オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春28

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 第3層・廃坑通路 /*/

 

 

錆びた鉄扉が、通路の中央にあった。

古い木枠に嵌め込まれ、鍵穴と飾りの鉄帯が光を反射している。

どう見ても“開けて入るための扉”だった。

 

「おっ、鍵つきっすね。俺に任せてくださいよ」

 

若い盗賊が前に出た。軽い身のこなしでしゃがみ込み、道具袋からピックを取り出す。

仲間の魔法使いが背後から灯りを照らし、戦士が盾を構えて通路の奥を警戒していた。

 

「鍵の構造は単純……罠は――」

言いかけた瞬間、扉の蝶番がわずかに軋んだ。

 

カチリ。

 

小さな音が響いた後、扉全体がばね仕掛けのように前方へ弾け飛んだ。

盗賊は悲鳴を上げる間もなく、壁との間に押し潰された。

金属の軋みと骨の砕ける音が混ざり合い、通路が一瞬で静まり返る。

 

「……あ……ああ……?」

魔法使いが震える声を漏らす。

戦士は呆然と、壁にめり込んだ仲間を見つめた。

潰れた革鎧の中から、赤黒い液体がじわりと流れ出す。

 

「嘘だろ……? まだ助かるかも……!」

神官が駆け寄り〈軽傷治癒〉を唱えるが、光は空しく扉の表面で散り、反応はない。

 

「ダメだ……もう、息してねぇ……」

戦士が拳を握り締め、歯を食いしばった。

「くそっ、何で教官がいない時に……!」

 

通路の空気が重く沈む中、遠くからランタンの明かりが近づいてきた。

鉄の車輪の軋む音――“いつもの”清掃班だ。

 

先頭には、短く刈った栗髪の若い女性、バニアラ班長。

その後ろに、まだ訓練明けのような若者、腰の曲がった老人、そして寡黙な大男が続く。

 

「……また出たか」

バニアラが淡々と呟く。

若者が鼻をすすりながら板状の記録石を構えた。

「第三層、扉サンド。罠作動確認。被害者一名、即死」

老人が扉に触れ、感触を確かめる。

「まだ温ぇな。ついさっきだ」

「正面に立った?」

「立ったな。手の位置が前だ。罠解除の姿勢そのまま潰されてる」

 

無口な大男が、ゆっくりと鉄扉をこじ開けた。

内部のばね構造を押さえ込みながら、油圧のような魔導器で固定する。

圧着が解けると、崩れた遺体がずるりと滑り落ちた。

 

若者が息を呑む。

老人は慣れた手つきで布を被せた。

「地上に戻りな。今日はもう続行できねぇ」

バニアラの低い声に、残った冒険者たちは青ざめて頷いた。

 

「……置いていくなんて、そんな……」

神官が震える声を出す。

 

バニアラは手袋を外し、扉についた血を布で拭いながら言った。

「置いていくんじゃない。連れて帰るのは私たちの仕事。

 あなたたちが残れば、“二体”になるだけ」

 

無口な大男が遺体を慎重に抱え上げ、台車へ運ぶ。

老人は滑車を巻き、バネ機構を再びセットしていた。

若者が記録石に追記する。

「再稼働テスト、完了っと……」

 

「よし」バニアラは頷き、通路を一瞥した。

「この階層の教訓、何か知ってる?」

誰も答えない。

「“正面に立つな。鏡を使え。命は戻らんが、鏡は安い。”」

 

静かな声が、石の壁に反響する。

清掃班が立ち去った後、通路は再び静寂に包まれた。

ただ、床に残る僅かな血の跡と、油の匂いだけが――

この階層で支払われた“授業料”を語っていた。

 

 

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