オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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オレンジ・ナイト

 

 

/*/ エ・ランテル・闘技場 /*/

 

 

観客席の喧騒が地を震わせていた。

砂塵の舞う闘技場中央で、二つの鋼の巨影が向かい合う。

 

一方は、鈍く灰色に輝く重量機――鉄の騎士。

ジョンが操縦桿を握りしめ、深く息を吐く。

もう一方は、赤金に輝く流線形のパワードスーツ。

その装甲の隙間から、淡い熱光が走る。シズだ。

 

「ターゲット・ロック……発射」

 

瞬間、赤金の機体の肩部が開き、轟音とともに弾丸が吐き出された。

怒涛のように襲いかかるヘビーマシンガンの弾幕。

 

ジョンの指が反射的に動く。

「展開、矢守りの結界(ミサイル・プロテクション)!」

 

青白い光の膜が鉄の騎士の前に浮かび、金属音を撒き散らしながら弾を逸らす。

しかしその度に警告灯が点滅する。

弾は防げても、衝撃は積み重なっていく。

――ダメージ蓄積率、二十五パーセント。

 

(……これが第3位階魔法の限界か。物理弾には効くが、継戦には耐えねぇな)

 

ジョンは舌打ちし、操縦桿を再び握り直した。

視界の端、赤金の機体の肩が開く。

 

「む。流石は至高の御方。スペックを把握されてる……では、これ左肩兵装解放――【炎の嵐】(ファイヤー・ストーム)

 

炎が空を裂き、灼熱の奔流が襲いかかる。

ジョンは咄嗟に息を詰めた。

(範囲攻撃――やべぇ!)

 

【加速】(ヘイスト)!」

 

魔法陣が足元に広がると同時に、鉄の騎士は轟音を立ててローラーダッシュを仕掛ける。

灼熱の炎が背後を舐め、装甲の一部が赤熱する。

ジョンは歯を食いしばり、操縦桿を切った。

 

「間にあえぇっ!!」

 

しかし――爆風が追い付き、左脚部が爆裂した。

機体がバランスを崩し、鉄塊が地面を滑る。

砂が弾け、衝撃で視界が白く霞む。

 

(……っくそ!視覚センサー死んだか!? ……いや、動く!まだやれる!)

 

転倒したまま、ジョンはシズの赤金の機体を捉える。

一直線に迫ってくる――止めを刺すつもりだ。

 

「上等だよ……来いッ!」

 

パイルバンカーが展開される。

ジョンはタイミングを見計らい、

――突撃してきた瞬間、左腕を突き出した。

 

衝突。火花。

パイルが炸裂し、シズの装甲に直撃する――

 

しかし、赤金の機体は微動だにしなかった。

パイルの先端はへし折れ、鉄の騎士の左腕が悲鳴を上げる。

 

(くそっ……! 基礎性能が違いすぎる!)

 

爆風の余波で機体が再び横倒しになる。

それでもジョンは、崩れた機体の中で息を荒げながら笑った。

 

(……ああ、そうか。こういう感覚、久しぶりだ。死線の“冷たさ”がまだ残ってやがる)

 

視界の向こうで、シズの赤金の機体が立ち止まる。

マイク越しに、澄んだ声が響いた。

 

「……ジョン様、流石に鉄の騎士でパワードスーツ相手は無謀です」

 

ジョンは息を整え、苦笑いを浮かべた。

「はっ……そうだな。だが、やってみなきゃわかんねぇだろ?」

 

観客席からどっと歓声が上がる。

地響きのような拍手が闘技場を包み込んだ。

 

シズは静かに右手を上げ、機体を降下モードに移行させる。

赤金の装甲の隙間から熱気が抜け、夜気に白い蒸気が漂った。

 

ジョンはキャノピー越しに夜空を見上げる。

焼け焦げた装甲の匂い。耳に残る金属音。

そして胸の中にまだ残る、あの“戦いのざらつき”。

 

(ああ……生きてるってのは、こういうことだ)

 

鉄の騎士の動力が止まり、静寂が戻る。

だが、ジョンの眼はまだ燃えていた。

次の一撃を想像するように――。

 

 

/*/ エ・ランテル・闘技場 /*/

 

 

金属が軋む音とともに、闘技場の砂煙が静かに収まっていく。

ジョンの鉄の騎士は片膝をつき、パイルバンカーを失った左腕をぶら下げていた。

対する赤金の機体――シズのスーツは、陽光を浴びて輝きながら堂々と立っている。

 

観客席からどよめきが走る。

冒険者、傭兵、兵士、商人。

全員が息を呑んで、その赤金の巨影を見上げた。

 

ジョンは息を荒げながらも、立ち上がった。

マイクを手に取り、声を張り上げる。

 

「――見たか、みんなッ!」

 

轟音のような声が、闘技場全体に響き渡る。

「この赤金のパワードスーツこそ、魔導国の守護騎士――」

 

ジョンは腕を大きく掲げた。

背後の炎がその金属光沢を照らし、観衆の目に焼きつく。

 

黄昏騎(オレンジ・ナイト)

 バハルス帝国の皇帝騎に勝るとも劣らない、魔導国の力の象徴だ!!」

 

観客席から爆発のような歓声が上がる。

「おおおおおっ!!!」

「魔導国の守護者だ!」「こいつが噂のオレンジ・ナイトか!」

 

冒険者たちが興奮し、拳を突き上げる。

誰もが、目の前で見た光景がただの模擬戦ではなく、

新たな伝説の始まりであると悟っていた。

 

ジョンは熱気の中で続ける。

「この黄昏の騎士は、我ら魔導国の平和を守り、人と異種族の未来を照らす希望の光!

 今日この日、エ・ランテルの空に誓おう――この力は誰かを征するためじゃねぇ。

 “全てを護るため”にある!!」

 

歓声が再び沸き上がり、観客席の熱が最高潮に達する。

冒険者ギルドの旗が振られ、ドワーフたちは酒樽を掲げ、

リザードマンたちは尾を叩きながら雄叫びを上げた。

 

ジョンは微笑み、汗を拭ってシズの方を向く。

「……見たか、シズ。お前の機体はもう、国の誇りだ」

 

シズは静かに頷き、

赤金の装甲越しに短く答える。

「はい。ジョン様がそう仰るなら、これほど光栄なことはありません」

 

ジョンは笑って右手を突き上げた。

「覚えておけ! 黄昏の騎士――その名は、今日この闘技場で刻まれた!」

 

歓声が闘技場の壁を震わせ、

それは夜まで鳴り止むことがなかった。

 

──後日。

 

エ・ランテル市街を進む軍事パレード。

先頭を行くのは、赤金に輝く黄昏の騎士(オレンジ・ナイト)

その後ろには鉄の騎士と、各部隊の旗が続く。

 

子供たちは声を上げ、兵士たちは槍を掲げる。

民は皆、あの日の闘技場を思い出していた。

 

「オレンジ・ナイトだ!」「ジョン様とシズ様の守護騎士だ!」

 

その熱気は、祝祭のように街を包み、

魔導国の新たな象徴――“黄昏の騎士”の名を、

永遠に刻みつけたのだった。

 

 

/*/ エ・ランテル・闘技場・模擬戦後 /*/

 

 

砂煙が晴れ、闘技場に落ちた静寂を破ったのは、

熱狂冷めやらぬ観客たち――冒険者たちの叫びだった。

 

「ジョン様ぁー! あの“鉄の騎士”売ってくれよぉ!!」

「マジで頼むって! 一機だけでもいい! ギルドで共同購入するからさ!」

「オレンジ・ナイトは無理でも、あっちはいけるだろ!?」

 

観客席から次々と声が上がる。

どの顔も興奮と羨望に満ちていた。

 

ジョンは操縦席から降り、ヘルメットを脱いで汗を拭う。

そして呆れたように笑いながらマイクを取った。

 

「……ダメだ」

 

ざわめく冒険者たち。

「えぇ!?」「なんでぇ!?」「金なら出すって!」

 

ジョンは肩をすくめ、苦笑混じりに言い放つ。

「お前ら、どうせ街中で喧嘩して使うだろ? 鉄の騎士ぶつけ合って建物ぶっ壊す未来が見えるわ」

 

一瞬、会場が静まる。

そして――

 

「……」

「…………」

 

気まずい沈黙。

誰も否定しない。

むしろ数人が目を逸らした。

 

ジョンは額に手を当てて溜息をついた。

「おい、そこは『しませんよぉ!』とか言うところだろ!」

 

冒険者たちは顔を見合わせ、

「あ、あぁー……いや、まぁ……気をつける……」「……たぶん……?」

 

その曖昧すぎる返答に、ジョンは盛大にため息を吐く。

 

「ダメだコイツら、絶対暴走させる。……鉄の騎士の民間販売、永久却下な」

 

観客席からブーイングと笑い声が同時に巻き起こる。

「ケチぃー!」「せめてレンタルを!」「模擬戦だけでも!」

 

ジョンは片手を振りながら闘技場の出口に向かう。

「模擬戦なら考えとく! ただし、街壊したら全員修繕費な!」

 

「うわっ、現実的ぃ!」

「それはちょっと……!」

「結局ダメじゃねーか!」

 

そのやり取りにシズが赤金のパワードスーツ越しに小さく微笑む。

「ジョン様、皆さん……元気ですね」

 

ジョンは苦笑いしながら空を見上げる。

「元気すぎて、街が保たねぇよ」

 

観客席ではまだ冒険者たちの「鉄の騎士ほしいコール」が鳴り響いていた。

その熱気は闘技場の外にまで届き、

――この日から、“鉄の騎士を欲しがる冒険者騒動”として

エ・ランテルの名物ネタのひとつになった。

 

 

/*/ エ・ランテル・闘技場・昼下がり /*/

 

 

観客席を埋め尽くす冒険者たちの歓声が、轟音のように空気を震わせていた。

闘技場中央では、灰銀の巨体――ジョンの操る「鉄の騎士」が立ち上がり、

その前に仁王立ちする赤銅色の巨人――アダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のガガーラン。

 

彼女の肩には陽光が照りつけ、鎧越しでも分かる分厚い筋肉が波打つ。

その堂々たる体躯は、もはや人間というより“戦闘の権化”だった。

 

ジョンが通信機を通して呼びかける。

「手加減してくれると助かるんだがな」

 

ガガーランはにやりと笑い、両拳を鳴らす。

「安心しな。拳が折れねぇ程度には加減してやるよ!」

 

その声が鳴り終わるより早く、彼女は地面を蹴った。

轟音。

重い鉄塊のような足音。

人間離れした跳躍で、一気に鉄の騎士の懐に潜り込む。

 

「はぁっ!!」

 

その拳が、鉄の胸部装甲を撃ち抜いた。

空気が爆ぜる。金属が悲鳴を上げる。

一撃で、鉄の騎士の上半身がひしゃげた。

 

観客席からどよめきと悲鳴。

 

「うおおおおっ!?」「嘘だろ!?」「鉄の騎士が……!」

 

鉄の騎士はよろめきながらも反撃に出る。

右腕のブレードを起動――だが、その動きより早く、ガガーランの膝蹴りが炸裂する。

 

「ガッ……!」

 

まるで雷鳴のような衝撃音。

巨体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。

砂煙の中、ジョンは冷静に操縦桿を倒して停止命令を送った。

 

ガガーランは額の汗を拭いながら、肩で息をつく。

「ふう……なるほどな。人が乗って戦う分、手強いが――結局はアイアンゴーレムの延長ってわけか」

 

ジョンは苦笑し、鉄の騎士の残骸から降りる。

「そう言うこと。でもな――そこまで強くなれない奴が“戦う力”としては、悪くねぇだろ?」

 

ガガーランは口角を上げて頷いた。

「ああ、悪くない。立派な兵器だ。……ただ、あたしの拳には敵わねぇがな!」

 

「それは誰も否定しねぇよ」

 

観客席は大盛り上がりだった。

 

「すげぇ! あれがアダマンタイト級の力か!」

「鉄の騎士を素手で粉砕とか、人間の筋肉じゃねぇ!」

「さすがガガーラン姐さん!」

「なぁ……あれが“大胸筋”ってやつか?」

「大胸筋に……おっぱい乗ってるんです?」

「物理現象だよあれは!」

 

爆笑と歓声が交錯する中、ガガーランは拳を掲げ、豪快に笑う。

「見たかお前らー! これが“筋肉の信仰”の力だぁっ!」

 

観客席からどっと笑いと拍手が起こる。

ジョンは溜息をつきながら、しかし微かに笑った。

「……まぁ、盛り上がるならそれでいいか」

 

闘技場の空には、筋肉の女神が舞い降りたような錯覚すら漂っていた。

 

 

/*/ エ・ランテル・闘技場・模擬戦後の雑談 /*/

 

 

観客席の興奮がようやく落ち着いてきたころ、

数人の冒険者がジョンのもとへ駆け寄ってきた。

 

「ジョン様ぁ、ちょっと聞いていいっすか!」

「鉄の騎士って、実際買うとしたらいくら掛かるんです?」

 

ジョンは思わず吹き出した。

「ははっ、お前らな……あの大きさの鉄の像を買って、さらに魔化(エンチャント)するんだぞ?」

 

冒険者たちは顔を見合わせる。

ジョンは指で空中にざっくりと見積もりの数字を描くようにして言った。

 

「全身鎧1着や2着分じゃ、全っ然足りねぇ。

 鉄の像だけでも相当な重量だし、魔力伝導金属の加工費もバカにならん。

 さらに魔法制御核、感応回路、装甲再生符――その全部込みで、貴族が屋敷一軒建てられるくらいは掛かる」

 

「……まじか」

「え、屋敷一軒!?」

「うわぁ……夢が遠のいたぁ」

 

ジョンは肩をすくめて笑う。

「まぁ、夢見る分にはタダだ。だが現実は、鉄の塊を動かすってのはそれだけ重いってことさ」

 

冒険者の一人が頭をかきながら呟く。

「あー……デカいもんなぁ。そうか、デカい分、材料費だけでもするか……」

 

「そういうこった」ジョンは軽く顎で示しながら言った。

「ただ、ギルドでまとめて金出して、模擬戦用に一体くらいなら貸してやってもいいかもな。

 壊したら修理費込みで倍額な」

 

冒険者たちは一斉に苦笑し、顔を見合わせた。

「……ジョン様、それ結局“売ってくれない”ってやつですね?」

「正解」

 

ジョンはにやりと笑い、肩の後ろで手を組む。

「ま、そう簡単に街中で“鉄の巨人バトル”されたら困るんでな」

 

冒険者たちは「ですよねー」と言いながらも、

名残惜しそうに闘技場に残された鉄の騎士を眺めていた。

 

その視線には、子供が新しいおもちゃを欲しがるような純粋な羨望と、

同時に“強さ”への渇望が、確かに宿っていた。

 

ジョンは腕を組み、顎に手を当てて少し考え込んだ。

闘技場の熱気がまだ残る中、興奮冷めやらぬ冒険者たちが彼の言葉を待っている。

 

「……そうだな」

ゆっくりと口を開くジョンの声に、周囲のざわめきが静まっていく。

 

「ミスリル級くらいの腕があるなら……“鉄の騎士”を扱う資格はあるかもな」

 

冒険者たちは息を呑む。

ジョンは続ける。

 

「ただし――“天狼”“虹”“四武器(しぶき)”クラス。

 あの辺りの連中と肩を並べるくらいの腕があれば、だ」

 

「……天狼!?」

「虹の連中って、あのモックナックのチームのか!?」「四武器って、帝国でも噂の――」

 

驚きと畏怖の声があがる。

ジョンは苦笑しながら、鋭い視線で彼らを見渡した。

 

「鉄の騎士はな、力押しで振り回すもんじゃねぇ。

 命令と魔力操作を同時に行いながら、周囲の状況を読み取る。

 心が乱れたら、あっという間に制御不能になって暴走する。

 だからこそ――扱える奴は限られてる」

 

彼の背後では、修復中の鉄の騎士が静かに立っていた。

金属の軋む音が、まるで“誇り”のように響く。

 

「お前らも腕を磨け。もし“天狼”や“虹”に並ぶ実力を手に入れたら――」

ジョンは口角を上げ、にやりと笑った。

「その時は、“鉄の騎士”を買うどころか、自分専用にカスタムしてやるよ」

 

冒険者たちの目が一斉に輝いた。

 

「マジっすか!?」「よっしゃ、やる気出てきた!」「俺、“虹”越えるわ!」

「いやお前、昨日まで銅級だったろ」「……気持ちの問題だ!」

 

笑い声と歓声が闘技場を包む。

ジョンは溜息をつきながらも、満更でもない顔をしていた。

 

「……ったく、単純で助かるな」

肩の上でミリヤが尻尾を揺らし、くぐもった笑い声を漏らす。

 

「あーしは好きだよ、ジョン。こういう“釣り方”上手いとこ」

「商売の基本だよ。夢を見せるってやつだ」

 

闘技場の観客席では、早くも“鉄の騎士に乗れる日を目指すチーム”が結成されつつあった。

――ジョンの一言が、新たな冒険者たちの火を灯したのだった。

 

ジョンは笑いを噛み殺しながら、肩をすくめた。

興奮して目を輝かせる冒険者たちを前に、わざとらしくぼそりと付け加える。

 

「――まあ、ミスリル級になったら、素の方が強くなってるんだがな。」

 

一瞬、静寂。

次の瞬間、冒険者たちの顔が一斉に引きつった。

 

「……え?」

「お、おい待て、それ先に言えよ!」

「えっ!? 頑張って強くなったら、乗る意味なくなるの!?」

 

ジョンは両手を上げて、にやりと笑う。

「当たり前だろ。ミスリル級ってのは、すでに人間離れした戦闘技術と魔力操作を身につけてる。

 鉄の騎士なんかより、よっぽど正確に、速く、強く動ける。

 機械の補助が要らなくなるレベルってことだ」

 

冒険者の一人が、苦笑しながら頭を掻く。

「うわ……夢、急に現実的になったな……」

「でもよ、あの巨体で暴れてみたい気持ちはわかるだろ?」

 

「だな。ロマンだよな」

「うん、ロマンは大事」

 

ジョンは肩を叩きながら笑った。

「そうそう。ロマンは現実より高ぇ位置にある。

 でもまあ、せいぜい“素で鉄の騎士に勝てるようになる”くらいは目指せよ。

 そしたら、俺が模擬戦してやる」

 

冒険者たちは一斉に立ち上がり、拳を突き上げた。

「うおおっ! 覚えたからなジョン様ぁ!」

「ミスリル級になって、絶対勝負申し込む!」

 

ジョンは笑いながら片手を振った。

「おう、その頃には俺も暇してるといいな」

 

ミリヤが肩の上で尾を揺らし、口の端を上げる。

「あーしは知ってるぜ、ジョン。あんた絶対その頃、暇してねぇ」

「……だな。たぶんまた変なの作ってる」

 

夜の闘技場に、笑い声が響いた。

鉄の騎士の金属光沢が、月明かりを反射してきらめいていた。

 

ジョンは腕を組み、鉄の騎士の脚部を軽く叩いた。

金属が鈍く鳴り、集まっていた冒険者たちが耳を傾ける。

 

「――で、どうしても“鉄の騎士”に乗りたいってんなら、軍に入るんだな。」

 

冒険者のひとりが身を乗り出す。

「やっぱ軍っすか……でも、あれ個人で買えたら最強じゃね?」

 

ジョンは苦笑しながら首を振った。

「そりゃ無理だ。あれは銀級、金級の騎士をミスリル・オリハルコン級に押し上げるために開発された国家兵器だ。

 もともと単独運用なんて想定してねぇ」

 

別の冒険者が食い下がるように言う。

「でもさ、俺ら冒険者だって命懸けで戦ってんだ。使ってもいいだろ?」

 

ジョンは片眉を上げて、静かに言った。

「……お前ら、鍛冶師や魔化魔術師を連れて歩けるのか?」

 

「え?」

 

「“鉄の騎士”はな、戦闘のたびに修理・魔力再調整が必要だ。

 装甲が歪めば魔力伝導率が落ちるし、武装を換装するにも専属の工兵部隊がいる。

 あれは“戦う兵器”であると同時に、“整備される前提の兵器”なんだ。

 冒険者みたいな個人単位で扱うのは、正直、無理がある」

 

冒険者たちは顔を見合わせ、なんとも言えない表情を浮かべた。

「……つまり、壊れたら終わりってことか」

「終わりどころか、戦場で動かなくなるぞ。下手したら中で圧死だ」

 

ジョンは軽く息を吐き、続ける。

「帝国軍でも、身元のしっかりした騎士しか乗れねぇ。

 整備班・魔導技術者・戦術補助魔法の三拍子が揃ってようやく一機が動く。

 “俺つえぇ”って気分で動かすようなもんじゃねぇ」

 

「……そりゃ、俺らには荷が重いわな」

「だがよ、憧れる気持ちはわかるだろ?」

 

「うん、ロマンは大事だよな」

 

ジョンは笑って、肩をすくめた。

「ロマンは否定しねぇ。だがな、使うには覚悟と体制が要る。

 それが“兵器”ってやつだ」

 

そう言って彼は顎をしゃくり、広場の奥――エ・ランテルの方向を指した。

 

「……もし本気で乗りたいなら、**これからエ・ランテルに配備される“鉄の騎士団”**に志願するんだな。

 そこなら冒険者上がりの志願も受け入れる。

 戦闘経験と魔力制御があれば、パイロット候補になるチャンスはある」

 

冒険者たちの目が輝く。

「マジか!」「本気で訓練すりゃいけるのか!」

 

ジョンは片手を上げて笑う。

「まあ、覚悟しとけよ。あれに乗るってのは、ただ強くなるって意味じゃない。

 ――国を背負って戦うってことだ」

 

肩の上でミリヤが尻尾を揺らしながら笑う。

「あーし的には、ジョンが整備してるときの方が好きだな。機械の匂いが落ち着く」

「お前は油臭いの似合うもんな」

「今の褒めてないだろ!」

 

ジョンが笑い、冒険者たちもつられて笑う。

その笑い声の奥には、戦場と夢の狭間で揺れる“鉄の騎士”への憧れが、静かに燃えていた。

 

 

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