オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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19人のゴブリン

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村・夕暮れ /*/

 

 

作業を終えた村人たちがそれぞれ家路につく頃、鍛錬場の奥でゴブリンたちが並んでいた。

その先頭に立つのは、ゴブリン・リーダーのジュゲム。

汗にまみれた額を拭いながら、少し気まずそうにジョンへと声をかけた。

 

「旦那ぁ――」

 

ルプスレギナがすっと目を細める。

ジュゲムは慌てて頭を下げ、言い直した。

 

「……カルバイン様。俺たち、ちょっと悩んでるんです。

 最近、村人たちの方が強くなっちまって……エンリ様を守る力が、俺たちの方が足りなくなってるように思うんでさ」

 

ジョンは腕を組み、軽く首をかしげた。

 

「まあ……お前たちは“レベル上がらない種族”だからな。努力じゃ埋まらない差が出てきたか」

 

ジュゲムは唇を噛みしめ、うなずいた。

「どうにか……ならねぇもんでしょうか?」

 

ジョンは静かに彼を見据えた。

 

「お前たちはそれに、何を差し出せる?」

 

沈黙。

ゴブリンたちは互いに視線を交わし、やがてジュゲムが拳を握り締めて言った。

 

「……俺たちの“行きつける限界”を。

 それを差し出してでも、エンリ様の盾でありてぇんです」

 

ジョンはふっと笑みを浮かべた。

 

「いいだろう。ルプー、こいつら全員に〈星に願いを〉を使え。

 レベル上限を引き上げてやれ」

 

ルプスレギナは思わず目を見開いた。

 

「うはっ! 全員ですか? ジョン様、大盤振る舞いですねぇ」

 

ジョンは空を見上げ、穏やかに言った。

 

「仕えるべき主のために、己のすべてを投げうつ覚悟がある。

 それを見せられて、報いないのは俺の主義に反する」

 

ルプスレギナはしばし黙り、やがて頷いた。

 

「……理解ります。

 誰かのために本気で願える奴らには、星も応える……ってわけですね」

 

ジョン「そうだ。願う価値があるからこそ、力は与えられる」

 

夜空にはすでに一番星が輝き始めていた。

その下で、ルプスレギナが静かに詠唱を始める。

 

淡い光が降り注ぎ、ゴブリンたちの影が伸びてゆく。

彼らの目に宿る光は、かつてよりも強く、確かな意志を帯びていた。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村・訓練場の裏手 /*/

 

 

焚き火の火が小さく揺れている。

夜の帳が降り、満月が森の向こうから静かに顔を出していた。

 

ジョンが手を挙げると、ゴブリン・ライダーの二人、キュウメイとチョウスケが前に出た。

二人とも背筋を伸ばし、緊張の面持ちで敬礼する。

 

「キュウメイ、チョウスケ。お前らの狼を、一寸出してみろ」

 

「はっ!」

「了解でさぁ!」

 

二人は息を合わせて口笛を吹く。

森の影から、灰色の毛並みをした二頭の戦狼が姿を現した。

低く喉を鳴らし、主のそばに寄り添う。

 

ジョンは二頭をしばらく見つめ、手をかざした。

 

「――〈眷属召喚〉、そして“進化”の加護を」

 

空気が震え、夜の静寂に光が満ちる。

月光が渦のように狼たちを包み込み、青白い燐光が毛並みを走った。

やがて、彼らの体躯が一回り大きくなり、瞳が淡い蒼に染まる。

 

その背からは、まるで夜風そのもののような霊気が吹き上がった。

 

「……っ! こ、これは……!」

「旦那、スゲェ! 毛並みが銀に光ってやがる!」

 

ジョンは満足げに頷く。

 

「名は“ムーン・ウルフ”だ。

 レベルは二十前後だが、脚は飛び抜けて速い。

 どんな地形でも風のように駆け抜けるだろう」

 

キュウメイとチョウスケは感激の面持ちで、新たな相棒の首筋を撫でた。

狼たちはその手に鼻先を寄せ、静かに尾を揺らす。

 

「さぁ、上手くやってみろ。

 お前たちが信じるように、こいつらもお前たちを信じている」

 

ジョンの言葉に、二人は同時に頷き、

「了解!」と声を揃えてムーン・ウルフに跨がった。

 

次の瞬間、青い閃光が弾け、

夜風を切るような疾走音が訓練場を駆け抜けていく。

 

月明かりの下、蒼銀の狼が地を蹴り、

二人の影を光の尾のように引きながら、闇へと消えていった。

 

ジョンはその様子を静かに見送り、

「……悪くない」と微かに笑った。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村・翌朝 /*/

 

 

夜明けの霧が晴れるころ、訓練場の脇ではゴブリンたちの声が響いていた。

昨日〈星に願いを〉の加護を受けた十九名のゴブリンたちが、何やら村の中でせわしなく動いている。

 

「キュウメイ、火加減だ! 焦がすな!」

「了解! あっつ、フライパンが勝手に回ってる!」

「薬草はそれ違う! そっちは毒草だ、チョウスケ!」

「へへっ、今じゃ匂いで分かるんでさ!」

 

ジョンは、そんな喧噪を見ながら腰を下ろし、苦笑した。

「……あいつら、もう“別の生き物”みたいだな」

 

ルプスレギナが肩をすくめる。

「ええ、昨日までは“焼く”しかできなかったのに、今朝は味付け論争してますよ」

 

ジョンは頷きながら立ち上がり、訓練場の中央に声をかけた。

 

「おい、ジュゲム!」

 

「はっ、カルバイン様!」

リーダーのジュゲムが駆け寄る。

 

「お前ら、どうやら“レベルが上がるようになった”みたいだな。

 ただし気をつけろよ、戦闘以外のスキルにも経験値が入る。

 このままだと料理とか薬草判別ばっかり上がるぞ」

 

ジュゲムは一瞬ぽかんとしたあと、歯を見せて笑った。

「へへっ、構いやせん! エンリの姐さんの家事の負担を減らせるなら本望でさぁ!」

 

ジョンは思わず吹き出した。

「……お前ら、ほんと立派だな。

 守るってのは、戦うだけじゃないってこと、ちゃんと分かってる」

 

ルプスレギナがにやりと笑う。

「ねぇジョン様、あの子たち……昨日より目が違いますよ。

 “生かされた”ことを分かってる顔してる」

 

ジョンは頷いた。

「人でもゴブリンでも同じさ。

 “誰かのために動く”って気持ちは、どんな種族にも宿る」

 

その言葉に、ジュゲムたちは深く頭を下げた。

 

「カルバイン様。俺たち、もう一度誓います。

 エンリ様と、この村を、命に代えても守り抜きます!」

 

ジョンは腕を組み、満足げに笑う。

「よし。その言葉、忘れるなよ。

 お前らが“守る者”である限り、星も俺もお前たちを見捨てない」

 

朝の光が村を照らす。

炊事場からは香ばしい香りが漂い、子供たちの笑い声が風に混ざった。

その中心で、ゴブリンたちは今日も働き続けている。

 

戦うためではなく――

守るために、そして“生きるため”に。

 

 

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