オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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黒い宝石

 

 

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アゼルリシア山脈・フェオ・ジュラ交易層

魔導国商務局・地底市場 黒曜回廊

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 薄暗い岩壁に魔導灯が等間隔に輝く。

 湿った空気の中、鉄と茸の匂いが混じる交易層――

 地上から流れ込んだ冒険者や商人の喧騒に混じり、土の匂いをまとった獣人の群れが並んでいた。

 

 クアゴア族の王、ペ・リユロ。

 ブルーでもレッドでもなく、オレンジ色の毛があちこちに見られる黄金色のかかった白い毛皮という、非常に珍しい毛皮の色を持つ。

 その姿は地底王の威厳と泥臭さを同居させたようだった。

 彼の背後では、巨大な荷車に積まれた木箱が並ぶ。箱の中には、黒曜石のように艶めく巨大なキノコがぎっしり詰まっていた。

 

「――“黒い宝石”。帝国の貴族たちがこぞって買い漁るって聞いてる。香りが強く、乾かせば百年は風味が落ちない。

 ……よくこんなに育てたな」

 ジョン・カルバインは腕を組み、荷の中を覗き込んだ。

 胞子の輝きが淡く紫に光る。

 

「地熱と湿度の加減が肝でしてね」

 ペ・リユロが胸を張る。

「マグマ層の蒸気を通した岩床の上で育てるんです。普通の茸が三日で腐る環境でも、こいつらは艶を増す。

 今じゃ帝国では“黒い宝石”って名前で競りに掛けられてます」

 

「そりゃまた……外貨稼ぎとしては上等だな。

 けどよ――なにもシャルティアに喧嘩売らなくてもよかったんだぞ」

 

 ジョンが溜息交じりに言うと、ペ・リユロの耳がぴくりと動いた。

「いや、あの……まさか、あんなに強いとは思わなかったんです」

「魔導国に力があるなら支配されても良いなんて言いやがって」

「だって、あの時はまだどれだけ力があるのかもわからなくて……。

 血の匂いがしたと思ったら、目の前に吸血鬼様が立ってて!」

「で、どうした」

「腰が抜けて降伏しました」

 

 ぐりもあが後ろから帳簿を抱えたまま苦笑する。

「それでも生きてるのは、モモンガさんが皆殺しにするなって言ってたからですよ」

「分かり易く強力な魔法でもぶっ放してくれれば……」

「その時は、一発だけかもって突っ込んでくるでしょ」

 

 ペ・リユロは耳を垂らしながら、黒茸を差し出した。

「それは……その通りですが――これを献上いたします。魔導国限定の上級品、“漆晶茸(しっしょうたけ)”。

 香りを焙じると、幻覚的な香気が漂って……眠らずとも夢を見られます」

 

 ジョンは眉を上げる。

「……ほぉ。そいつぁ、娯楽にも研究にも使えそうだな。いい取引だ」

 ぐりもあが横でメモを取りながら呟く。

「中毒性が無いと良いですが、先ずは確認テストですね」

「だな」

 

 ペ・リユロは笑いながら、岩塩酒の盃を掲げた。

「ま、商売は楽しくやらなきゃ。土を掘るのも、命を賭けるのも、結局“生きるため”ですから」

「それは同感だ」

 ジョンは盃を受け取り、乾杯した。

 

 地底の市場に、土と蒸気と茸の香りが広がる。

 

 

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――〈漆晶茸〉交易契約成立。魔導国輸出量:年間二千箱。

 帝国通貨換算:金貨百万五千枚/年。

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アゼルリシア山脈・フェオ・ジュラ外縁 地上開発区

魔導国通信網建設局・主任技師ジョン・カルバイン記録

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 雪煙を裂くように、鋼鉄の塔が天へと伸びていた。

 風鳴りの中で魔導光が瞬く――これが、山脈地帯初の魔導通信塔《アーク・スパイア》である。

 塔の根元からは魔力伝導ケーブルが何十本も地中へと潜り、岩盤を抜けて地底都市フェオ・ジュラに接続されていた。

 

「地上から地下まで、魔力伝導ロス五パーセント以内。上出来だな」

 ジョンは計測盤を見て頷く。隣のぐりもあが冷気で赤くなった鼻を押さえ、記録札を取り出す。

「これで地下でも〈伝言〉が遅延なしに届きますね。……ラジオや魔導TVもですか?」

「おう。映像は圧縮魔法式で送る。チャンネルは“モモンガ広報局”“冒険者チャンネル”“ナザリック子ども放送”の三本からだ」

「子ども放送って……ナザリックの?」

「教育って大事だからな。死霊でも幼少期がある」

「(怖い方向に深い……)」

 

 塔の中央、魔導中継炉が唸りを上げる。

 地上の電波塔に似た構造だが、魔力信号は“光魔線”として空間を走り、遠く離れた各地の通信塔へと瞬時に転送される。

 ジョンはスイッチを押した。

 

 ――〈伝言:フェオ・ジュラ局、通信試験開始〉

 

 岩盤の下、数百メートル下の地底都市。

 鍛冶師や商人たちが立ち並ぶ広場の天井から、突然、柔らかな声が響いた。

『――こちらフェオ・ジュラ放送局。魔導国通信網、稼働開始を宣言します』

 地底都市中がざわめき、歓声が上がる。

 

 ジョンは笑った。

「よし。これで地底でもニュース、天気、娯楽、全部届く。

 “閉ざされた山の国”から、“繋がる文明”への第一歩だ」

 

 ペ・リユロ王が塔の下から見上げ、豪快に笑う。

「まるで雷神の槍ですな! 我らの地下にも声が届くとは!」

「声どころか、映像も届く。これで〈漆晶茸〉の宣伝も全国放送だ」

「ははは! 茸が国営放送デビューとは、我らも偉くなったものだ!」

 

 ぐりもあが呆れつつも、帳簿に記録を付ける。

「……次は地底用の受信塔ですね。湿度対策をしないと、また茸が生える」

「茸はもう懲り懲りだ……」とジョンが苦笑し、塔を見上げた。

 

 雪が舞う空の下、アーク・スパイアの先端に灯る青光が、

 まるで“地と空を結ぶ魔導国の心臓”のように輝いていた。

 

 

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――魔導通信塔〈アーク・スパイア〉運用開始。

通信網拡張計画:フェオ・ジュラ⇔エ・ランテル間、魔導TV・ラジオ・伝言ネット接続完了。

地下都市フェオ・ジュラ、魔導国広報圏内へ正式編入。

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アゼルリシア山脈・旧地底王都フェオ・ベルカナ

魔導国通信網敷設計画 第Ⅱ期工区

主任技師:ジョン・カルバイン

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 崩れた石柱の間を、青白い魔導灯がゆっくりと灯っていく。

 かつて地底王国の王都として栄えたフェオ・ベルカナ――

 二百年前、魔神の襲撃によって滅び、以後は誰も寄り付かない廃都と化していた。

 

 いま、その沈黙の街に再び灯が戻る。

 魔導国通信局の旗を掲げた工事部隊と、クアゴア族の作業隊が、瓦礫をどかしながら岩壁にケーブルを通していく。

 朽ちた王城の尖塔には新たに魔導通信塔《地底スパイアⅡ》が建設されていた。

 

「……魔神に焼かれて二世紀。まさか、王都跡に通信塔が建つとはな」

 ジョン・カルバインは古い石の床を踏みしめ、塔の根元で測定盤を操作する。

「感慨深い……というより、ここは本来、地底で最初に〈声〉が交わされた場所なんだ」

 

 傍らでペ・リユロ王が頷く。

 彼の黄金がかった白毛は、瓦礫の灰に薄く染まっていた。

「この街、最初に来た時は“ただの墓場”でした。だが今は、我らクアゴアの家です。

 あの魔神が残した焼け跡の中から、茸も、水も、鉄も見つかった」

 

「……それを立派に“街”にしたのは、お前たちの根性だ」

「根性もありますが、腹も減ります。温泉饅頭も恋しい」

「またそれか」

 二人の笑い声が石壁に反響した。

 

 通信塔の中央部で、魔導水晶が淡く光を放つ。

 地上のアーク・スパイアから伸びた魔力信号が接続され、

 途絶えていた“声の道”が再びつながる瞬間――。

 

「接続確認、魔導波安定。発信準備完了!」

 ぐりもあが声を上げる。

「ジョンさん、最後の封印をお願いします!」

 

「了解。――点灯」

 

 塔の先端が青白く輝き、廃墟の王城全体が光の輪に包まれた。

 長い間、闇しかなかった地底の空洞に、柔らかな“声”が響く。

 

『――こちらフェオ・ジュラ放送局。新たに旧王都フェオ・ベルカナとの通信が開通しました!』

 

 その瞬間、沈黙していた街の奥から歓声が上がる。

 クアゴアたちが耳をぴくぴくさせ、手を叩き、瓦礫の上で踊り出した。

 

「……百年の沈黙が破れたな」

 ジョンが呟くと、ペ・リユロ王は王城跡を見上げ、静かに頷いた。

「死んだ王たちも驚いているでしょう。

 “声なき王都”が、今また〈伝言〉を響かせるとは」

 

「なら、もう黙らせるなよ」

「ええ。これからは、地底にも昼が来る」

 

 青光が塔の先端を走り、廃都全域に新しい命の脈動が広がっていく。

 古の王城を通信塔が貫き、フェオ・ベルカナは再び“声の都”となった。

 

 

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――フェオ・ベルカナ通信塔〈地底スパイアⅡ〉稼働開始。

通信網範囲:フェオ・ジュラ⇔フェオ・ベルカナ間、双方向伝言・魔導TV・ラジオ完全開通。

歴史的意義:二百年の沈黙を破り、旧王都通信回復。

記録者:ジョン・カルバイン

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