 

/*/「訓練報告:冒険者組合エ・ランテル支部」/*/

 

 

ぐりもあが報告書を手に、青ざめた顔で読み上げた。

 

「も、モモンガさん……! 冒険者訓練生、二十名中――十九名が引退を希望しました!

 残ったのは……一名のみです!」

 

「…………」

 

静寂。

椅子の背にもたれていたモモンガが、ゆっくりと視線を上げる。

その目の奥では、黒い光が点滅していた。

 

「……訓練施設の、離職率は?」

 

「九十五パーセントです!」

ぐりもあが泣きそうな声で続ける。

「“死んでも学べる”とはいえ……あの、スライムに抱きつかれて溶けたり、

 水牢で苛性ソーダをかぶったり、浅瀬の渦に吸われたりで、

 皆、もう“心がもたない”と!」

 

「……ふむ」

モモンガは頬に手を当て、静かに考え込んだ。

 

「つまり、“死んでも蘇る訓練”のはずが、“死んでもやりたくない訓練”になってしまったわけだな。」

 

ぐりもあが、必死で頷く。

「はいっ! 医療班からも“蘇生後の悲鳴が止まらない”という苦情が出ております!」

 

モモンガは小さくため息をついた。

「……教育というのは、難しいものだな。」

 

扉がノックされ、バニアラ班長が泥とスライム臭をまとって入室する。

「報告を聞きました、モモンガ様。……まあ、当然の結果ですね」

 

「当然?」

 

「はい。あの訓練施設は、“死なずに進めば安全”ではなく、

 “死んでから理解する”構造です。

 つまり、全員一度は死ぬ前提。

 ……普通の人間なら、三回も死ねば悟ります。“村に帰ろう”と。」

 

モモンガがゆっくりと頷いた。

「ふむ……合理的だ。」

 

ぐりもあが椅子をばたばたさせて叫ぶ。

「合理的じゃないですぅうう!! 教育の目的が残ってません!!!」

 

「では、残った一名はどうして辞めなかった?」

 

「えっと……彼女、“死ぬのが楽しくなってきた”と……」

 

「…………」

 

場が一瞬、凍りついた。

 

バニアラは深いため息をつく。

「あいつ、完全に向こう側に行っちまってますね。」

 

モモンガが手を顎に当て、静かに言った。

「……その者は、すぐに保護しなさい。

 適性がある。ナザリックの戦闘訓練部に転属だ。」

 

ぐりもあが机に突っ伏す。

「モモンガさぁぁぁん……これ以上、死人を増やしたら冒険者組合から抗議が……!」

 

「ぐりもあ」

モモンガの声が低く響く。

「私は“死してなお学ぶ精神”を評価している。

 だが、“死ぬ前に辞める”のも、また一つの生存戦略だ。

 彼らは戦士にはなれなかったが、賢明ではあった。」

 

「…………なんか、教育理念として崇高なんですけど、結果が地獄なんですけど……!」

 

モモンガは机に指を軽く置き、静かにまとめた。

 

「訓練方針を見直そう。致死率の低い罠を――いや、

 “痛覚の軽減”を検討する。訓練は過酷でも、心までは壊すべきではない。」

 

バニアラが苦笑する。

「了解しました。スライムの粘度を五割に落とし、アイアンメイデンの“抱擁時間”を短縮します。」

 

「あと、水牢の苛性ソーダ、あれ本当に必要ですか?」

 

「……教育的効果は高いですが、精神的ダメージも同等に高いです。」

 

「では、代わりにぬるま湯でいい。」

 

ぐりもあが顔を上げる。

「モモンガさん……それ、もう“ただの風呂”です」

 

「よろしい。安全で清潔。教育とは、そういうものだ。」

 

バニアラとぐりもあが同時に頭を抱えた。

 

こうして――

“地獄の訓練区画”は、モモンガ様の温情により、

一時的に「お風呂体験学習施設」として改装されることが決定したのであった。

 

 

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