オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春23

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 第七試練区画 /*/

 

 

 空気は重く湿っていた。

 薄暗い部屋の中央――古びた石の台座に、一本の剣が突き立っている。

 錆びついた刃、しかしどこか妖しく光を放っているようにも見える。

 

 四人の訓練冒険者が慎重に進み出た。

 若者、老人、弓使い、そして盾を構えた女戦士。

 指導役の魔法士が背後で警告を発する。

 

 「気を抜くな。ここは“十三英雄の遺跡”を模した試練だ。

  仕掛けの一つや二つ、必ずある。」

 

 だが、若者の目はもう台座の剣に釘付けだった。

 その瞬間――彼の頭の中に、声が響いた。

 

 ――我は死剣スフィーズ。十三英雄の一人、暗黒の勇士が使いし剣なり。

 

 思考を挟む間もなく、胸が熱くなった。

 (死剣スフィーズ……四大暗黒剣の一つ……!? これを手に入れれば、俺は!)

 

 誰もが同時に、それを「知ってしまった」。

 老人も弓使いも、女戦士も――同じ名を頭に思い描き、同じ欲に突き動かされる。

 

 若者がふらりと前へ出る。

 仲間の誰も止めなかった。

 その右手が剣の柄に触れると、台座の符が淡く光り、

 空気が震えた。

 

 ――次の瞬間、地獄が始まった。

 

 女戦士の眼が赤く光り、盾を投げ捨てて剣を抜いた。

 弓使いは若者に矢を放ち、老人が魔法の詠唱を叫ぶ。

 「その剣は……俺のものだッ!」

 

 戦闘は狂気そのものだった。

 それぞれが仲間を敵と見なし、殺し合いを始める。

 血と汗が飛び散り、石畳が赤黒く染まる。

 

 最後に残ったのは、剣を握った若者。

 全身傷だらけで、震える手に“それ”を握りしめる。

 彼の目は虚ろで、口の端から血が滴る。

 

 「……す、スフィーズ……おれが……」

 

 だが剣はただの木の棒だった。

 ヒノキの香りが、血の臭いの中で妙に清々しく漂っていた。

 

 

 /*/

 

 

 数時間後。

 ダンジョンの封鎖が解除され、清掃班が現れる。

 

 先頭の男――バニアラ班長が溜息をついた。

 「また“死剣スフィーズ”部屋か。……本当に人気だな、ここは。」

 

 彼の後ろには、無口な大男と、年老いた魔法士、そして若い補助員が控える。

 死体が三つ、転がっていた。

 その中央で、瀕死の若者がなおも“木の棒”を握っている。

 

 老人が棒を拾い上げ、軽く鑑定符をかざす。

 「……ヒノキ製。市場価格3銅貨。状態:使用者の血により著しく汚損。」

 

 若い補助員が青ざめた顔で言う。

 「でも、なんで……皆、“死剣スフィーズ”だって……」

 

 バニアラ班長が肩をすくめた。

 「呪いだ。見た瞬間に“それが偉大な武器である”と信じ込む。

  実際はただのヒノキの棒。だが心に“確信”を植え付ける魔法は恐ろしいもんだ。」

 

 無口な大男が黙って懐から布袋を取り出し、棒をそこに入れた。

 彼の指には〈呪詛耐性の指輪〉が光っている。

 清掃班には、これが全員に支給されている。

 呪いを受けずに作業できる唯一の装備だ。

 

 バニアラ班長は瀕死の若者を抱き起こし、淡々と言った。

 「訓練用とはいえ、命がけだ。だがこれが現場の現実だ。

  “鑑定もしてないのに頭に名前が浮かぶ”なんて不自然を疑えなきゃ、冒険者は務まらん。」

 

 老人が魔法で回復符を展開し、若者の呼吸がかすかに戻る。

 「……もう一度受けるかもしれんな。次は耐えられるか。」

 

 バニアラ班長は苦笑し、部下に指示を出した。

 「回収完了。次の班に通達しておけ。

  “死剣スフィーズ”は、今日も健在だ。」

 

 灯りが消え、静寂が戻る。

 石の台座の上、再び一本の棒が突き立てられていた。

 まるで、誰かが次に来る愚か者を待ち構えているかのように。

 

 

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