オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春19

 

 

/*/エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン ― “鏡虎の間(きょうこのま)”/*/

 

 

黒光りする石の床に、複数の鏡と石像が整然と並んでいる。

静まり返った空気は、まるで墓所のようだった。

 

「……気味悪いな」

若い冒険者――斥候役のレインが呟いた。

「石像の並び、さっきの石化部屋と似てる。視線系の罠だろう」

「だったら鏡に気をつけろ。反射で石化とか面倒だ」

戦士のゴルドが盾を上げながら慎重に前進する。

 

老人の神官ロートが祈りの杖を掲げた。

「光を抑えろ。敵がいるとすれば“目”だ」

彼の声は震えていた。

 

無口な大男、バルクは黙って背中を預け、ただ鏡の列を睨む。

鏡は十数枚――どれも冒険者たちを映している。

だが、どこかおかしい。

 

「……おい。俺、今……笑ってたか?」

レインの声に全員が振り返った。

鏡の中のレインが、薄く口角を上げていた。

 

「っ――」

止める間もなく、彼はその鏡を覗き込んだ。

 

瞬間、白い閃光。

肉が裂ける音。骨の軋む音。

叫び声が吠え声に変わる。

 

「ガアァァァッ!」

 

レインの体がみるみる膨張し、金色の毛に覆われた。

鋭い爪、牙。――虎だった。

 

「なんだと!? 魔獣召喚か!?」

ゴルドが剣を構える。だが、その視線もまた鏡に吸い込まれていく。

バキン! またひび割れ、もう一人。

ロートが叫ぶ間もなく、バルクも拳を握って前に出てしまった。

 

――そして、数秒後。

 

部屋の中央には、四頭の虎が残された。

それぞれ、肩当てや腰袋を身に着けている。

 

「ガァ……しゃ、しゃべれ……るか?」

「……ガルル、喋……れん、だが……声が……!」

「お、おい! どうやって戻るんだ!?」

「……本物の……トラの血……だそうだ」

 

沈黙。

全員が互いを見た。

 

「……まさかお互いに、ってことじゃねぇだろうな」

「や、やめろよそんなこと言うな!」

「うわぁぁ、誰だよ先に見たの!」

 

ガオオォォォォン!!

 

四頭の虎が言い争うように咆哮を上げる。

その声は人間の言葉の断片を交え、混乱と絶望に満ちていた。

 

 

/*/

 

 

――数刻後。

 

清掃班の二人が、部屋の前で立ち止まった。

「……なぁ、吠え声、聞こえたよな」

「たぶん“トラの鏡”にやられたな。行くぞ」

 

二人は顔を覆い、鏡に目を向けぬようにして入室する。

中には、冒険者装備を着けた四頭の虎が、ぐったりと床に転がっていた。

 

「はーい、君たちー。落ち着け。今、運んでやるからなー」

清掃班の班長がゆっくりと声を掛ける。

 

「グルル……しゃ、しゃべれるが……戻れねぇ……」

「知ってるよ。“トラの鏡”は毎週、誰か引っかかる。今週も四匹か」

 

もう一人の清掃員がため息をつきながら記録板に書き込む。

「“人虎化四名。意識あり、理性あり。治療不能。搬送先:獣舎裏”。っと」

 

「……おいおい、獣舎裏って、俺たちどうなるんだよ!」

「大丈夫大丈夫、世話してくれる虎人の婆さんがいる。血の儀式のやり方も心得てる」

「血の儀式ってそれ、まさか――」

「はいはい、吠えるな吠えるな。慣れりゃ楽だ」

 

班長は片手を振りながら、魔法陣を展開。

浮遊板に虎たちを次々と乗せていく。

 

「まったく……“鏡虎の間”は清掃班泣かせの一つだな。明日にはまた新しいパーティが覗き込むぜ」

「そうだな。人はどうしても、鏡に映る自分を確かめたくなる」

 

廊下の奥へと運ばれていく虎たちの背中は、どこかしら哀愁を帯びていた。

その足跡を見送る鏡の中では、誰かが――いや、四頭の“元の自分たち”が、いまだ笑っていた。

 

 

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