オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ カルネ=ダーシュ村 研究工房 /*/
工房の空気はいつになく静まり返っていた。
老ドワーフたちが作業台の前に並び、中央の試験台に据えられた青銅細工師(ブロンズ・クラフター)のアームをじっと見つめている。
背面ユニットに新たな魔法式――〈霊体化〉が組み込まれ、魔力触手のような透明の光糸がアームの先からゆらりと揺れていた。
ジョンが腕を組み、モモンガとぐりもあの前で静かに言う。
「さて、この改造で“物体の内部”に刻むことが可能になるはずだ。従来は表層にしか描けなかった立体回路を、素材そのものに彫り込める」
ぐりもあが頷きながら、魔法式の安定波を確認する。
「〈霊体化〉によってアーム先端が一時的に物質透過状態になります。問題は――刻印中に魔力の干渉が起きないかどうか」
「そのための老職人たちだよ。精密作業の達人は、こういう時に真価を発揮する」
ジョンは笑い、背後の老ドワーフたちに視線を向けた。
ひとりが頷き、息を吸い込む。
「やってみようじゃねぇか。若い頃なら震えて折れた線も、今なら魔力で滑らかに引ける」
青銅板が試験台に固定され、補助具のアームが霊体化する。
指先から伸びた光の糸が、青銅の表面をすり抜け――その内部に、薄く青白い光の輪を描いた。
「……入った!」
魔導観測盤に、内部構造の光が立体的に映し出される。
老職人の一人が歓喜の声をあげた。
「見ろ! 中に、ちゃんと刻まれてやがる! これは表層の彫刻じゃねぇ、内部だ!」
別の者が、霊体アームを操作しながら呟く。
「これなら、三層構造にしても崩れねぇ……まるで魔力の層そのものを削っているみてぇだ」
刻印が進むにつれ、青銅板の内部に幾重ものルーンが立体的に浮かび上がっていく。
回路は上下左右に絡み合い、表面に出ない“空洞の魔法陣”を形成していた。
「これが……立体魔法陣(トライ・ルーン・マトリクス)か」
モモンガの眼窩の光がわずかに揺れた。
「理論上は存在したが、実現は不可能とされていた。……まさか人間とドワーフの技術融合で再現されるとは」
ぐりもあが記録端末に刻みながら微笑む。
「この構造なら、魔力流路を三次元的に設計できるため、出力効率は従来比で一・七倍――いえ、最適化すれば二倍に届きます」
「なるほど。これで“武具の中”に魔法陣を封じることができる」
ジョンが満足げに頷く。
実験第二段階。
老職人の一人が、半透明化したアームで短剣の柄の内部へルーンを刻み込む。
「従来の金属なら干渉で歪むが……これなら平気だな。力を抜くと、アームが素材と同化してくれる」
「それが霊体化の利点だ」ジョンが言う。「物理的な摩擦がなくなる。つまり、素材を“痛めず”に内側から加工できる」
完成した短剣を、ドワーフが掲げる。
柄の内側がわずかに光り、外見には何の変化もない。
だが魔力観測装置には、内部のルーンが螺旋状に連結し、表層回路と一体化している様が映し出されていた。
「軽い……だが力の流れが途切れねぇ。こいつはまるで“魔力が呼吸している”みてぇだ」
ジョンは短く笑った。
「やっぱり成功だな。これで立体魔法陣をアイテムの“内部”に封じ込める技術が確立した。……魔導国の装備体系が、また一段上に行くぞ」
モモンガがゆっくりと立ち上がり、静かに告げる。
「報告をまとめ、次段階――『多層魔導炉心』の試作に移行せよ。霊体刻印技術を応用し、複合魔力構造体を生成する」
「了解だ。ドワーフたち、準備を整えておけ。次は“命を持つ武具”を作る番だ」
工房にざわめきが走り、老職人たちの瞳が再び輝きを取り戻す。
青銅の匂いと魔力の光が混ざり合い、静かに、しかし確実に――
ナザリックの新たな工芸革命が幕を開けた。