オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

333 / 397
隣り合わせの罠と青春20

 

 

/*/エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン ― "白銀スライムの間"/*/

 

 

ぬめる音が、石の床を這うように響く。

淡い銀光を放つ粘体が床一面を覆い、まるで生きた金属の海のようにうねっていた。

部屋の奥には次の扉――しかし、その間を塞ぐのは無数の白銀スライムである。

 

「……見た目は綺麗だな」

若者の呟きに、老人が鋭く叱咤した。

「触るな馬鹿者! そいつらは"熱を喰う"ぞ!」

 

バニアラ班長が短く補足する。

「この部屋のスライムは体内に酸化鉄とアルミを含む。――燃やせばテルミット反応が起きる。酸素がなくても燃える、つまり水でも消せない」

 

無口な大男が眉をひそめた。

「……燃える、だと?」

「そうだ。松明を出した瞬間、地獄を見るぞ」

 

 

/*/

清掃班が到着する前

/*/

 

 

暗闇の中、冒険者たちは慎重に足を運んだ。

靴底がぬるりと沈むたび、金属臭が微かに漂う。

スライムの体内で反応する鉄とアルミが、湿った音を立てて蠢いていた。

 

「あと半分……慎重にな」

そう言いかけた瞬間、若者の背のポーチからカランと音が響いた。

火打石が床に転がり、火花が散る。

 

銀色の床を伝って、赤い閃光が走った。

 

――爆発。

 

凄絶な白光が部屋を満たす。

金属が燃える音。

炎ではなく、鉄そのものが酸素を奪いながら燃焼していた。

 

「うああああああッ!!」

鎧が赤熱し、肉と一体化して溶ける。

酸素のない火災は声をも焼き、助けを呼ぶ暇すら与えない。

 

瞬間のうちに、冒険者たちは黒い塊となって崩れ落ちた。

 

 

/*/

清掃班到着

/*/

 

 

数分後、焦げ臭と金属の匂いが廊下まで満ちた頃、清掃班が駆けつける。

バニアラが鼻をひくつかせ、低く呟く。

「……焦げた金属の匂い。やられたな」

 

彼女は腰の革袋から"退去の鈴"を取り出し、静かに鳴らした。

高周波の魔音が広がり、スライムたちは一斉に蠢きを止める。

銀色の波が左右に分かれ、通路を開いた。

 

「よし、全員退出。――入るぞ」

 

部屋の中は黒く焼け焦げ、空気さえ重く沈む。

床には鎧と骨が癒着した塊が散乱し、形を留めていない。

焼けた鉄と肉が融合し、どちらがどちらかも分からない。

 

「……ひどいな。人間だったとは思えん」

「テルミット火災は酸素を使わねぇ。鎧の中で生きたまま焼かれたんだ」

 

清掃班は魔法布を掛け、魔導浮遊台に遺体を乗せていく。

剥がそうにも、鎧と肉が一体化していてどうにもならない。

 

「蘇生部門行きだ。骨さえ残ってりゃ望みはある」

「助かっても……二度と松明は持てねぇだろうな」

 

浮遊台が静かに動き出す。

通路の外で、白銀スライムが名残惜しそうに震えた。

まるで、自らが引き起こした惨劇を理解しているかのように。

 

 

/*/

 

 

「……この部屋、いつ改修されるんですかね?」

若い清掃員の問いに、バニアラは肩をすくめた。

「ジョン様の設計だ。"火の怖さは一度燃えなきゃ覚えない"って言ってたろ」

 

静寂の中、彼らは無言で手を動かす。

焼け焦げた鉄の中に、まだ魂の欠片が眠っていると信じながら。

 

やがて、スライムたちは再び静かに流れ始めた。

その銀色の輝きは美しく――そして、容赦なく。

 

訓練としては完璧。

だが、誰も二度と挑みたくない"地獄の教室"であった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。