オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春31

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン 蘇生区画・簡易休憩室 /*/

 

 

青白い灯り石の下、若い冒険者たちが並んで座っていた。

蘇生魔法の後に流し込まれた生命力のせいで、全身がまだじんじんと痛む。

息を吸うたびに胸の奥が灼けるようで、指先が自分のものではないような感覚が続いている。

 

壁際では神官が帳簿に羽根ペンを走らせていた。

彼女の手元には、淡く光る〈蘇生記録札〉が並んでいる。

そこには、彼らがどの階層で死に、どんな原因で命を落としたかが、冷たく正確に記されていた。

 

「――はい、これで全員、生還っと」

神官は無表情のままペンを置いた。

「ただし、次の挑戦には“精神安定観察期間”を置くこと。三日間、地上待機です」

 

その声に、パーティの誰も返事をしなかった。

沈黙。

ただ、誰もが誰かを睨んでいた。

 

やがて、剣士が低く呟いた。

「……お前のせいだよな」

 

「俺!?」盗賊が目を見開く。

「お前が合図もなく突っ込んだからだろ!」

「合図待ってたらスケルトンが押し寄せてたじゃねぇか!」

「でも罠が作動したのはお前が壁に触ったからだろ!」

「いや、最初に火球撃ったのは魔法使いだろが!」

「はぁ!? 確認くらいしたって言ったじゃん!」

 

怒鳴り声と責任の押し付け合いが、狭い部屋に響く。

僧侶が止めようと両手を広げたが、誰も耳を貸さなかった。

“死の恐怖”を共有したはずの彼らの絆は、たった数分で音を立てて崩れていく。

 

「もうやってられねぇ!」

剣士が椅子を蹴って立ち上がり、荷物を乱暴にまとめる。

「俺は抜ける!」

「勝手にしろ!」

「お前のほうがいらねぇんだよ!」

「は? 俺がいなきゃ扉も開けられねぇくせに!」

 

罵声。

椅子が倒れる音。

魔法使いが泣き出し、僧侶が頭を抱える。

やがて、剣士が部屋を出ていき、盗賊もそれを追った。

残されたのは、言葉を失った二人だけ。

 

冷たい風が蘇生魔法の残滓を揺らした。

神官は何も言わず、帳簿に新たな一行を加えた。

 

《パーティ〈鋼の燕〉 第三層訓練にて死亡・再生 内部不和により解散》

 

羽根ペンが乾いた音を立てる。

 

 

/*/

 

 

数日後。

エ・ランテル冒険者組合の掲示板には、新しい張り紙が貼られていた。

 

《剣士募集・罠対策経験者希望》

《神官・魔法使い求む・再挑戦パーティ》

《元“鋼の燕”メンバーです 一緒にリベンジしませんか?》

 

――こうした紙は、いつも数日で消える。

同じような顔ぶれが、少しだけ編成を変えて再挑戦に向かうからだ。

そしてまた、ダンジョンのどこかで罠が作動する。

 

崩落。毒霧。落とし穴。

断末魔の叫び。

訓練ダンジョンの記録板には、無機質な文字が追加される。

 

《第六層・全滅》

《第五層・毒ガスによる死亡》

《第三層・扉圧死》

 

それはまるで、街の成長のために必要な“統計”のようだった。

 

 

/*/

 

 

清掃班詰所。

バニアラ班長は記録板を見ながら、深く息を吐いた。

「結局ね……どの罠も、人の心のほうが脆いんだよ」

 

老人が笑う。

「反省しねぇ奴は死ぬ。けど、許せねぇ奴も死ぬ。

 結局、生き残るのは“反省して、許す”連中だけだ」

 

若者が手を止めて振り向く。

「そんなの、訓練で学ぶことかね?」

 

「学ぶさ」

バニアラは淡々と返す。

「ここは“罠のダンジョン”じゃない。“心を試すダンジョン”なんだよ」

 

大男が無言で頷き、黙々と使い古した布を洗っていた。

血の色が水面に広がり、やがて透明に戻る。

 

バニアラは記録板を閉じ、外の薄明かりを見つめた。

「次の組が来る。罠はもう整備済み?」

「完了っす」若者が答える。

「なら、今日も仕事だね」

 

静かな通路に足音が消えていく。

その先では、また新しいパーティが、同じ罠に挑む準備をしていた。

 

そしてダンジョンは、何事もなかったかのように冒険者たちを迎え入れる。

許し合う者は進み、責め合う者は潰える。

それが、この街の“教育”という名の現実だった。

 

 

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