オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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フレンチプレス

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・第九階層 ジョンの私室 /*/

 

 

深い静寂に包まれた第九階層の一角。ジョンの私室は、他の冷たく荘厳な空間とは趣を異にしていた。壁は温かみを感じさせる木目調で飾られ、机の上には幾つかの分厚い書物と書きかけのメモが整然と並んでいる。小さな魔法灯の柔らかな光が揺れ、まるで地上の夜を思わせる落ち着いた明かりを部屋に与えていた。

 

そんな中、ルプスレギナが音もなく入ってきた。彼女はいつもの軽薄な笑みを浮かべながらも、今は控えめにドアを閉じる。手には金属製のポットと、フレンチプレスが揺れていた。

 

「ジョン様、少しお疲れのご様子っすね。ちょっと濃いめに淹れてあげますから、待っててくださいな♪」

 

彼女の軽やかな声が響くと、空気が少し和らぐ。ジョンは机に肘をつきながら、ほっと息をついて頷いた。

 

ルプスレギナはテーブルにフレンチプレスを置き、袋から粗挽きの豆を取り出した。ナザリックの錬金技術で焙煎されたその豆は、開けた瞬間にふわりと芳醇な香りを放ち、部屋の空気を一気に塗り替える。黒々とした粒が光を帯びて転がる様子に、ジョンは思わず「いい香りだな」と呟いた。

 

「でしょう? 豆の鮮度は大事っすからね。ジョン様専用に取ってあるやつなんすよ~」

 

ルプスレギナは得意げに笑いながら、計量スプーンで正確に豆をすくい、粉に挽いた。それをフレンチプレスへ落とし込むと、今度は湯を静かに注ぐ。ポットから流れ出る湯が粉を撫でるたびに、香りがさらに濃くなり、部屋を心地よい熱気が満たしていった。

 

「最初の蒸らしが大事なんすよ。ほら、こうして三十秒くらい待つと……豆が息をして、ふわっと膨らんでくるんす」

 

彼女は頬杖をつきながら、膨らむ粉の泡を眺めている。ジョンもその小さな変化を見て、不思議と目が離せなくなった。ほんの数秒の待ち時間が、何故か二人だけの特別な静寂を形づくる。

 

やがてルプスレギナはプレスの金属棒をゆっくりと押し下げた。細い腕に、必要最小限の力だけが込められている。抵抗を受けながら、金属のフィルターが下りていく音が、耳に心地よく響く。

 

「できあがりっす。ジョン様、熱いから気をつけて」

 

白い湯気を立てながら注がれた黒い液体は、陶器のカップに満ちていく。ジョンは両手でカップを包み込み、ひとくち含んだ。苦味と酸味がほどよく調和し、深みのあるコクが舌を支配する。思わず目を閉じて、その余韻を楽しんだ。

 

「……うまい。疲れが抜けていく気がするよ」

 

「ふふふっ、ジョン様のためなら、いつだって最高の一杯を淹れますからね♪」

 

ルプスレギナは椅子の背に身を預け、満足げに彼の反応を眺めていた。その眼差しはどこか犬のように従順でありながら、悪戯を企む少女のようでもあった。

 

ジョンは再びカップを傾け、深い香りと温もりを胸いっぱいに吸い込んだ。コーヒーとともに漂うのは、確かにここが「日常」であるという安心感だった。戦いや陰謀に満ちた世界の中、こうしたひとときが、何よりの救いになる――。

 

そして二人の間には、言葉少なながらも温かな時間が流れていった。

 

 

 

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