オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 第十一試練区画 /*/
曲がりくねった通路の先に、古びた木製のドアが見えた。
半開きで、わずかに隙間から光が漏れている。
「押して開けるタイプ」――取っ手の横に、丁寧にそう書かれた札が掛かっていた。
四人の訓練冒険者たちは、そこで足を止める。
戦士が眉をひそめ、仲間を振り返った。
「……怪しいな。半開きで“押して開け”とか、罠臭い。」
魔法使いがうなずく。
「開閉反応式かもしれない。何かが落ちるタイプもある。」
だが、若い盗賊が鼻で笑った。
「まさか。訓練だぜ? こんな初歩的なトラップがあるわけ――」
押した。
――ザラァッ。
鈍い音とともに、何かが頭上から降ってきた。
次の瞬間、きらきらと光る粉末が一斉に降り注ぐ。
冒険者たちは反射的に目を閉じ、咳き込んだ。
「うわっ!? なんだこれ、ガラスか!?」
粉は細かい粉砕ガラス。
衣服と鎧の隙間に入り込み、肌を刺激する。
金属鎧を着た戦士は、動くたびにギシギシと軋み、
「うああ、気持ち悪ぃ! やめろ! 痛ぇ、かゆぇぇぇっ!」と悲鳴を上げる。
盗賊は軽装だったが、それでも首筋を押さえてうずくまった。
「ちくちくして……集中できねぇ……!」
魔法使いは冷静を装いながらも、目を細めた。
「……死にはしないが、精神的には拷問級だな。永続型の“集中妨害呪詛”付きか……」
その後、パーティはかろうじて訓練を終えたが、鎧の中や衣服の下に入り込んだ粉は落ちきらなかった。
皮膚のかゆみとチクチクとした痛みが続き、夜になっても誰一人として熟睡できなかったという。
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数時間後、清掃班が現れる。
いつもの顔ぶれ――バニアラ班長、若者、老人、無口な大男。
バニアラがドアを見上げ、呆れたようにため息をつく。
「出たな、“ガラス粉の部屋”。訓練生に一番嫌われるやつだ。」
老人が魔導掃除機のような装置を取り出し、粉末を吸い上げながら苦笑した。
「人体には致命傷を与えないが、精神を削る罠。よく考えられていますな。
不快感は永続。皮膚と鎧の隙間に入り込んだ粉が動くたび刺激を与え続ける。
おそらく、“集中力を乱された状態で行動できるか”を試す訓練でしょう。」
若者が掃除を手伝いながら顔をしかめた。
「これ、落ちにくいんですよね。しかも光るから照明で舞うんですよ。
……あっ、目に入った。うわ、いてぇ!」
無口な大男が淡々と上を指差す。
天井の梁には、逆さに固定された金属製のバケツが見える。
その中には細かいガラス粉末が再装填されていた。
バニアラ班長が記録符に書き込む。
「第十一試練:“ガラス粉の罠部屋” 死亡者ゼロ、精神的被害多数。
罠装置点検済み。次回訓練まで補充完了。」
老人がぼそりとつぶやく。
「……これを考えた設計者、性格悪いですな。」
バニアラは口の端を上げて答えた。
「性格悪くなきゃ、罠なんか作れないさ。」
粉が舞う光の中、彼らは静かに後片付けを続けた。
再び訓練生たちがやって来るとき、バケツはまた、
“何事もなかったように半開きのドアの上” に戻っているだろう。