オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春24

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 第八試練区画 /*/

 

 

 通路の床に、赤い線が引かれていた。

 その手前には立て札――白地に赤い文字で大きく書かれている。

 

 「ここから先、武器の持ち込み禁止!」

 

 脇には木製の箱が置かれ、“武器預け箱”と刻印された札がぶら下がっている。

 剣や槍を持った冒険者たちが立ち止まり、顔を見合わせた。

 

 「……訓練用とはいえ、禁止って書いてあるなら従うしかないな」

 若い戦士が渋々剣を抜き、箱の中へ入れる。

 仲間たちもそれに倣う。

 

 だが、パーティの一人――盗賊風の男が苦笑した。

 「訓練だぜ? 脅かしの張り紙くらいあるさ。俺は持ってく。」

 

 彼はそう言って線を跨いだ。

 

 ――直後、通路の奥から金属を噛み砕くような音が響いた。

 

 「……なんだ?」

 奥の闇が動く。

 姿を現したのは、鉄を歯で裂くように咀嚼する異形の獣。

 金属の匂いに誘われ、粘つく舌が地を這う。

 

 盗賊が反射的に短剣を構えた瞬間――その刃が獣の口に吸い込まれ、

 ギリリ、と音を立てて飲み込まれた。

 

 「な、何だこいつっ!? 剣を喰った!?」

 

 仲間が素手で応戦しようとするが、拳を当てても硬い殻が砕けない。

 獣の牙が閃き、金属鎧の戦士の肩を噛み砕く。

 「うわああああああ!!」

 

 悲鳴。血の匂い。

 ――訓練用とはいえ、ここは“実戦環境”だ。

 魔導国式訓練ダンジョンの掟はひとつ。「死ぬ覚悟で挑め」。

 

 金属の音と悲鳴が通路に響いた後、静寂が訪れた。

 

 /*/

 

 数時間後。

 

 薄暗い通路を、ランタンを持った一団が進む。

 黒い制服を着た清掃班――班長のバニアラ、若者、老人、そして無口な大男だ。

 

 バニアラ班長が立て札の前でため息をつく。

 「またやられたか。“武器持ち込み禁止”の部屋……こりゃしばらく増えそうだな。」

 

 老人が辺りを見渡し、鑑定符を展開する。

 「モンスター残滓、〈金属喰い〉種。対象の金属反応に引き寄せられる習性。

  訓練区画ではレベル調整済みのはずだが……全滅か。」

 

 若者が眉をひそめる。

 「でも班長、線を越えなければ安全だったんですよね?

  武器を置いた人は……」

 

 「いた。だが、丸腰で戦えば当然負ける。」

 バニアラは肩をすくめ、血の跡を辿りながら言った。

 「この部屋の意図は“判断力の試験”だ。

  どんな選択をしても命懸け。正解なんざ最初からない。」

 

 無口な大男が無言で壁際の死体を持ち上げ、布に包む。

 老人が淡々と続ける。

 「つまり“命を賭けた選択を疑う力”を見る部屋ですな。

  “ルールを信じるか”“疑うか”――それを問う訓練。」

 

 若者が、赤い線を見下ろした。

 鮮やかに塗られたその色は、訓練生の血と区別がつかない。

 「……この線、わざと血の色にしてるんですか?」

 

 バニアラが苦い笑みを浮かべる。

 「多分な。『警告の意味を考えろ』ってことだ。

  何でも素直に信じて突っ込んだら、冒険者じゃなくただの獲物だ。」

 

 清掃班は無言で後処理を始めた。

 血を拭き、破損した鎧を回収し、記録符に報告を刻む。

 最後にバニアラ班長が立て札を見上げ、筆を走らせた。

 

 > 【補足記録】

 > 試練区画第八:死亡者四名。

 > 原因――判断不能。試験意図達成。

 > 備考:赤線の塗り替え要。

 

 班長は軽く指を鳴らした。

 「よし、撤収だ。……次の班、入れるぞ。」

 

 灯りが遠ざかり、通路は再び静寂に包まれた。

 ただ、赤い線だけが変わらず床を横切り、

 次の“挑戦者”を静かに待ち構えていた。

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