オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 魔導国・ナザリック地下大墳墓 第9階層・執務室 朝 /*/
薄く香る焙煎豆の匂いと、かすかな甘い煙が漂う。
モモンガの執務室では、いつもの“朝の報告書読み合わせ”が静かに進んでいた。
長卓の上には、整然と積まれた書類の山。
ジョンは珈琲の湯気を眺めながら椅子にもたれ、
ぐりもあは紅茶のカップを両手で包み込み、
玉座の主モモンガは、水タバコをゆったりとくゆらせている。
ページをめくる音と、時折の咳払いだけが響く。
やがてジョンが書類の一枚を見つめ、ぽつりと呟いた。
「うーん、どうしようかな」
ぐりもあがカップを置き、興味深そうに首を傾げる。
「ジョンさん、どうしました?」
ジョンは片肘をつきながら、気だるげに笑った。
「農産物の依頼なんだけどさ――“指定の堆肥を使った農産物が欲しい”って注文が結構きてて、どうしたもんかと」
モモンガは水タバコの煙をゆっくりと吐き出しながら、
「ふむ……堆肥を指定、ですか。普通の肥料ではなく?」
「いや、普通じゃない。“特別な出処”の堆肥が欲しいらしい」
ぐりもあの目が鋭く細くなる。
「……まさかとは思いますが、どこの出処です?」
ジョンは肩をすくめ、わざとらしく小声で言った。
「ラナーの排泄物で作った堆肥で育てた農産物が欲しい、とかの注文でも?」
一瞬、空気が止まった。
モモンガの手から水タバコの煙がすうっと消える。
「……それは……」
ぐりもあが紅茶を飲みかけたまま動きを止め、
やがて小さく吹き出してから、肩を震わせながら言った。
「また、随分と上級な変態紳士がいますねぇ……」
ジョンは苦笑しつつ、机に書類を放り出す。
「いくらでも出すって言ってんだよ。でも、さすがにそれだけ別で堆肥作るのも手間だし、
ラナーに“堆肥に使っていい?”って聞くのもどうかと思ってさ」
モモンガはこめかみに手を当てたまま、静かにため息をついた。
「……ジョンさん。あなたの周囲、なぜそんな依頼ばかり集まるんです?」
ぐりもあはすました顔で紅茶をすすりながら、
「ジョンさんって、“変な注文を実現できそうな人”って顔してますからねぇ」
ジョンは肩をすくめた。
「そんな顔してるか?」
「ええ、“この人なら一線を越えてくれる”って顔です」
モモンガは額を押さえ、静かに呟く。
「……ナザリックの評判が、また別方向に伸びそうですね」
その横でジョンは苦笑しながらも、真面目な口調で続けた。
「とはいえ、堆肥の研究としては悪くないんだよな。
菌の分解過程と魔素の循環が普通のより優れてる。
ただ――“ブランド堆肥”として売るには名前が悪すぎる」
「“王堆(おうたい)ブランド”とか?」
「字面だけ見りゃ高級そうだな……中身が地獄だけど」
「……いっそ、名義だけ匿名にしましょう。“某王族系堆肥”とか」
「あぁ、それならラナーも気づかないかもな」
「いや気づくと思いますよ、あの人」
三人の間に、ため息混じりの笑いが広がった。
今日もまた、魔導国の一日は妙なところから始まるのだった。