オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春25

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 第九試練区画 /*/

 

 

 通路は淡い黄褐色の砂岩でできていた。

 壁、床、天井――どこを見ても同じ粒の荒い石。

 足を踏み出すたび、靴底の下で「じゃりっ」と小さな音が響く。

 それが、ひどく不吉に聞こえる。

 

 「……おい、これ、崩れそうじゃないか?」

 先頭の男が小声で言う。

 「声を出すな、音で崩れるタイプの罠かもしれん」

 後ろの魔法使いが即座に口を塞いだ。

 

 だが、一人が息を呑むように囁いたその瞬間――

 壁の表面がかすかに振動した。

 砂の粒が舞い、天井のどこかから「ぱら……」と音を立てて落ちる。

 

 「動くなッ!」

 全員が凍り付く。

 だが、狭い通路の中央で体勢を崩した男が、思わず膝をついた。

 

 ――その音が、終わりの合図だった。

 

 砂岩が“生き物のように”鳴動し、壁が波のように崩れ落ちる。

 足元の床が砕け、冒険者たちは悲鳴と共に闇へと落ちていった。

 

 

 /*/

 

 

 数時間後。

 

 通路の入口に、四つの灯がともる。

 清掃班のバニアラ班長が、淡々と記録符を開きながら呟いた。

 「第九試練、砂岩通路……やっぱり崩落だな。」

 

 後ろには、若者、老人、そして無口な大男。

 全員が“振動感知封じ”の魔導符と“音吸収布”を装備している。

 

 老人が周囲を見渡し、壁に手を当てた。

 「……砂粒同士の結合が極端に緩い。魔導的に強化されていない天然岩質。

  訓練用とはいえ、慎重さを試す罠としては上出来だ。」

 

 若者が崩れた穴の縁を覗き込み、苦い顔をする。

 「……下、三十メートルはあります。全員……即死でしょうね。」

 

 無口な大男が黙って縄を垂らし、手際よく死体の回収を始めた。

 砂がさらさらと流れる音だけが響く。

 

 バニアラ班長は報告をまとめながら、淡々と呟く。

 「“音”“人数”“衝撃”――何に反応するか、考えずに動いた時点で落第だ。

  静寂を保てない奴は、ダンジョンじゃ長生きできん。」

 

 老人が頷き、杖を掲げた。

 「では、復元魔法装置を作動させます。」

 

 杖先の宝石が光を放ち、通路全体に青い波が走る。

 崩れ落ちた砂岩がゆっくりと逆流し、形を取り戻していく。

 流れる砂が巻き戻るように床を埋め、壁を作り、最後に天井が閉じた。

 

 数秒後――何事もなかったように、通路は再び元の姿を取り戻していた。

 若者が感心したように呟く。

 「……これ、本当に魔法で組み直せるんですね。便利だな。」

 

 「便利だが、虚しい仕事だよ。」

 バニアラが小さく笑う。

 「どんなに片付けても、また誰かが落ちる。

  “静かに歩け”って言葉の意味を、命で学ぶんだ。」

 

 復元を終えた通路は、静まり返っていた。

 砂岩の壁の奥――その沈黙だけが、次の挑戦者を待っていた。

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