オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春17

 

 

/*/エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン ― “暗闇の間”/*/

 

 

灯り一つない石の部屋は、まるで空気まで死んでいるかのように静まり返っていた。

鼻を突く刺激臭も、湿った血の匂いもない。ただ、ひんやりとした沈黙だけが漂う。

 

バニアラ班長は、壁際で腕を組み、若者たちを睨む。

「ここは……“爆発の間”の後に通される部屋だ。火気厳禁を覚えた連中は、次に明かりをつけずに進む。そこを利用した罠だ。油断するな」

 

若者が唾を飲み込む音が響く。

「……暗闇のまま進むんですか?」

「そうだ。松明を灯した瞬間、終わる」

 

老人が苦い笑みを浮かべた。

「なるほど、前の部屋で火を恐れるように仕込んでおいて、ここで視覚を奪うとは……いやらしい」

 

バニアラは無言で頷き、部屋の中を指さした。

「この部屋には“管理人”がいる。名前は言えんが――メデューサだ」

 

若者の肩がびくりと跳ねた。

「メデューサ!? 石化するやつですか!」

「声を出すな」

無口な大男が低く唸るように言い、手を上げて制した。

その手の甲には、古びた傷が一本走っている。過去にこの部屋で何かを見た者の印だった。

 

バニアラが続ける。

「奴はこの部屋を任されている。明かりを灯した瞬間、視線が交われば石になる。だから“灯すな”。音を立てるな。息を殺して進め」

 

 

/*/

 

 

清掃班はこの部屋が嫌いだ。

石化した冒険者は、ただの像になっても人間の体重の数倍――腕一本運ぶだけで骨が軋む。

入口付近に固まった“作品”たちを見て、班員たちはいつも顔をしかめる。

 

「……また、若いのが三人か。早かったな」

「灯りをつけちまったんだろ。ここは静かだから、つい安心しちまうんだ」

 

班員の一人が暗闇に向かって声をかける。

「メデューサさん、入りますよー」

 

闇の奥から、かすかに返事があった。

その声は意外にも柔らかく、穏やかだった。

「どうぞ。こっちはもう見てませんから」

 

彼女が顔を背けている間に、班員たちは慎重に像を布で覆い、台車に乗せて運び出していく。

石の足音が、鈍く響く。

 

「……重てぇな。これじゃ“清掃班泣かせの部屋”って呼ばれるわけだ」

「文句言うな。爆発部屋よりはマシだ。死体の処理よりはな」

 

彼らの会話を、メデューサは静かに聞きながら、暗闇の中でまた目を閉じた。

冒険者たちの足音が遠ざかると、部屋には再び沈黙が満ちる。

 

そして彼女は、壁際にぽつんと置かれた一つのランタンを見つめた。

――最後にそれを灯した者が、今はもう動かぬ石の群れの中にいる。

 

それでも、明かりを求める人間は後を絶たない。

だからこの部屋は、今日もまた新しい像を待っているのだった。

 

 

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