オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
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エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン ― “転がる岩の通路”
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その通路は、一見すればただの下り坂だった。
真っ直ぐに続く石造りのスロープ、均整の取れた壁面、滑らかな床。
だが――降り口の壁に刻まれた、微かな摩耗線が警告していた。
“何かが、ここを何度も通過した”と。
「……妙だな。風の流れもねぇ」
老人が呟く。
若い戦士が足を踏み入れると、床の感触がわずかに震えた。
カチリ――。
壁の奥で何かが外れる音。
瞬間、通路全体がうねるように鳴った。
「後ろだ!!」
轟音とともに、通路上部の壁が開き、巨大な丸岩が吐き出される。
直径三メートル、魔導石でできた灰褐色の塊。
ゴロゴロゴロゴロッッ!!と、地鳴りのような音を立てながら転がり落ちてくる。
「走れぇぇぇッ!!!」
冒険者たちは坂を駆け下りる。
呼吸が焼け、足が軋み、後ろから迫る岩の轟音が心臓を掴む。
誰もが“出口”を求めて、ただ真っ直ぐ走り続けた。
しかし――
「止まれ! 前、壁だッ!」
行き止まり。
反射的に振り返った瞬間、岩が迫る。
逃げ場はない。
次の瞬間――
ドガァン!!
壁と岩の衝突音。
肉と鉄の潰れる音。
通路中に赤い飛沫が広がり、すぐに無音となった。
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この仕掛けの“正解”は、誰も思いつかない単純なものだった。
通路の端に伏せること。
通路は四角く、岩は丸い。
ほんの数十センチの隙間に体を押し込めば、岩は頭上を通過していく。
岩が最奥の壁にぶつかると、魔法的な衝撃で岩と壁の両方が砕け、
次の部屋への通路が開く――という構造。
だが、それを知る前に潰される者がほとんどだった。
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清掃班到着
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「……また転がってんな」
先頭のバニアラ班長がため息をつく。
通路の中央には、岩の下から覗く鎧の破片と赤黒い跡。
奥の壁は見事に崩れており、残骸が散乱していた。
「岩、撤去開始。魔導ウィンチ、固定」
無口な大男が装置を取り付け、岩を浮かせていく。
その下から、押し潰された遺体の断片が姿を見せた。
「……ひどいもんだな」
「ここは圧死だからな。蘇生しても、目を開けるまで時間がかかる」
老人の清掃員がぼやく。
「壁の修理もあるし、これで今日二件目だ。まったく、あの岩の修復費がバカにならん」
若い清掃員が首を傾げた。
「でも、スライム姫の間よりはマシですよね?」
「……まぁな。焼け死体の処理よりは潰れた方が楽だ。臭いも少ねぇ」
全員が乾いた笑いを漏らす。
「岩と壁、修復完了。通路、再封鎖」
「よし、記録しておけ。死者四名、圧死。蘇生部門搬送済み」
清掃班が立ち去った後、通路は再び静寂に包まれる。
次の挑戦者が現れるその時まで――
“丸い岩”は壁の中で静かに再構築され、再び転がる時を待っていた。
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この部屋は、清掃班の間でこう呼ばれている。
「地味に死ぬ坂」
危険度は中、作業手間は多め。
だが、スライム姫の間よりはマシ。
それが彼らの共通見解だった。