オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/エ・ランテル 冒険者訓練場裏の整備小屋/*/
朝の光が差し込み、外では冒険者たちが掛け声を上げて訓練している。
ジョンは作業台の上にひとつの黒金の腕輪を置き、
油のついた手を布で拭いながら言った。
「ケネウス、これやるよ」
「……腕輪?」
ケネウスが首をかしげて手に取ると、表面の魔法刻印が淡く光った。
ジョンはにやりと笑う。
「《準備の腕輪(ブレスレット・オブ・リロード)》だ。
装備を4セット登録して瞬時に切り替え出来る。
たとえば――“フル装備”、“軽装”、“研究用”、“緊急回避”とか、
用途に合わせて登録しとけば、状況に応じて一瞬で装備を替えられる」
ケネウスの瞳がきらりと輝く。
「……すごい。これ、魔導国製ですよね?
魔法陣式の切り替え装備って法国でもまだ試作段階なのに」
ジョンは肩をすくめた。
「試作ってほどでもないさ。ぐりもあが“効率化の鬼”になったおかげで量産の目処がついた。
ただ、これ作るのに結構な魔力触媒食うんだよな」
ケネウスは腕輪を見つめ、指で魔法陣をなぞった。
「これを使えば……戦闘中でも一瞬で戦術転換ができる。
魔法装備から剣術装備への切り替え……夢のようですね」
ジョンは軽く笑いながらケネウスの肩を叩いた。
「お前のフル装備、めちゃくちゃごっついからな。
いちいち着脱してたら敵に先に笑われるぞ」
ケネウスは少し照れたように頬をかく。
「そ、それは……防御力重視の構成ですし。
ほら、リッチとか吸血鬼とか、相手が固いじゃないですか」
「その理屈は分かるけどな。
でも実際は――速さが命だ。装備も考え方も。
“切り替えができる”ってことは、戦い方を変えられるってことだ」
ジョンはそう言って、彼の腕輪に軽く魔力を流し込んだ。
金属の表面に青い光が走り、内部の魔法陣が展開する。
「登録完了。これで“お前専用”だ。
あとは自分で装備を刻み込め。失敗しても燃えたりはしないから安心しろ」
ケネウスは腕輪を大事そうに腕にはめ、ゆっくりと息を吐いた。
「……ありがとうございます、神獣様。
これでようやく、あの連中に後れを取らずに済みそうです」
ジョンは笑い、窓の外の陽を見上げた。
「後れを取らない、か。いい言葉だな。
じゃあ次は、“誰よりも速く勝つ”を目標にしてみろ」
ケネウスは真剣な顔で頷く。
その背後で、ジョンの口元にわずかな満足げな笑みが浮かんでいた。
外では、朝の鐘が鳴り響く。
冒険者たちの喧騒に混じって、
金属が鳴るような微かな音が、
新しい装備が覚醒するように、静かに響いていた。
/*/エ・ランテル 冒険者組合・開発室/*/
机の上には、魔導国製の新装備《準備の腕輪》の試作品が並んでいた。
ケネウスに渡したものと同じ型だが、色違いの赤い宝珠が埋め込まれている。
ジョンが図面を片付けていると――背後から、小さな影がぬるりと現れた。
「……ジョン」
「ん? おお、イビルアイ。どうした?」
「その腕輪、私にも欲しい」
ジョンが目を瞬かせる。
「お前、そんなの要らないじゃんかよ。装備、いつも固定だろ?」
イビルアイはフードの下で目を細め、
少し咳払いしてから理屈っぽく言った。
「い、いや……その……常に同じ装備というのは、状況対応力に欠ける。
冒険者としては、TPOに応じて装備を付け替えられる必要がある」
ジョンは腕を組んでニヤニヤしながら首を傾げた。
「ふーん。TPOねぇ……はーん、つまり――」
「……な、なに?」
「お洒落したいってことか」
「なっ……!」
イビルアイの声が一段跳ねる。
ジョンは笑いを堪えきれず、口元を隠した。
「いやー変われば変わるもんだなー。
昔は“黒衣の死神”とか言われてたお前が、今じゃ“着せ替え好きの魔法少女”か」
「ち、ちがっ、ちがう! これはあくまで機能性の――!」
「分かった分かった、みなまで言うな」
ジョンは片手を上げ、にやりと笑う。
「じゃあ、デカダン・スタイルの戦闘舞踏服も付けてやるよ。赤と黒か?」
「な、ななな……」
イビルアイの顔が真っ赤になり、フードの奥から視線を逸らす。
「……べ、別に赤と黒にこだわりは……いや、統一感は大事だが……」
ジョンは笑いながら机の引き出しを開け、
魔導布のサンプル束を取り出してイビルアイの前に並べた。
「はいはい、分かりましたお嬢様。
赤黒、もしくは差し色に金か銀、どっちにする?」
「……銀、で」
「おっ、分かってるじゃん。血より月光派ね」
「う、うるさい……!」
イビルアイはフードを深くかぶりなおしながら、
指先で机をとんとん叩いた。
「……本当に作ってくれるのか?」
「もちろんだ。ぐりもあに頼めば、
“機能性と可愛さの両立”ってやつを完璧に仕上げてくれる」
「可愛さは要らん!」
ジョンは吹き出すように笑った。
「まーまー、出来上がったら文句言うなよ。
どうせ気に入って、次の日には色違い欲しいとか言うんだから」
「……っ! そんなこと――ない!」
フードの奥で耳まで真っ赤にして俯くイビルアイ。
その横顔を見ながら、ジョンは口笛を吹いて言った。
「はーい、了解。じゃあ、
“第九位階魔法対応・赤黒デカダン・フルコンバットモード”で登録しておくわ」
「……名前が長すぎるっ!」
笑い声が開発室に響き、
ジョンは楽しそうに工具を回した。
イビルアイは顔を真っ赤にしながら、
それでもその腕輪が出来上がるのを、少しだけ嬉しそうに待っていた。
/*/エ・ランテル 冒険者組合・開発室(午後)/*/
ジョンが作業台で《準備の腕輪》の最終調整をしていると、
扉の向こうから賑やかな足音が聞こえてきた。
「ジョーン!」
「ジョン様、聞いたわよ!」
扉が開き、ラキュースとガガーランが勢いよく入ってきた。
その後ろにティナとティアが、ため息交じりに並んでいる。
ジョンは工具を置きながら眉を上げた。
「うわ、どうしたんだよお前ら。なんか昼から声がデカいな」
ラキュースは腰に手を当てて、きらきらとした目で言った。
「イビルアイが言っていたわ。『準備の腕輪』なる便利な装備をもらったと!」
ガガーランがニヤリと笑って腕を組む。
「アタシらにもくれよ、ジョン! 鎧の着脱に毎回三人がかりなんだよなー。
あれが一瞬で出来るなら、そりゃ欲しいに決まってる!」
ジョンは苦笑しながら頷いた。
「確かに、戦士系は鎧の着脱が大変だからあると便利だよなぁ。
……ティナとティアはどうする? あんたら軽装だろ?」
ティアが肩をすくめる。
「私たちは不要。
軽装で動きながら武器を使い分ける方が速い」
ティナも頷く。
「それに私たち、ジョンさんの《装備リロード》みたいな魔法を使うほど魔力ない」
「まあ、だよな」
ジョンは頷きながら腕輪を2つ取り出す。
「ラキュースとガガーランの分、試作型でいいか? まだ試験段階だけど」
「ええ、ぜひお願いしますわ」
ラキュースは両手を胸の前で組み、瞳を輝かせる。
「鎧姿からドレスモードに切り替えられるようにも設定できますか?」
ジョンはにやりと笑った。
「……つまりお洒落モードも欲しいってことか」
「ふ、不可抗力です!」
ラキュースが真っ赤になり、ティアがくすっと笑った。
「……イビルアイの影響ですね」
「たぶん間違いないな」ジョンは苦笑する。
ラキュースが腕輪を眺めながら首を傾げた。
「ところで……漆黒の剣の皆さんは、こういった装備を持っていないの?」
ジョンは工具を片付けながら答える。
「いや、持ってないな。
だって――ペテルは鎧きっぱなしだし。
ルクルットは野伏だから常に軽装だし、
ダインはドルイドだから金属鎧着てない。
ニニャは術者だから元から軽装だしな」
ガガーランが大笑いした。
「つまり一番必要なの、アタシらみたいな筋肉組ってわけだ!」
ジョンは肩を竦めて笑う。
「まあな。鎧職人が泣くアイテムってやつだよ。
でも戦場じゃ、装備切り替えの速さが命取りになるからな」
ラキュースは腕輪を丁寧に装着し、
「……この輝き、まるで魔導国の宝石細工のようですわ」と感嘆する。
ジョンは少し照れたように鼻をこする。
「ぐりもあさんがデザインしたんだ。
機能性だけだと味気ないからって、細部に魔導装飾を入れやがった」
「さすがですわ。美と機能の融合……素晴らしい!」
ガガーランがにやにや笑いながら、
「なぁジョン、次は“戦闘用ドレス”も頼むぜ。
動きやすくて、なおかつ見栄えがするやつ!」
ジョンは苦笑して手を振った。
「……お前らまでデカダン・スタイルに染まってどうすんだよ」
「なぁに、戦場でも女を捨てねぇのが蒼の薔薇の流儀さ!」
ラキュースが優雅に微笑み、イビルアイが隅で小さく溜め息をついた。
「……また変な流行が始まる……」
ジョンはその光景を見て肩をすくめ、
「ま、楽しそうだからいっか」と小さく呟いた。
冒険者組合の一角には、今日も笑いと金属の音が響いていた。
/*/エ・ランテル 冒険者組合・開発室 夕方/*/
ジョンがラキュースとガガーランに腕輪の調整をしてやっていると、
部屋の隅で静かに話していたティナとティアが同時に立ち上がった。
「それはそれとして――」
「――私たちも《デカダン・スタイル》の戦闘舞踏服は欲しい」
ジョンが工具を止め、顔を上げる。
「おいおい、軽装組のお前らまでか? 戦闘舞踏服ブームかよ」
ティナは腕を組み、落ち着いた声で言った。
「機動性と軽防御を両立できる衣装として実績がある。
見た目の派手さはどうでもいいけど、動きやすいのは正義」
ティアがさらりと付け加える。
「あと、スカート部分の構造がナイフを隠すのにちょうどいい」
ジョンは噴き出しそうになりながらも真顔で頷いた。
「なるほどな……あれは“美学”じゃなくて“戦術装備”ってわけか。
あいよ、デザインしとくよ」
ガガーランがニヤニヤしながら横から口を挟む。
「なー、ジョン! アタシのも頼むぞ。
どうせなら“綺麗系”か“可愛い系”で分けられるんだろ?」
ジョンは振り返り、ガガーランを見上げるようにして腕を組んだ。
「お前はなぁ……うーん、筋肉の迫力あるから“可愛い系”はきついな。
“綺麗系”で行こうか。筋肉の陰影を際立たせる光沢生地で、
肩開きのハイネック仕様にしよう。似合うぞ」
「おおっ! それはイイ!」
ガガーランが破顔して笑い、手を叩く。
ラキュースがくすりと笑いながら横で紅茶を口にする。
「ガガーランが“綺麗系”だなんて……新しい風だわね」
ジョンは肩をすくめる。
「いや、意外と似合うぞ。
で――ラキュースにはもう戦闘舞踏服やってるし……
今度はゴシックロリータでも作るか?」
「ご、ごしっ――!?」
ラキュースの目が丸くなり、紅茶を噴きかけそうになる。
「そ、そんなの、戦闘で着るものでは……っ!」
ジョンはすかさず畳みかけるように笑った。
「いやいや、動きやすくて丈夫な素材で作るし、
敵が一瞬たじろぐ“威圧効果”もある。戦闘心理学的にアリだ」
ティナが涼しい顔でうなずく。
「奇抜な装飾は、魔獣や人型敵の注意を引くのに有効」
ティアも無表情のまま添える。
「あと、撮影映えします」
「撮影てなによ撮影て!」ラキュースが頭を抱えた。
ガガーランは肩を叩いて大笑いする。
「ははは! “蒼の薔薇”がついにモデルデビューか!」
ジョンは楽しそうに図面を描きながら言った。
「よーし決まり。ティナとティアは機動仕様、
ガガーランは綺麗系、ラキュースは――“黒薔薇ロリータ”。」
「やめてぇぇぇぇ!!!」
イビルアイが隅の机で小さく溜め息をつく。
「……もう止まらないわね、この流れ」
ジョンはにやりと笑って、手元のペンを走らせた。
「止める必要あるか? 戦場も街も、楽しい方がいいだろ」
エ・ランテルの夕陽が窓を照らし、
蒼の薔薇の笑い声が、柔らかな光の中に響いた。