オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
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アゼルリシア山脈・ドワーフ王国圏
魔導国技術局調査報告書 第49号
記録者:ジョン・カルバイン
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――ドワーフは、土に生きる。
彼らの都市は地底にあり、岩盤と鉱脈をくり抜いた大空洞の中に築かれている。
光は溶岩やマグマ灯、魔導結晶の明かりに頼り、風は岩壁に設けられた通気孔を通して緩やかに流れる。
しかし、そんな環境にあっても、ドワーフたちは煤(すす)を嫌う。
理由は単純――燃やさないからだ。
「石炭や薪なんざ、空気を殺すだけだ」
フェオ・ジュラの老鍛冶師グロマスは言う。
「昔は火の粉で肺をやられる職人が山ほどいたが、今は違う。
我らには“熱鉱石”がある」
熱鉱石(ねつこうせき)――。
ミスリルを超える硬度と密度を持つ特殊鉱石で、叩くと内部魔素が励起し、
まるで心臓のように赤熱する。
一つ拳大の熱鉱石を打てば、炉一基分を半日温めることができる。
しかも炎を出さず、煤を生じない。
このため、地底の空気は澄み、鍛冶場でも肺を痛める者は少ない。
だが、熱鉱石は有限資源であり、近年その採掘量は減少傾向にある。
「掘れば掘るほど熱脈が枯れる。昔みたいに岩肌の下から“燃える石”が出ることも少なくなった」
グロマスが嘆くように言う。
しかし――この問題は致命的なものとはならなかった。
なぜなら、フェオ・ジュラおよびその連合都市群では、
マグマ脈の熱そのものを利用する地熱導管網が実用化されたからである。
ジョン・カルバインが主導した「マグマポケット導熱計画」により、
都市の下層に存在する岩漿溜まりから熱蒸気を引き込み、
それを炉や暖房、浴場に再分配する仕組みが整えられた。
「熱鉱石の消費量は以前の三分の一で済む。
炉の初火だけ鉱石で起こして、あとはマグマの熱を循環させればいい」
ジョンは計測札を手に説明する。
「つまり、熱鉱石が“火種”、マグマが“薪”というわけだな」と、グロマスが笑った。
それでも問題は残る。
地熱を使えば空気が乾き、熱波がこもる。
この温度差を制御するためには、空気循環と冷却魔法を組み合わせねばならない。
それを担うのが“ドルイド”――だが、ドワーフの中でこの系統の魔法を扱える者は稀少だった。
空気を清める〈精気環清装置(エアリース)〉の製造にはドルイドの祝福が必要であり、
そのため大量生産は不可能。
結果として、現在では魔導国製の人工式空気清浄装置が
ドワーフ都市の標準装備となっている。
「魔導国の“人工精気循環式”は、信仰を必要とせず、魔力炉から副出力を回せば動き続ける。
おかげで、うちの鍛冶場は黒い煤が完全に消えた」
グロマスは誇らしげに笑った。
今や地底の炉は、火を使わぬ炎で燃え、
魔導国の技術が“息”を保ち、ドワーフの鉄槌が鳴る――。
土と鉄の民は、火の代わりにマグマを、風の代わりに魔法を得た。
それでも、彼らの誇りは昔と変わらず、
静かに、そして確かに、地の底で輝き続けている。
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――備考:
・熱鉱石採掘量:前期比▲32%減。
・地熱導管網導入により、エネルギー供給安定率+45%。
・魔導国製空気清浄装置の輸入比率:全ドワーフ都市の7割。
・総評:熱鉱石依存は減少し、マグマ熱利用への移行が順調。ドワーフ文明は持続可能性を獲得しつつある。
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