オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓・第1階層・正門広間 /*/
荘厳な黒大理石の床に、十歳の少女の小さな足音が響いていた。
ネム・エモット。カルネ・ダーシュ村の少女であり、ジョンの最年少弟子。
今日は「ナザリック見学の日」――モモンガ直々の案内である。
「こ、ここが……ナザリック……!」
目を丸くするネムに、横で歩くイビルアイがくすっと笑う。
「驚くのも無理はないな。外観はただの墓、だが中は帝国の宮殿以上だ」
「お墓なのにキラキラしてる! 床が鏡みたい!」
ネムの無邪気な感想に、モモンガの頬骨がわずかに揺れた。
(ふ、ふふふ……分かっているね、この子は!)
「ええ、そうでしょうとも!」
いつになく張りのある声で骸骨の王は振り返る。
「この床は、かつて私の仲間の一人――あまのひとつさんが設計した素材を、さらに強化して……いや、説明は長くなりますね!」
「聞きたいです! すごいですモモンガ様!」
「……そうか。では、少しだけ!」
以後、案内が止まらなかった。
/*/ 第9階層・王都エリア回廊 /*/
純白の天井に刻まれた黄金の紋章。
イビルアイはそのひとつひとつに見入っていた。
「……この彫刻、古代神王朝様式。しかも神格級の魔力加工が施されている。
これほどの細工、王国の王城にも存在しなかったわ」
「でしょう!?」
モモンガは思わず両手を広げた。
「これは第9階層の芸術チームが――いや、元は我が同士るし★ふぁーさんの設計理念を――」
「るし★ふぁーさんって、こんな綺麗なものを作れるなんて天使みたいな人だったんですね!」
「そ、そうだろう!? 彼は天使だったが心は――いや、ええと非常に悪戯好きでな」
イビルアイも頷いた。
「魔力の圧が凄まじい。モモンガ殿、ここはまさに“神の居城”ですな」
「ふふふ……そ、そうかね!? うむ、そうかね!!」
モモンガの肩の骨がカタカタ鳴った。
その音は、誇らしさと照れくささが混ざった“歓喜の音”だった。
/*/ 第10階層・玉座の間 /*/
巨大な黄金の扉が開くと、冷たく澄んだ空気が流れ込む。
玉座の奥には“至高の御方の紋章旗”が整然と並び、41枚の旗が王の帰還を待つようにたなびいていた。
モモンガがゆっくりと手を広げる。
「ここが、第10階層――〈玉座の間〉。我が同胞、アインズ・ウール・ゴウンの象徴だ」
ネムは息を呑んだ。
「すごい……いっぱい旗がある……! 全部、モモンガ様のお仲間の方たちのですか?」
「そうだ。41人の仲間、それぞれが独自の理念を持っていた。
これは“力の象徴”であると同時に、“友情の証”でもある」
「かっこいいです! お友達の旗なんですね!」
イビルアイも深く頭を下げた。
「これほどまでに仲間を敬う王……まことに尊い。
貴方が今も彼らの名を残す意味、よく分かります」
「……ふ、ふふ……っ!」
モモンガの目の灯火がわずかに揺れる。
「うう……やはり、褒められるのは良いな……!」
小さく肩を震わせ、骨の両手を組んで天を仰ぐ。
「(私の仲間たち、見ているか! ちゃんと理解者がいるんだぞ!)」
/*/ ナザリック土産・禁断の贈り物 /*/
案内が終わる頃、ネムはすっかりナザリックの虜になっていた。
「すごかったです! 魔法の光も、床も、旗も、ぜんぶキレイで……!
モモンガ様のお城、世界で一番かっこいいです!」
「……ッ!」
モモンガは思わず拳を握った。
「よし、気に入った! これをあげよう!」
彼が取り出したのは、小さな黒帯――〈モンクズ・ブラックベルト〉。
「これを締めて修行すると、体の気の流れが整う。……ただし、ジョンさんには内緒だぞ?」
「えっ!? いいんですか!? ありがとうございます!!」
ネムは嬉しそうに腰に巻きつけた。帯の端が光を放ち、彼女の周囲に柔らかな気流が流れ出す。
(……完全にフィジカル上昇系アイテム。ジョンが見たら確実に説教コースだな)
その様子を見ていたイビルアイにも、モモンガは上機嫌で微笑む。
「あなたにはこちらを。まだ試作段階だが――〈叡智安定冠(スタビライズ・クラウン)〉。
装着すれば、極限集中状態を保ちつつ魔力暴走を防ぐ。知識の冠だ」
イビルアイの瞳が輝いた。
「な、なんという贈り物……! これほどの魔道具を私に!?」
「ふふふ、あなたのように“理解してくれる者”には、それだけの価値がある」
ネムがぱちぱちと拍手する。
「すごーい! お姉さん、似合ってます!」
「ふふ……ありがとう、小さな賢者」
/*/ 帰路・第9階層の転移門前 /*/
見送りの時。
ネムは何度も振り返りながら言った。
「モモンガ様、ありがとうございました! ナザリック、ほんとにすごかったです!」
「うむ、またいつでも来るといい。次は図書館と、温泉も案内しよう」
「温泉まであるんですか!?」
「ふふふ、ナザリックに無いものなど――ほとんど無いのだ!」
その声は、骸骨とは思えぬほど誇らしげであたたかかった。
転移陣の光が消えると、モモンガは静かな玉座の間へ戻り、深く腰を下ろした。
手に残る花びらの感触――ネムが持ってきた“ミルル草”の香りが、仄かに漂う。
「……褒められるって、いいな」
骸骨の口から漏れたその言葉に、アウラが戸口から小首をかしげる。
「モモンガ様、今日はなんだか……ご機嫌ですね?」
「うむ。世界は実に、良い子たちで満ちている」
その夜、玉座の間では誰もいないのに、41枚の旗が微かに揺れた。
――それは、誇り高き王が久しぶりに“生者の言葉”に微笑んだ証だった。
/*/ ナザリック地下大墳墓・第9階層・ジョンの私室 /*/
扉が開く音と同時に、静謐な空気が切り裂かれた。
ジョンが入ってくる。
その表情は穏やか――に見えなくもない。
だが、手にした木札を“トクトク”と指で叩いている。
その音がやけに怖い。
「モモンガさん。ちょっといいですかね」
玉座の側で資料を見ていたモモンガは、ぎこちなく振り向いた。
「お、おおジョン君! どうしたんだい? 珍しいじゃないか、そんな顔をして――」
「ネムが黒帯持ってたんですが、あれはどうしました?」
モモンガの赤い光が一瞬、点滅した。
「……黒帯?」
「〈モンクズ・ブラックベルト〉です。私が村で教えてる弟子が、
“モモンガ様から頂いたんです~”とニコニコしながら言ってきましてね」
「……そ、そうかぁ、あの子は喜んでいたかね……?」
「ええ、とっても。問題は十歳の女の子に中堅レベルの格闘強化アイテムを渡したってことなんですよ」
ジョンが机を軽く叩いた。
「おかげで他の弟子が気で弾き飛ばされて泣いてました」
モモンガは小さく咳払い(骨なのに)をした。
「そ、それは……あくまで“気の流れを整える”目的で、純粋な教育支援として――」
「その言い訳、うちのゴブリン隊が言ってた“これは支援じゃなくて訓練です”と同じ理屈ですよ」
「うっ」
ジョンは続けざまに、手にしていた書類を開く。
「それともう一つ。イビルアイに〈叡智安定冠(スタビライズ・クラウン)〉と
――
モモンガは姿勢を正した。
「……ああ、それは、あの方が褒めてくださったから、つい、うっかり……」
「うっかりで、殺人魔法のストレージを渡すなって言ってるんですよ!」
「そ、そんなに使うと思わなかったんだ!?」
「いや、使いましたよ! 模擬戦で!」
ジョンの声が一段階上がった。
「漆黒の隊長との模擬戦でいきなり
隊長が抵抗成功したから良かったものを、失敗してたら即死ですよ!?」
モモンガの光が一瞬しゅん、と小さくなった。
「……え、ええと……その……もしかして怒ってる……?」
「怒ってますよ!」
部屋の空気がビリビリと震える。
ジョンは深呼吸をし、頭を押さえた。
「……モモンガさん、いいですか。あなた、
“褒められるとアイテムをあげる病”が悪化してます。治してください」
モモンガは骸骨の指を擦り合わせながら、気まずそうに呟く。
「だって……嬉しかったんだ……久しぶりに純粋な目で褒められたんだ……
ネムちゃんの“すごーい!”は……効くんだ……」
ジョンは苦笑しつつ頭を掻いた。
「気持ちは分かりますけどね……子供と美少女に弱すぎです」
「ち、違う! 感謝の気持ちを形にしただけで――!」
「形にするたび死人が増えるんですよ、あなたの場合は」
「ぐっ……!」
完全に痛いところを突かれ、モモンガは沈黙する。
「取り上げはしませんよ。二人とも大切にしてるので。ただし、
今後“感動的褒め言葉を受けた後にアイテムを渡す”のは禁止にします」
「そ、そんな……!」
「代わりに、“褒められたら自分を褒め返す”ルールに変えましょう」
「自分を!? そんな恥ずかしいこと……!」
「アンデッドが何照れてるんですか」
モモンガはしばらく沈黙し、やがて小声で呟いた。
「……私、よくやってる。頑張ってる。ナザリックは今日も立派……」
「はい、よくできました」
しばしの沈黙――そしてジョンは笑った。
「まあ、ネムもイビルアイも喜んでるし、もういいです。ただ次は相談してくださいね」
モモンガは姿勢を正し、両手を胸に組んだ。
「心得た。以後は許可制にしよう」
「はい、よろしい」
去ろうとしたジョンが、ふと振り返る。
「そういえば、アルベドにも何か渡したんじゃないですか?」
モモンガは肩をすくめ、そっと目をそらした。
「……あれは、贈り物というか……心のこもった装飾というか……」
「またやったな」
「違う、違うんだジョン君、あれは必要経費で――」
「――言い訳禁止!」
再びナザリックに響くジョンの声。
玉座の奥で、パンドラズ・アクターがこっそり書き留めた。
『至高の御方、本日も“人間的活動”により叱責を受ける。』
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