オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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星に焦がれて

 

 

/*/エ・ランテル 魔導国学院・上級魔法理論講堂/*/

 

 

夜の講堂。

ランプの光が揺らめく中、イビルアイとケネウスは長机を挟んで向かい合っていた。

机の上には解体しかけの魔導書、魔力計測装置、そして山のような紙束。

 

「……そう言えば、イビルアイさんって、第九位階魔法は〈グラスプ・ハート〉しか使えないんですよね?」

ケネウスがペンを回しながら問いかける。

 

イビルアイは口元を隠すようにフードを整え、赤い瞳をわずかに細めた。

「……ああ。魔導王陛下から頂いたストレージ・オブ・メモリーに記録されているのは、それだけだ。

 厳密には“使用できる”というより“展開可能”という段階だな」

 

「なるほど……つまり、それ以外の第九位階魔法はまだ――」

「――研究中、だ」

 

イビルアイは机の上の魔導陣図を軽く叩いた。

「第六位階以降になると、もう既存の魔導書には“理論枠”すら残っていない。

 伝承や逸話、神話級アイテムの記録から逆算して、仮説を立てるしかないんだ」

 

ケネウスは眉をひそめる。

「つまり……文献に“存在の証拠”が無い段階から、自力で再現してるってことですか?」

 

「ああ。第八位階までは“術式構造”の系譜が残っている。だが第九位階以降は“奇跡”と呼ばれていた領域だ。

 理論も系統も存在しない。だから、私たちはそれを一から“再構築”している」

 

彼女の声は静かで、けれど不思議な熱を帯びていた。

赤黒い魔力線がにじむメモ用紙を前に、ケネウスはその横顔を見つめていた。

理論を語る彼女の姿に、ひとつの星を見るような感覚を覚える。

 

「……いつか、本当に第九位階を“自分の手”で再現してみせるさ」

イビルアイが呟く。

ケネウスは微笑んで頷いた。

「その日が来るまで、俺も隣で見ていますよ。だって、俺も研究者ですから」

 

イビルアイはその言葉にふっと笑みを返した。

「ふふ……なら退屈しないよう努力するんだな、若者」

 

ランプの火が二人の影を長く伸ばし、講堂の闇に溶かしていった。

 

――そして。

 

 

/*/禁書閲覧室/*/

 

 

午後の陽光が窓から差し込み、埃の粒が金色に踊っていた。

ケネウスは大きな机に古文書を広げ、隣の少女――まだ幼い姿のイビルアイをちらりと見る。

 

「……ケネウス。人の顔をそんなに見て、文字が読めるのか?」

「いや、その……君の顔のほうが見やすくて」

 

イビルアイの頬がわずかに染まり、唇が震える。

「……ばか」

「ふふ、冗談ですよ」

 

二人は顔を見合わせて笑い、また古びた羊皮紙に視線を戻した。

 

「八欲王が保有したという“無銘なる呪文書《ネームレス・スペルブック》”があれば……

 この世の全ての魔法が自動で追記されると言うからな」

 

「それ、ほんとにあるんですか?」

「伝説だ。けれど、あながち嘘とも限らない」

 

彼女の赤い瞳が光を受け、まるで宝石のように輝く。

ケネウスの胸が静かに鳴る。

 

「……なら、俺が探してくる。《エリュエンティウ》。その本が眠ってる天空の都に」

「な、何を言ってる。あそこは地図にも――」

「それでもいい。君が知りたい魔法がそこにあるなら、行く価値がある」

 

沈黙。

蝋燭の炎が小さく揺れる。

 

「……そんなこと言って、私を喜ばせようとしているんだろう?」

「うん、そうだよ。君が笑うのが好きだから」

 

イビルアイの胸が、少し痛くなる。

「……ばか。そんなこと言っても、私は子供の身体だぞ」

「俺もだよ」

 

その言葉に、イビルアイは目を伏せて、そっと笑った。

机の上で二人の指が触れ合う。

 

「……見つけてきたら、教えてくれ。その時は――一緒に読もう」

「約束だ。どんな魔法が書いてあっても、君と一緒に」

 

蝋燭の火がぱちりと弾け、二人の影が重なった。

それはまるで――まだ名もない“恋の呪文”が発動したかのようだった。

 

――その夜、窓の外には満月。

イビルアイの胸の奥では、初めて知る温もりが、魔力のように静かに灯っていた。

 

 

/*/ナザリック地下大墳墓 第9階層・モモンガの執務室/*/

 

 

魔導スクリーンに、エ・ランテルの学院の様子が投影されていた。

禁書閲覧室の中、赤い瞳の少年少女――ケネウスとイビルアイが並んで魔導書を開き、

小さな蝋燭の灯の中で見つめ合っている。

 

その光景を見て、ジョンが椅子の背にどっかりもたれ、

鼻にかかった声で叫んだ。

 

「いいねぇ! いいよぉ! これこそ青春だぁぁ!」

 

ぐりもあが慌ててジョンの口を押さえる。

「しーっ! 聞こえちゃいますって! ジョンさん、ほんと好きですねぇ」

 

ジョンは口を離されるや否や、ニヤリと笑って指を鳴らす。

「そんなこと言って、ぐりもあさんも好きでしょ。青春も、恋も、あの手の甘酸っぱいやつも!」

ぐりもあは胸を張って、即答した。

「好物です!」

 

モモンガがこめかみを押さえた。

「……君らね。こっちは真面目に魔導学院の研究成果を確認してるんだが?」

 

ジョンは腕を組んで、すました顔で言う。

「モモンガさん、自分だけ“良識野郎”ぶったってそうはいきませんよ」

 

「良識……ぶ、ぶったって、私はだな!」

「内心、“若いっていいなぁ”とか思ってるでしょ?」

「思ってない!」

「絶対思ってる!」

 

ぐりもあは吹き出しそうになりながら、両手で口を押さえた。

「モモンガさん、ジョンさんの言うこと図星なんじゃ……」

「ぐりもあさんまで!?」

 

ジョンは大笑いして、スクリーンを指差した。

「ほら、見てくださいよモモンガさん。

 この指先が触れる瞬間、あの“ドクン”っていう心臓の動き――魔導書より尊い!」

 

モモンガは長いため息をついた。

「……まったく。君らの研究対象がいつもロマンチック方面に偏る理由がよく分かったよ」

 

「ロマンはエネルギーです!」

ぐりもあが胸を張る。

「青春も、恋も、情熱も、魔力の循環に似てますから!」

 

ジョンは満足げに頷いた。

「さすがぐりもあさん、分かってる。恋は燃焼系マナ反応なんですよ!」

 

モモンガは頭を抱え、机に突っ伏した。

「……お願いだから、君らの研究報告には“青春の波動”とか書かないでくれ」

 

「はい、“青春式魔力干渉理論”にしておきます!」

「変わってない!!」

 

三人の声がナザリックの静謐を破り、

観測室のスクリーンの中では、二人の若い研究者がそっと手を重ねていた。

 

モモンガはその光景を一瞥し、

かすかに笑みを漏らした――骸骨の顔に、ほんの一瞬だけ、柔らかな影が宿った。

 

 

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