オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春26

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 第十試練区画 /*/

 

 

 広間の中央には、地割れのように大きな亀裂が走っていた。

 幅はおよそ十メートル、深さは見えない。

 底から吹き上がる風が、遠くのどこかへ通じることを示していた。

 

 天井からは一本のロープが垂れている。

 亀裂の反対側まで伸びる長さで、見るからに「ここを使って渡れ」と言わんばかり。

 試練を受ける冒険者たちは、その場で顔を見合わせた。

 

 「……どう見ても、ターザン・ジャンプ用だな」

 「本当に安全か? 罠じゃないのか?」

 

 先頭の戦士が慎重にロープを引っ張る。

 びくともしない。

 天井のフックもしっかりしているように見える。

 

 「よし、俺がいく。」

 彼は軽く走り出し、勢いをつけてロープを掴んだ。

 

 ――空中を飛ぶ一瞬、仲間たちは歓声を上げた。

 だがその直後、カチリと金属音が響いた。

 

 天井の奥で何かが動いた。

 フックを固定していたリールが、慣性に負けて回転を始める。

 ロープが「シュルシュル」と伸び――

 

 「お、おい、ロープが――!」

 

 男の身体が弧を描き、そのまま勢いよく亀裂の壁面に激突した。

 鈍い音が響く。ロープは完全に緩み、男の身体が闇の底へ吸い込まれていった。

 

 残された仲間たちは、顔を青ざめさせた。

 「嘘だろ……引っ張った時は頑丈だったじゃないか!」

 「たぶん……慣性でフックが外れる構造だ。振り子の加速でトリガーが動作するように作られてる……」

 

 沈黙。

 訓練とはいえ、心臓を握られるような緊張が残る。

 残りの者たちは亀裂の脇を慎重に探索し、時間をかけて別の通路を見つけ出して進んだ。

 

 

 /*/

 

 

 数時間後。

 通路の入口から清掃班が現れる。

 

 「……また“ロープ渡り”の部屋か。」

 バニアラ班長が懐中ランタンを掲げ、天井のフックを見上げた。

 リールが回転しきった状態で止まり、ロープは中途半端に垂れ下がっている。

 

 若者が眉をひそめる。

 「この構造、えげつないですね。触っただけじゃ分からない仕掛けだ。」

 

 老人が杖で床を突きながら頷く。

 「静止荷重には耐えるが、動的荷重に反応してフックを外す。

  “確認では安全”に見えるよう設計されている……心理的な罠だ。」

 

 無口な大男が黙ってロープを引き上げ、巻き取り装置を手際よく修理する。

 班長は下の闇を覗き込み、淡々と記録符を開いた。

 

 「死体一、落下地点二十五メートル下。即死。回収後、遺品はギルド経由。

  ロープ装置は訓練仕様に復元、フック摩耗なし。」

 

 若者がため息をつく。

 「……この部屋、“一人は必ず死ぬ”って噂、ほんとだったんですね。」

 

 バニアラ班長は短く笑った。

 「試練に“正解”なんかないさ。

  命を賭けてでも、疑う勇気があるかどうか――それを見てるんだ。」

 

 老人が静かに呟く。

 「冒険者の資質とは、危険を見抜く直感より、“疑問を口にできる冷静さ”ですな。」

 

 「そういうこった。」

 バニアラは軽く指を鳴らし、修復装置を作動させた。

 リールが巻き戻り、ロープが天井へと吸い込まれていく。

 最後に「カチリ」と、フックが元の位置に固定された。

 

 ――何事もなかったかのように。

 

 砂岩の壁に再び沈黙が満ちる。

 だが、そこに垂れ下がるロープは次の挑戦者を待っている。

 掴んだ瞬間に運命を分かつ、“訓練という名の罠”として。

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