オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン ― "白銀スライムの間"/*/
ぬめる音が、石の床を這うように響く。
淡い銀光を放つ粘体が床一面を覆い、まるで生きた金属の海のようにうねっていた。
部屋の奥には次の扉――しかし、その間を塞ぐのは無数の白銀スライムである。
「……見た目は綺麗だな」
若者の呟きに、老人が鋭く叱咤した。
「触るな馬鹿者! そいつらは"熱を喰う"ぞ!」
バニアラ班長が短く補足する。
「この部屋のスライムは体内に酸化鉄とアルミを含む。――燃やせばテルミット反応が起きる。酸素がなくても燃える、つまり水でも消せない」
無口な大男が眉をひそめた。
「……燃える、だと?」
「そうだ。松明を出した瞬間、地獄を見るぞ」
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清掃班が到着する前
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暗闇の中、冒険者たちは慎重に足を運んだ。
靴底がぬるりと沈むたび、金属臭が微かに漂う。
スライムの体内で反応する鉄とアルミが、湿った音を立てて蠢いていた。
「あと半分……慎重にな」
そう言いかけた瞬間、若者の背のポーチからカランと音が響いた。
火打石が床に転がり、火花が散る。
銀色の床を伝って、赤い閃光が走った。
――爆発。
凄絶な白光が部屋を満たす。
金属が燃える音。
炎ではなく、鉄そのものが酸素を奪いながら燃焼していた。
「うああああああッ!!」
鎧が赤熱し、肉と一体化して溶ける。
酸素のない火災は声をも焼き、助けを呼ぶ暇すら与えない。
瞬間のうちに、冒険者たちは黒い塊となって崩れ落ちた。
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清掃班到着
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数分後、焦げ臭と金属の匂いが廊下まで満ちた頃、清掃班が駆けつける。
バニアラが鼻をひくつかせ、低く呟く。
「……焦げた金属の匂い。やられたな」
彼女は腰の革袋から"退去の鈴"を取り出し、静かに鳴らした。
高周波の魔音が広がり、スライムたちは一斉に蠢きを止める。
銀色の波が左右に分かれ、通路を開いた。
「よし、全員退出。――入るぞ」
部屋の中は黒く焼け焦げ、空気さえ重く沈む。
床には鎧と骨が癒着した塊が散乱し、形を留めていない。
焼けた鉄と肉が融合し、どちらがどちらかも分からない。
「……ひどいな。人間だったとは思えん」
「テルミット火災は酸素を使わねぇ。鎧の中で生きたまま焼かれたんだ」
清掃班は魔法布を掛け、魔導浮遊台に遺体を乗せていく。
剥がそうにも、鎧と肉が一体化していてどうにもならない。
「蘇生部門行きだ。骨さえ残ってりゃ望みはある」
「助かっても……二度と松明は持てねぇだろうな」
浮遊台が静かに動き出す。
通路の外で、白銀スライムが名残惜しそうに震えた。
まるで、自らが引き起こした惨劇を理解しているかのように。
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「……この部屋、いつ改修されるんですかね?」
若い清掃員の問いに、バニアラは肩をすくめた。
「ジョン様の設計だ。"火の怖さは一度燃えなきゃ覚えない"って言ってたろ」
静寂の中、彼らは無言で手を動かす。
焼け焦げた鉄の中に、まだ魂の欠片が眠っていると信じながら。
やがて、スライムたちは再び静かに流れ始めた。
その銀色の輝きは美しく――そして、容赦なく。
訓練としては完璧。
だが、誰も二度と挑みたくない"地獄の教室"であった。