オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 第二海域〈竜王国沿岸〉 ――通称・金砂の海 /*/
砂漠の延長のような海岸線が、灼熱の陽光に輝いていた。
空気は熱く乾き、水平線の彼方まで揺らめく蜃気楼が立ち上る。
海面は金色の光を反射し、風は潮と砂の香りを同時に運んでくる。
その水面下、深く沈んだ静寂の中――
三隻の《リヴァイアサン級》が、ゆるやかに陣形を組んでいた。
艦首に刻まれた金のルーンが淡く輝き、周囲の海流を読み取っている。
指令艦《リヴァイアサン・マリアナ》の艦内制御核では、ジョンの声が低く響いた。
「……よし。潮流安定。浮力中層、問題なし。
ぐりもあさん、上空の監視、リンクできてるか?」
〈アインズ・アイ第三号〉からの通信が、静かに魔導盤へと流れ込む。
『リンク良好。海流データを更新――表層温度三十二度、南西風七ノット。
付近に民間船なし。……美しいですね、まるで金の絨毯みたいです』
ジョンは苦笑した。
「見とれるなよ、ぐりもあさん。ここは“砂漠の海”だ。油断したら一瞬で蒸発する」
艦の外殻に刻まれた〈水中活動〉ルーンが光り、水の抵抗を消し去っていく。
音も泡も立てず、艦はまるで影そのもののように海底を滑る。
その軌跡を、人工衛星が上空から金の光線でなぞる。
――竜王国の沿岸都市カハール。
白い石造りの港町の裏手で、交易商人たちが香辛料を運び出していた。
彼らの目には見えぬ遥か沖を、リヴァイアサン艦が無音で通過していく。
「……この海域の魔力流、面白いな」
ジョンは通信越しに言った。
「風脈と潮の境目で、まるで“呼吸”してる。気功的に言えば、ここは世界の横隔膜だ」
ぐりもあの声が弾む。
「横隔膜……つまり、世界が息をしている場所、ですね!」
「そう。
気流も潮流も、大陸の生命の循環の一部だ。
この艦はその“呼吸の流れ”を読むための道具だ――戦うためじゃない」
艦の上部センサーが光を放ち、周囲数十キロの魔力流を解析する。
波のうねり、海底の温度変化、魔力の乱流が立体的な地図として浮かび上がった。
それはまるで、巨大な生命体の血管を覗き見るかのような光景だった。
「ジョンさん」
ぐりもあの声が、通信の向こうで少し柔らかくなった。
「これが……ナザリックの“海の呼吸”なんですね」
ジョンは少しだけ笑って、低く答える。
「ああ。だからこそ、この艦は沈黙していなきゃならない。
海の声を聞くには、自分の息を止めるんだ」
その時、衛星からの警告音が鳴った。
〈アインズ・アイ〉第五号が、新たな光点を捕捉する。
「接近反応――大型魔獣、種別不明。距離三千。進路、こちらに向かってます」
ジョンは立ち上がり、通信を切り替えた。
「……来たか。いいテストだな。リヴァイアサン全艦、迎撃ではなく回避行動――“海流に身を任せろ”。
戦うな、溶けろ。海の一部になれ」
その指示の直後、三隻の艦影が淡く光り、まるで波の中に吸い込まれるように消えた。
表層では、巨大な鱗をもつ海竜が海面を割り、怒涛のような咆哮を上げる。
しかしそこには、何もいない。音も、影も。
上空の〈アインズ・アイ〉が、その光景を無音で記録する。
海は、再び静かに呼吸を始めた。
ジョンは目を閉じ、呟いた。
「……これでいい。俺たちは戦士じゃない。
この海を“壊さない力”で包む、それがナザリックの流儀だ」
衛星と艦隊、そして深海の気流がひとつに重なり、
海と空の“気”が交差する――まるでこの惑星が、一瞬、意志を持ったかのように。
――第二海域〈竜王国沿岸〉。
金砂の海を進むリヴァイアサン群は、静かに地平線の向こうへ消えていった。