オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 第九試練区画 /*/
通路は淡い黄褐色の砂岩でできていた。
壁、床、天井――どこを見ても同じ粒の荒い石。
足を踏み出すたび、靴底の下で「じゃりっ」と小さな音が響く。
それが、ひどく不吉に聞こえる。
「……おい、これ、崩れそうじゃないか?」
先頭の男が小声で言う。
「声を出すな、音で崩れるタイプの罠かもしれん」
後ろの魔法使いが即座に口を塞いだ。
だが、一人が息を呑むように囁いたその瞬間――
壁の表面がかすかに振動した。
砂の粒が舞い、天井のどこかから「ぱら……」と音を立てて落ちる。
「動くなッ!」
全員が凍り付く。
だが、狭い通路の中央で体勢を崩した男が、思わず膝をついた。
――その音が、終わりの合図だった。
砂岩が“生き物のように”鳴動し、壁が波のように崩れ落ちる。
足元の床が砕け、冒険者たちは悲鳴と共に闇へと落ちていった。
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数時間後。
通路の入口に、四つの灯がともる。
清掃班のバニアラ班長が、淡々と記録符を開きながら呟いた。
「第九試練、砂岩通路……やっぱり崩落だな。」
後ろには、若者、老人、そして無口な大男。
全員が“振動感知封じ”の魔導符と“音吸収布”を装備している。
老人が周囲を見渡し、壁に手を当てた。
「……砂粒同士の結合が極端に緩い。魔導的に強化されていない天然岩質。
訓練用とはいえ、慎重さを試す罠としては上出来だ。」
若者が崩れた穴の縁を覗き込み、苦い顔をする。
「……下、三十メートルはあります。全員……即死でしょうね。」
無口な大男が黙って縄を垂らし、手際よく死体の回収を始めた。
砂がさらさらと流れる音だけが響く。
バニアラ班長は報告をまとめながら、淡々と呟く。
「“音”“人数”“衝撃”――何に反応するか、考えずに動いた時点で落第だ。
静寂を保てない奴は、ダンジョンじゃ長生きできん。」
老人が頷き、杖を掲げた。
「では、復元魔法装置を作動させます。」
杖先の宝石が光を放ち、通路全体に青い波が走る。
崩れ落ちた砂岩がゆっくりと逆流し、形を取り戻していく。
流れる砂が巻き戻るように床を埋め、壁を作り、最後に天井が閉じた。
数秒後――何事もなかったように、通路は再び元の姿を取り戻していた。
若者が感心したように呟く。
「……これ、本当に魔法で組み直せるんですね。便利だな。」
「便利だが、虚しい仕事だよ。」
バニアラが小さく笑う。
「どんなに片付けても、また誰かが落ちる。
“静かに歩け”って言葉の意味を、命で学ぶんだ。」
復元を終えた通路は、静まり返っていた。
砂岩の壁の奥――その沈黙だけが、次の挑戦者を待っていた。