オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 第5層・宝物庫模擬区画 /*/
石造りの部屋。中央に、黒鉄の縁取りを施した宝箱がひとつ。
竜の紋章が刻まれた重厚な外見――まさに“当たり”を思わせる。
「鍵も単純だ。罠も……見当たらねえな」
盗賊がにやりと笑い、ピックを差し込む。
仲間たちは武器を下ろし、息を詰めて見守った。
カチリ。
その音と同時に、箱の隙間から淡い霧が立ちのぼる。
白かった霧は一瞬で黄緑に変わり、天井から床までを満たした。
「げほっ! なんだこりゃ!?」
「毒――っ、出ろ! 扉を――!」
だが、扉は内側から閉ざされていた。
魔法の気流が逆流し、酸素を奪っていく。
数分後。
部屋は静寂を取り戻し、ただ冒険者たちの遺体だけが散らばっていた。
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数時間後。
重い足音とともに、金属製の車輪が通路を転がる音が響いた。
防毒マスクを着けた四人組――清掃班が現れる。
先頭に立つのは、短く刈った栗髪の若い女性。
鋭い灰色の瞳を持つその人こそ、バニアラ班長だった。
「……全員、死亡ね。記録板、準備」
彼女の声は低く、よく通る。
後ろに続く若者がメモ板を開き、老人が咳払いをしながら応じた。
「また宝箱ガスですかい、班長。三日前と同じ部屋ですな」
「うん。学習しないのが人間だよ」
「部屋の中で宝箱を開けるなって、講義でやった筈なんだけどな」若者が苦笑する。
無口な大男は黙って室内に入り、冒険者たちを一人ずつ持ち上げて外へ運び出した。
腐食防止の布で覆い、慎重に台車へ積む。
バニアラは片膝をつき、残留霧を吸着石へ封じる術式を展開する。
緑色の光がゆっくりと収束していった。
「処理完了。タグをつけて。パーティ名は?」
「“鋼の燕”っす。新人組だとか」
「そう。……あの子たち、地上で騒いでたね。“宝箱を当てたら昇級だ”って」
老人が短くため息をついた。
「昇級はしたさ……。階層が一段、下にな」
バニアラは立ち上がり、血のついた床を一瞥する。
その表情は淡々として、冷たいようでどこか優しい。
「次の組が来る前に、部屋を初期化するよ」
「了解っす。次はどこです?」
「第六層。転落ピットの再点検。落下防止柵が外れてた」
三人の班員が無言で頷き、台車を押して去っていく。
最後に残ったバニアラは、宝箱を見つめ、そっと呟いた。
「……ロープ一本、持ってりゃ死なずに済んだのにね」
そして彼女も通路の闇へと消えていった。
後に残るのは、再配置の魔法で元通りに戻った宝箱と、空虚な静寂だけだった。
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