オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ナザリック地下大墳墓 第9層・モモンガ執務室/*/
ランプの明かりが書類の山を照らし、静かな空気の中にペンの音だけが響いていた。
モモンガが書類をめくりながら言う。
「……冒険者訓練ダンジョン、順調ですね。死亡率も“教育的”にちょうどいい具合です」
ソファで脚を組むジョンが口の端を上げた。
「でもよ、そのうち“訓練で食ってく”やつが出る。拾ったドロップで生活とか舐めてんだろ? ――だから先に潰しとこうぜ」
ぐりもあがペンを止める。
「具体的には?」
ジョンがにやりと笑って指を鳴らした。
「各地に“特別ダンジョン”を作る。中身はデストラップ満載。
死んだらロスト確定、装備と財産は没収だ」
モモンガが骨の顎に手を当てる。
「つまり、“儲かる新ダンジョン”の噂を流して、欲に釣られた者を――」
「――回収する。そういうこった」
ぐりもあが淡々と記録しながら言う。
「宣伝文句は?」
ジョンが空中に字を書くように笑った。
「『文化も文明も関係ねぇ! ただ儲かるダンジョン!』――これで決まりだな」
モモンガがため息をつく。
「……どう聞いても怪しいです」
「怪しい方が釣れるんだよ。金の匂いがすれば馬鹿は群がる」
ぐりもあが締めくくるように言う。
「なるほど、“欲の再教育施設”ですね」
モモンガは小さく頷き、書類を閉じた。
「訓練という名の浄化装置……ナザリックらしいです」
ジョンは立ち上がり、肩を回した。
「よし、手早く作りたいからマーレ借りるな。地形生成早いし、仕掛けの調整もできる」
モモンガとぐりもあが顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「……やはりナザリック式教育は容赦がありませんね」
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ナザリック地下大墳墓 第9層・モモンガ執務室
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ジョンは地図を机に広げ、赤い線で三つのポイントを丸で囲んだ。
「――というわけで、“効率よく回収できる”三種の罠ダンジョンを用意した。どれも“儲かる”と噂を流すには十分だ」
モモンガが静かに覗き込む。
「……聞くのが少し怖いですが、どんな構造です?」
ジョンは一本のペンを持ち、にやりと笑う。
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■ダンジョン1:“眠る坑道”
「入口の階段が壊れてる。ロープを垂らして下に降りる形式だ」
ぐりもあが首を傾げる。
「それ、普通ですね」
「普通なのは見た目だけだ。下の広場は低酸素状態。
降りた瞬間に酸欠で意識を失う。助けに降りた仲間も同じ運命。
“救助中に全滅”で一網打尽だ」
モモンガはペン先で額を叩く。
「……非常に効率的ですが、悪趣味ですね」
ジョンは肩をすくめた。
「悪趣味なほど効くんだよ」
■ダンジョン2:“集合の間”
「次は入口に見える“安全地帯”だな」
ジョンは二枚目の紙を出す。
「床が魔法感知式になってて、パーティ全員が揃った瞬間に起動。床が抜けて全員串刺しだ」
ぐりもあが淡々と補足する。
「なるほど、“仲間を待つ”という行動を罰する構造ですね」
「そう。“足並み揃えて死ね”ってやつだ。パーティ行動の再教育にもなるだろ」
モモンガはわずかに沈黙した後、
「……訓練という名の大虐殺に聞こえますが」
ジョンはにこりともせず、紙を三枚目にめくった。
■ダンジョン3:“氷葬の入り江”
「水没タイプだ。潜って入る“冒険者心をくすぐる入口”になってる。
中に入ると魔法の冷気が発生して急速に体温を奪う。
最初の一分で昏倒、三分で死亡」
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ぐりもあがさらりと記録を取りながら言う。
「構造上、遺体も浮かび上がらない。清掃班が後で網で掬うだけ、というわけですね」
「そうそう。沈黙と静寂、作業も安全。いい感じに回収効率が上がる」
モモンガが資料を閉じ、椅子に深くもたれた。
「……効率的ではありますが、倫理という言葉をどこかに忘れていませんか?」
ジョンは口の端を上げる。
「モモンガさん、俺たちが作ってるのは訓練施設だぞ。
“命の大切さ”を実地で学ばせるんだ。これ以上、教育的な仕組みがあるか?」
ぐりもあが軽く笑う。
「ええ、“生きて帰れば合格”という明確な評価基準がありますしね」
モモンガはため息をついた。
「……やはりナザリック式教育は、実に徹底してますね」
ジョンは満足げに地図を巻き取り、手を叩いた。
「よし、あとは宣伝文句を流すだけだ。
“初心者歓迎・夢の一攫千金! 命を賭けて掘り出せ!”――これで釣れる」
/*/エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 後日報告/*/
報告によれば、各地に設置された“特別ダンジョン群”の運用は極めて順調だった。
訓練課程を最後まで修了した者たちは、危険を見抜く能力と冷静な判断を身につけており、誰ひとりとしてその“儲かるダンジョン”の噂に釣られることはなかった。
だが一方で、訓練を途中で放棄し、「自己流で稼ぐ」「訓練より手っ取り早い」と考えた者たちは、迷わずその噂に飛びついた。
結果――誰も帰ってこなかった。
彼らは“金脈”を求めてダンジョンへ潜り、酸欠で倒れ、串刺しになり、冷気の底で凍りついた。
回収班の報告によれば、いずれも装備は高品質、態度は無謀、まさに“罰の教材”として理想的な結果だったという。
さらに副次効果として、周辺地域の治安が大幅に改善した。
噂に釣られて消えたのは、冒険者崩れの無法者や、犯罪ギルドと繋がっていたワーカーたち。
彼らが「儲け話」に引き寄せられ、全員まとめて姿を消したことで、町の犯罪率は目に見えて下がった。
――報告書の末尾には、ぐりもあの一文が添えられている。
「教育とは、正しき死の使い方を教えることでもある。」
それを読んだモモンガは、静かに書類を閉じて呟いた。
「……ジョン式の“社会浄化”は、やはり容赦がないな」
ジョンはソファで肩をすくめ、笑いながら答えた。
「結果が良けりゃ、方法は後から正義になるもんさ」
そしてその日もまた、次の“教育用ダンジョン”の設計図が机に広げられていった。
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