オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓第9層・モモンガの執務室 /*/
書類の山と、静まり返った魔導灯の光。
いつもの“地獄の朝会”が始まっていた。
モモンガが椅子に深く腰を下ろし、報告書をめくる。
その机の端で、ジョンとぐりもあが珈琲を飲んでいる。
「――ジルクニフにさ、“帝国には絶対にやるなよ”って、
あの獣化兵の件で釘を刺されちまった。」
ジョンが苦笑まじりに言うと、モモンガがペンを止めた。
「まあ当然でしょう。あれはもはや“兵士”というより“神話級生命体”ですよ。
帝国が見たら震え上がりますよ。」
ぐりもあは足を組み、書類の山を眺めながら肩をすくめた。
「帝国は理性的ですね。
もっと狂気に染まれよ。
理性なんて、世界を変えた試しがないんですから。」
モモンガはゆっくり顔を上げる。
「……なに外なる神みたいな事言ってるんですか、あなた。」
「事実じゃないですかー。
人を神にするなんて、理性で止められる範囲の話じゃないですよ。」
ジョンは笑いながら椅子を回転させ、机に肘をつく。
「ま、あの法国の連中は止まらねぇよ。
祈ってるうちに自分を創造しはじめたからな。
でも――鉄の騎士vs獣化兵なら、良い勝負するだろ。」
モモンガの眼窩が光る。
「……冗談でしょう? 鉄の騎士は機械の合理、獣化兵は信仰の狂気。
戦わせたら文明と狂気の代理戦争じゃないですか。」
ぐりもあは微笑む。
「だから面白いんですよ。
どっちが“人の進化”を証明するか。
魂を捨てた鉄か、理性を捨てた獣か。」
ジョンは顎に手を当て、にやりと笑う。
「どっちに転んでも勝ちだな。
……あ、でもそうなったら鉄の騎士の修理、こっち持ちなんだよな。」
モモンガが沈黙し、頭を抱えた。
「それは……やめてください。本気で頭が痛くなる。」
ぐりもあは平然とコーヒーを飲み干す。
「じゃあこうしましょう。鉄の騎士に獣化用外骨格をつけて、
“鉄獣混成体”として実験――」
「待て待て待て!」
モモンガが叫ぶ。
「それ以上はもう人類どころか理性の敗北です!」
ジョンは肩をすくめ、笑いながら立ち上がった。
「おいモモンガ。世界が壊れんのはいつも“理性の勝利”のあとだぜ。」
モモンガはため息をつき、手元の報告書を閉じる。
「……やっぱり、あなたたちを一緒に置いておくのは間違いだった気がする。」
地下の照明が一瞬だけ明滅した。
鉄と血と信仰、そして笑い。
その混ざり合う音が、ナザリックの深層に静かに響いていた。
/*/ ナザリック地下大墳墓 第9層・モモンガの執務室 /*/
書類の山が天井まで積み上がり、静寂の中でペンの音だけが響く。
モモンガは仕事に没頭していた――が、ドアが勢いよく開く。
ジョンが腕を組んで立っていた。ぐりもあがその後ろから覗き込む。
「……モモンガさん。俺、ずっと思ってたんだけどさ。」
「ん? なんですか、ジョンさん。」
「そもそもモモンガさんが結婚したのに――アルベド連れて新婚旅行にいかないのがいけない。」
「な、なぜ!?」
ペンが止まり、書類の上にインクがこぼれた。
ジョンは真顔で頷く。
「仕事ばっかしてるから、俺たちが暇になって――余計な事をしちまうんだよ!」
ぐりもあが即座に頷く。
「一理ある。」
モモンガは頭を抱えた。
「暴論! 完全に暴論ですよそれ!」
「だってよ、見ろこの国。神人が生まれたり獣化兵が暴れてたり、帝国が理性でブレーキかけたり……
だいたい全部、モモンガさんが“家族サービス”してないせいだぞ。」
「どういう因果関係ですか!?」
ぐりもあは腕を組み、冷静な口調で補足する。
「モモンガさんが留守なら、私たちが勝手に仕事します。
つまり、問題の根本は――モモンガさんが“ずっといる”ことなんですよ。」
「いやいやいや! 普通逆でしょう!? 主がいない方が問題でしょう!?」
ジョンは肩をすくめ、呆れたように笑った。
「ま、今からでも遅くねぇよ。アルベド連れてどっか行ってこい。
海でも温泉でも火山でも。こっちはぐりもあと回しとく。」
「余計に不安だ! 仕事が全部“ぐりもあ基準”になるじゃないですか!」
「大丈夫ですよ、モモンガさん。」
ぐりもあが微笑んだ。
「私、ちゃんと報告書は出します。“世界再創造進行度・30%”って。」
「ちょっと待って!? なに勝手に世界創りはじめてるんですか!?」
ジョンは笑いながらぐりもあの肩を叩いた。
「ほら見ろ、モモンガさんがツッコむ余裕あるうちに行け。
今なら旅行先で“愛のダイブ”とか言っても照れるだけで済むぞ。」
「やめなさい! アルベドの前でそんな単語言ったら大惨事になりますよ!」
「それぐらいで壊れる夫婦関係じゃねぇだろ? なあ?」
ジョンがにやりと笑う。
ぐりもあは満面の笑みでうなずいた。
「うん。むしろ強化されますよ。いろんな意味で。」
「やめろォォォ!!」
モモンガの悲鳴が第9層に響き渡り、
外の廊下で控えていたデミウルゴスが首を傾げた。
「……おや。今の悲鳴、幸福の悲鳴でしょうか?」
それを聞いたシャルティアが微笑む。
「んっふ……奥様との営みじゃないかしらぁ♪」
第9層の空気が、なぜかほんの少しだけ平和になった。